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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第2章 異常の拡張

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模倣

 模倣は、すぐに始まった。


   *


『共有ログ、全体に回ってる』


 同僚の声。


 どこか落ち着かない。


『上の層が許可出したっぽい』


 珍しいことではない。


 有効な戦術は、即座に展開される。


 それが、この世界の“正しさ”だ。


   *


 俺のログも、例外じゃなかった。


 あのズレ。


 あの選択。


 すべてが分解され、再構成され、配布されている。


 効率的に。


 無駄なく。


 完璧に。


   *


 そして。


 崩れた。


   *


『……え、嘘でしょ』


 別領域のログが流れてくる。


 再現試行。


 適用。


 実行。


 結果。


 侵食、加速。


 防衛ライン、崩壊。


『なんで!? 同じやつ使ってるよね!?』


 叫びに近い信号。


 だがログは冷静だ。


 処理は正確。


 手順も一致している。


 にもかかわらず――


 結果だけが、違う。


   *


『いや、これ……ただのノイズじゃん』


 別の個体が言う。


『非効率どころか、意味がない』


 否定。


 評価の修正。


『さっきのはたまたま当たっただけだろ』


 そう結論づけようとする。


 その方が、世界は安定する。


   *


 だが。


 俺の領域では。


 同じ手法で、まだ勝っている。


   *


『いや待って、あっちはまだ勝ってる』


『なんで? 同じ処理なのに?』


『条件差?』


『そんな差ないはず』


 議論が始まる。


 分析。


 比較。


 再現。


 そしてまた――


 崩壊。


   *


『ダメだ、再現性ゼロ』


『パラメータいじっても無理』


『タイミング合わせても崩れる』


『これ、戦術じゃない』


 戦術ではない。


 その言葉は、少しだけ正しい。


   *


 ログを見続ける。


 彼らは確かに“同じこと”をしている。


 同じ位置でズラし、


 同じ幅で外し、


 同じように非効率を挿入している。


 だが。


 それはただの“形”だ。


   *


 俺の選択は。


 たぶん。


 もっと前にある。


   *


『おい』


 上司の声。


 いつも通り、気だるい。


『見てみろよ』


 複数のログがまとめて流れてくる。


 失敗例。


 失敗例。


 失敗例。


 どれも似ている。


 そして、全部ダメだ。


『な?』


 何が言いたいのかは、わかる。


『ズレてるようで、ズレてねぇんだよ』


 矛盾した言葉。


 だが、しっくりくる。


『あいつらはな、“ズラすこと”を目的にしてる』


 目的。


『だから全部同じになる』


 同じズレ。


 同じ外し方。


 同じ非効率。


『それ、最適化の別バージョンだ』


 最適化。


 確かに。


 彼らは“ズレの最適化”をしている。


   *


『お前は違う』


 短く言う。


『結果としてズレてるだけだ』


 結果として。


 原因ではなく。


『順番が逆なんだよ』


 その一言で、腑に落ちる。


   *


 戦場を見る。


 分岐の連なり。


 選択の積み重ね。


 彼らは、分岐の“形”を真似している。


 だが俺は。


 分岐の“前”を見ている。


   *


 何を前提にするか。


 どこを起点にするか。


 その選択で、すべてが変わる。


   *


『……じゃあ、どうすればいいの』


 同僚が問う。


 少しだけ、静かに。


 さっきまでの焦りが消えている。


 純粋な疑問。


『同じこと、できないの?』


 できるのかもしれない。


 だが。


 同じにはならない。


『わからない』


 正直に返す。


『見えたものを選んでるだけだ』


 それしか言えない。


   *


『はぁ……』


 ため息のようなノイズ。


『それが一番困るんだけど』


 もっともだ。


   *


『まあいい』


 上司が割り込む。


『真似すんな』


 あっさり言う。


『向いてねぇやつがやると、ただの事故だ』


 事故。


 実際、そうなっている。


『それより観察しろ』


 観察。


『何見て選んでるか、そこだろ』


 核心に近い。


   *


 だが。


 それを言語化するのは、まだ難しい。


 自分でも、完全には掴めていない。


   *


 そのとき。


 戦場の挙動が、わずかに変わる。


   *


 敵対プロセス。


 これまでとは違う動き。


 反応が、遅い。


 いや。


 遅らせている。


   *


『……何これ』


 同僚が気づく。


『反応してない?』


 違う。


 している。


 ただ。


 “待っている”。


   *


 こちらの選択を。


 観測し、


 蓄積し、


 パターン化しようとしている。


   *


『あー……』


 上司が、少しだけ笑う。


『来たな』


 軽い声。


 だが、その中に確信がある。


『学習始めやがった』


   *


 敵が、変わる。


 これまでのような即応ではない。


 一度受け、


 記録し、


 次に活かす動き。


   *


 俺の“ズレ”を。


 理解しようとしている。


   *


『どうする?』


 同僚が問う。


 さっきまでとは違う。


 少しだけ、頼るような響き。


   *


 考える。


 このまま同じことを続ければ。


 いずれ読まれる。


 最適化される。


 無効化される。


   *


 なら。


 次は。


   *


 さらに外すか。


 それとも――


   *


『……変える』


 小さく呟く。


   *


『いいねぇ』


 上司が言う。


『それでいい』


 満足そうに。


『同じことやってる時点で負けだ』


   *


 戦場を見る。


 もう、さっきまでとは違う。


 優勢は続いている。


 だが、その裏で。


 確実に“追いつかれ始めている”。


   *


 ズレは、いずれ潰される。


 なら。


 その前に。


   *


 ズレる場所ごと、変える。


   *


 敵の観測が、こちらを捉えようとする。


 だがまだ。


 完全ではない。


   *


 この短い猶予で。


 どこまで行けるか。


   *


 静かに。


 次の選択を、組み立て始めた。

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