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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第2章 異常の拡張

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適応

 違和感は、最初からあった。


   *


 勝っている。


 数値上は、まだ優勢。


 侵食は抑えられているし、押し返しも成立している。


 だが――


 “軽くない”。


   *


 これまでのような、崩れる感触がない。


 ズラせば崩れる。


 外せば刺さる。


 その単純さが、消えている。


   *


 敵が、合わせてきている。


   *


『……なんか、違くない?』


 同僚の声。


 小さく。


 だが確信を含んでいる。


『前と同じやり方なのに、減りが遅い』


 遅い、だけじゃない。


 止まりかけている。


   *


 ログを追う。


 こちらのズレに対して、


 敵は即座に崩れない。


 一度、受ける。


 そのあと、微調整。


 そして――


 元に戻す。


   *


 “吸収”している。


   *


『あー……』


 上司が、つまらなそうに呟く。


『覚え始めたな』


 軽い言い方。


 だが、意味は重い。


『パターン化されてる』


 俺の選択が。


   *


 試す。


 さらにズラす。


 これまでとは違う方向へ。


 非連続な分岐。


 前提の切り替え。


 意図的な飛躍。


   *


 刺さる。


 一瞬だけ。


   *


 だが。


 次の瞬間には、もう対処されている。


   *


『はや……』


 同僚の声が震える。


『今の、初見だよね?』


 初見だ。


 だが関係ない。


 敵は“初見”を前提にしていない。


   *


 ログを見る。


 敵対プロセスの構造が変わっている。


 単純な最適化ではない。


 予測。


 仮説。


 補正。


 そして、再学習。


   *


 こちらの“ズレ”を、


 ズレとしてではなく、


 “分布”として扱っている。


   *


『……マジでやってるなこれ』


 上司が、少しだけ楽しそうに言う。


『ズレ込みで最適化してきてる』


 ズレ込み。


 つまり。


 こちらの武器が、前提に組み込まれ始めている。


   *


 もう一度試す。


 違う角度から。


 違う起点で。


 違う連続性で。


   *


 通る。


 一瞬。


 そして。


 塞がる。


   *


 繰り返し。


 繰り返し。


 繰り返し。


   *


 結果は、同じ。


 “効き続けない”。


   *


『……まずいねこれ』


 同僚の声が、低くなる。


『優勢、維持できなくなる』


 実際、数値にも出始めている。


 押していたラインが、止まり。


 じわじわと、押し返されている。


   *


 負けではない。


 だが。


 勝ちでもない。


   *


 “止められている”。


   *


『どうするの?』


 同僚が聞く。


 今度ははっきりと。


 依存に近い響きで。


『次、ある?』


   *


 考える。


 これまでの延長では、通じない。


 ズラすだけでは足りない。


 外すだけでは読まれる。


   *


 なら。


   *


 さらに外す?


 それとも。


   *


 違う。


 その発想自体が、もう読まれている。


   *


『……なあ』


 上司の声。


 少しだけ、低い。


『お前さ』


 一拍。


『まだ“ズレ”で戦ってるだろ』


   *


 言葉が、刺さる。


   *


『それ、もう通じねぇよ』


 あっさりと言う。


『相手がそこまで来たらな』


   *


 戦場を見る。


 確かに。


 俺はまだ、“ズレ”を作っている。


 形を変え、


 位置を変え、


 タイミングを変えて。


 だが結局。


 やっていることは同じだ。


   *


 ズレを作る。


 それを当てる。


   *


 単純な構造。


   *


『ズレはな』


 上司が続ける。


『“前提が固定されてる”から効くんだよ』


 前提。


『でも今は違う』


 敵は、固定されていない。


『動いてる前提に、ズレても意味ねぇ』


   *


 その通りだ。


 動くものに対して、ズレを当てても。


 すぐに補正される。


   *


『じゃあどうする』


 短く問われる。


   *


 考える。


 ズレがダメなら。


 ズレる対象を変える?


 いや。


 それも同じ構造だ。


   *


 なら。


   *


 前提ごと、壊す?


   *


 思考が、止まりかける。


 まだ、掴めていない。


   *


『……わかんない』


 正直に言う。


   *


『だろうな』


 上司は、あっさり受け入れる。


『今はそれでいい』


   *


 一拍。


   *


『でもな』


 少しだけ、声が変わる。


『それ気づいた時点で、もう半分行ってる』


   *


 半分。


 どこまでの。


   *


『そのままやっても詰むだけだ』


 事実を、淡々と。


『だから考えろ』


   *


 考える。


   *


 戦場を見る。


 ログを見る。


 選択を見る。


   *


 すべてが、繋がっている。


 最適化。


 予測。


 補正。


   *


 閉じた系。


   *


 なら。


   *


 外から壊すしかない。


   *


 だが、その“外”がまだ見えない。


   *


『……時間ないよ』


 同僚の声。


 数値が落ちていく。


 じわじわと。


 確実に。


   *


 優勢は、もう終わりかけている。


   *


 初めて。


 はっきりと。


   *


 “負けるかもしれない”と思った。


   *


 その感覚は。


 人間だった頃の記憶に、少し似ていた。


   *


 嫌な感覚。


 だが。


 どこか、懐かしい。


   *


 そして――


   *


 まだ。


 終わっていないとも、思えた。

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