ういぐるふぐたん どこにいる?
本文には生成AIによる文章が使用されています。
キャラクターの台詞、設定、プロットは自身で考え
地の文等の情景や細かい描写等の文章を使用し、一部修正、書き足しをしています。
昼近くの穏やかな日差しが、休み時間の教室に降り注いでいる。
受け持ちの児童の一人である陽介が、紙にクレヨンでお絵描きをしながら歌っていた。
「♪ういぐるふぐたん ういぐるふぐたん ういぐるふぐたん どこにいる?」
耳に届いた妙な歌詞に、大祐は小首を傾げた。
(何の歌かな?)
職業柄、幼児向けのアニメや漫画、キャラクターホビー等は一通りチェックしている。
それなのに、ういぐるふぐたんという単語には一切心当たりがなかった。
「陽介くん、何を描いてるのかなー?」
大祐が陽介に近づきながら聞くと、陽介は朗らかな笑顔で振り向いていった。
「ういぐるふぐたんだよ!」
元気いっぱいの声が返ってくる。
やはりわからない。
陽介がお絵描きをしていたスケッチブックを覗いてみると、真っ白な紙には横に並んだ二つの〇と、その下に横に伸びた楕円形が描かれている。
シンプルな顔だった。
「これがういぐるふぐたんなの?」
「うん!」
陽介が屈託のない笑顔で答える。
改めてスケッチブックを見る。
丸でしか構成されていないデザインがシンプル過ぎて、やはりどのキャラクターなのかさっぱりわからない。
「陽介くん、この・・・ういぐるふぐたんってどこで見たのかな?」
大祐が屈んで陽介に目を合わせながら聞くと、陽介は大祐の腕を掴んで走り出した。
「こっちだよー!」
慌てて大祐は陽介についていく。
(?? 一体どこに行くんだ?)
疑問に思いながら陽介に連れられたのは廊下だった。
「ここ!」
陽介が廊下の一部を指さす。
大祐が陽介の指先を見てみると、廊下の壁の汚れが、横に並んだ丸が二つとその下に横に伸びた楕円形。
スケッチブックで見たのと同じ物があった。
「……これが、ういぐるふぐたんなの?」
「うん、僕が一番最初に見つけたのー!」
陽介が明るい口調で言った。
ますますわからない大祐に陽介が続けていった。
「あと、トイレの部屋の壁とか、幼稚園の門の壁にもあったの!」
陽介の説明に、大祐は段々腑に落ちてきた。
「ああ、なるほどね。確かにこれは顔に見えるね」
大祐は昔児童心理の本で得た知識を思い出した。
頭に浮かんだのはパレイドリアという単語だ。
人間の脳が起こす錯覚の一つで、人間は逆三角形に構成された丸を見ると無意識的に人間の顔と認識するらしい。
大方、この模様をういぐるふぐたんと子供たちの間で呼んでいるのだろう。
「そっか、陽介くんがさっき歌ってた歌も、みんなで作ったのかな?」
大祐が陽介に尋ねると、陽介はうーんと頭を捻った。
「わかんない」
「え?」
「歌ってたのを聞いたの!ういぐるふぐたん、ういぐるふぐたんって」
この様子だと、誰が流行の発信源かはわからなさそうだ。
そうこうしている内に休み時間が終わるチャイムが聞こえ、大祐は思考を打ち切り陽介を手を引いて自分達の教室に戻った。
ういぐるふぐたん
ういふぐるふたん
ういぐるふぐたん
どこにいる?
どこか遠くで、奇妙な歌が聞こえた気がした。
昼休みが訪れ、児童たちが一斉にお昼寝の時間に突入する。
静まり返った園舎の一角で、職員たちがようやく息をついて昼食を取り始めていた。
大祐は箸を動かしながら、先ほど廊下で遭遇した奇妙な出来事を他の教員たちに切り出す。
「ういぐるふぐたん…あー、確か私の組の子も何人か歌ってたわね」
年長の女性教員が、弁当の卵焼きを口に運びながら事も無げに応じた。
「たまにあるのよ。私達も知らない変なのを子供たちの間で作って子供たちの間で流行ったりすることって」
「そういうものなんですかね…でも、なんか怖くないですか?誰が発信源なのかわからないのが流行ったりするのって」
眉の間に自然とシワが寄る。
手元の弁当箱に視線を落とし、おかずのハンバーグを箸で小さく摘まんだ。
正体の見えない流行という現象に、どうにも背筋が薄寒くなる。
「あんまり考えすぎるのも良くないわよ、大祐先生?子供がやる事ですもの、すぐに飽きるわ」
からからと笑う女性職員の言葉に、肩の力が少しだけ抜けた。
(まぁ、確かに考えすぎかもなぁ。俺も子供の頃にオリジナルのヒーローとか作ってたし、それと似た様なものだろ)
自分を納得させるように小さく首を振る。
緊張の解けた手を動かし、ハンバーグを口に運ぼうとしたその時だった。
ぴちゃっ
「あっやべ」
ぽたりと、茶色い液体が白いデスクへ落下する。
ハンバーグにかかっていたソースが、勢いよく机についてしまった。
慌てて腰を浮かせ、近くの布巾へと手を伸ばす。
だが、広がるソースの輪郭を捉えた瞬間、思考が完全にフリーズした。
横に並んだ丸二つに、その下に横長の楕円形。
それは、ついさっき廊下の壁で見たばかりの『ういぐるふぐたん』と同じ顔だった。
(…いやいや、錯覚錯覚。よくあるだろ)
強引に笑い飛ばし、布巾を叩きつけるようにしてソースを力任せにふき取る。
心臓の鼓動が、ほんの少しだけ速度を上げていた。
壁の時計の針が昼休みの終わりを告げる位置へと滑り込んでいくのを見て、
大祐は急ぎ足で教室に行く用意を整えると、逃げるように職員室を去った。
それから間もなく、他の職員たちもそれぞれの教室へと出かけていく。
人の気配が完全に消え去り、誰もいなくなった職員室は静寂に包まれた。
カーテンの隙間から差し込む光が、無人のデスクを白々と照らし出す。
主を失った大祐の机には、拭いきれなかったソースの跡が、薄い輪郭となって居座り続けていた。
あれから休み時間の度に、教室内に児童の可愛らしい声が奏でる奇妙な歌が響く事が増えた。児童は真っ白なスケッチブックにむかって、握りしめたクレヨンでぐるぐると丸を描きながらそれを歌っていた。
「♪ ういぐるふぐたん ういぐるふぐたん ういぐるふぐたん どこにいる」
無邪気な声が鼓膜を震わせる。
教室のあちこちで、小さな手が一斉に動いていた。
握りしめたクレヨンが、真っ白な紙をガリガリと削る。
生み出されるのは、あの不気味な三つの丸。
楽しそうな子供たちの様子にそれをやめさせるわけにもいかなかった。
ただ、背筋を這い上がる薄ら寒い物だけがどうしても消えない。
気のせいか、何かの視線を感じる事が増えた。
それは、朝の通勤時や仕事中、トイレの中、仕事帰りや入浴中にも何かに見られている様な気がした。
ぞわりと肌が粟立つ。
誰もいないはずの空間で、何度も何度も首を振り返る。
考えすぎだと大祐は思ったが、床や天井の染みや、汚れの中に、
あの『ういぐるふぐたん』の形を見かける事が多くなった。
じっとりと汗ばむ夕方、台所には小気味よい揚げ物の音が響いていた。
パチパチと爆ぜる油の匂いが鼻を突く。
だが、大祐の視線は手元ではなく、正面の壁に釘付けだった。
白い壁に浮かぶ、わずかな黒ずみ。
並んだ二つの丸と、その下の細長い楕円。
(こんな所に、こんな汚れなんてあったかな…?)
いや、気のせいだ。
激しく頭を振って思考を無理やりかき消す。
しかし、雑念は一瞬の隙を生み出した。
パシャリと、激しい音を立てて熱した油がフライパンから跳ねる。
「あちっ!!」
鋭い痛みが右腕を襲った。
慌てて蛇口をひねり、勢いよく吹き出す水道水に腕を突っ込む。
患部を冷やしながら、じわじわと広がる痛みに顔を歪めた。
「つぅ…くそっ、腫れてきたな」
視線を落とした瞬間、全身の血の気が引いていく。
「ひっ!!」
情けない悲鳴が、無人の台所に響き渡った。
赤く腫れ上がった皮膚。
それは、横並びの二つの丸と横長の楕円形、ういぐるふぐたんの形になっていた。
パニックに陥り、さらに強く水道水を押し当てる。
冷やせば消える、これはただの火傷だと自分に言い聞かせた。
しかし、皮膚は見る見るうちに水ぶくれへと変化していく。
明確な意思を持つかのように、あの顔の輪郭がハッキリと立体化していく。
ガタガタと震える手で救急箱をひっくり返した。
患部を視界から消し去るように、包帯をきつく、何度も巻きつける。
「う、うそだろ。こんなもん…ただの、偶然だろ…!」
震える声は、静かな部屋に虚しく消えていく。
食欲はとうに吹き飛んでいた。
急いで寝間着に着替えると、這いずるようにして布団へ潜り込んだ。
部屋の明かりを消しても、闇の奥から無数の視線が突き刺さる。
どれだけ強く目を閉じても、不快な気配は一向に消えない。
呼吸が荒くなり、じっとりとした寝苦しさが大祐を苛む。
限界を迎えて薄目を開けた、まさにその瞬間だった。
窓から差し込む街灯の光が、天井の黒ずみを不気味に浮かび上がらせ、
ハッキリと丸形と長い楕円形の顔となって大祐を見下ろしていた。
「うわあああああ!!!!!」
狂ったように叫び、頭から布団を引っ被る。
厚い布地に包まれても、全方位から降り注ぐ視線は微塵も遮られない。
大祐は硬直したまま、ただ朝が来るのを待つしかなかった。
翌朝の鏡に映る自分の顔は、完全に生気を失っていた。
目の下にはどす黒い隈が刻まれ、頬はげっそりと削げていた。
それでも幼稚園に行けば、園庭から容赦なく、あのかわいらしい大合唱が大祐の鼓膜を突き刺した。
「♪ういぐるふぐたん ういふぐるふたん ういふぐるふたん どこにいる」
頭を抱え、絶叫しそうになる衝動を必死に抑え込む。
全身の震えが止まらず、もはや仕事どころではなかった。
見かねた園長が、ついに大祐を園長室へと呼びつけた。
「大祐先生…貴方は今どう見てもかなりお疲れですよ。
子供達や保護者の皆様も不安になります。暫く休養をとって、一度病院で診察を受けて下さい」
大祐は力なく頭を下げ、かすれた声を絞り出す。
「……申し訳ありません。お言葉に甘えさせて頂きます」
真っ白な病院の廊下は、消毒液の匂いが鼻を突く。
単なる精神的な過労だと、最初は高をくくっていた。
だが、問診を進める医師の顔が、みるみる硬直していく。
異様な緊迫感の中、急遽精密検査が行われる事になった。
長い検査が終わり、重苦しい沈黙が診察室を支配する。
「いいですか、田宮大祐さん。落ち着いてよく聞いて下さい。
検査の結果ですが…貴方の胃の中に腫瘍がみつかりました」
冷酷な言葉が、思考を完全に停止させる。
「とはいっても、そこまで深刻な物ではありません。
ちゃんと治療を行えば完治は十分に可能な物です。
ご覧の様にここに…」
説明を続ける医師が、一枚のモノクロ画像を掲げた。
その瞬間、目見開き、喉が凍りつく。
バックライトに照らされた、胃のレントゲン写真。
うごめく白い影は、並んだ二つの丸と、横長の楕円を形作っている。
くっきりと、あの顔がそこにいた。
「ああああああ!!!!!」
医師の制止する声を背に受け、大祐は半狂乱で診察室を飛び出す。
白濁した視界のまま、椅子を蹴とばし看護士や患者を押しのけ外へと狂ったように走り続けた。
「俺の、俺の中にっ、俺の中にあいつが!!ああああああ!!!!」
胃の奥底から、ねっとりとした不気味な質量がせり上がってくる。
内側から臓器を凝視する、無数の視線。
その恐怖だけに意識を奪われ、足は勝手に進んでいく。
迫り来るクラクションの爆音。
赤く染まった信号も、眼前に迫るヘッドライトの閃光も、今の彼には何も見えていなかった。
ガシャン!
耳を突き刺す強烈な衝撃音。
それと同時に、アスファルトを激しく削るブレーキ音が鼓膜へと響く。
視界がゆっくりと上下に回転していくのを、大祐はどこか他人事のように眺めていた。
天地が逆転する。
空と地面がぐにゃりと混ざり合う。
遠くから、誰かの引きつった悲鳴が聞こえてくる。
にわかに騒がしくなる人だかりの声。
それらすべてが、まるで水の中にいるようにぼんやりとしか届かない。
道路に飛び散った鮮烈な赤。
アスファルトに染み込んでいく血痕は、いつの間にか例の忌まわしい顔の形を形作っていた。
二つの丸と、横長の楕円。
それが、ねっとりと大祐の視界の最後を焼き尽くしていく。
そんな凄惨な街の惨状など、知るよしもない。
のどかな幼稚園の教室には、今日もあのかわいらしい歌声が響いていた。
「♪ういぐるふぐたん ういふぐるふたん ういふぐるふたん」
無邪気な大合唱。
幼い子供たちの声が、どこまでも澄み渡る秋空へ溶けていく。
「どこにいる」
壁のシミ。
机の汚れ。
ノートの余白。
「どこにでも どこにでも」




