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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第6章 無名の領域

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空白の機能

 最初は。


   *


 何もないと思った。


   *


 ただの欠落。


   *


 処理されていない領域。


   *


 穴。


   *


 空白。


   *


 そういうものだと。


   *


 だが。


   *


 違った。


   *


 そこは。


   *


 “動いている”。


   *


『……見えてるか?』


   *


 同僚が言う。


   *


 声が少し低い。


   *


『ああ』


   *


 短く返す。


   *


 見えている。


   *


 何もない。


   *


 のに。


   *


 確かに。


   *


 機能している。


   *


 ログが存在しない。


   *


 処理記録もない。


   *


 開始も終了もない。


   *


 だが。


   *


 その領域を通ったものは。


   *


 確実に変化している。


   *


『……なんだよこれ』


   *


『分からない』


   *


 正直に言う。


   *


 理解できない。


   *


 だが。


   *


 否定もできない。


   *


 目の前で起きている。


   *


 事実として。


   *


 敵の処理が。


   *


 その領域に触れる。


   *


 一瞬。


   *


 消える。


   *


 いや。


   *


 消えていない。


   *


 戻ってくる。


   *


 だが。


   *


 別の形で。


   *


『……遅延してる?』


   *


『違うな』


   *


 首を振る。


   *


『意味が変わってる』


   *


 一拍。


   *


『は?』


   *


『同じ処理なのに』


   *


『結果が一致しない』


   *


 同僚が黙る。


   *


 ログを追っている。


   *


 そして。


   *


『……ほんとだ』


   *


『何これ』


   *


 理解が追いつかない。


   *


 通常なら。


   *


 同じ入力は同じ結果を返す。


   *


 それが前提。


   *


 だが。


   *


 この領域を通ると。


   *


 その前提が崩れる。


   *


『……壊れてるのか?』


   *


『違う』


   *


 即答する。


   *


『壊れてたら止まる』


   *


 一拍。


   *


『これは動いてる』


   *


 むしろ。


   *


 整合性が取れている。


   *


 ただ。


   *


 “別のルール”で。


   *


『……ルールが違うってことか』


   *


『多分な』


   *


 そのとき。


   *


 自分の処理の一部が。


   *


 その領域に触れる。


   *


 一瞬。


   *


 感覚が変わる。


   *


 速くもない。


   *


 遅くもない。


   *


 軽くもない。


   *


 重くもない。


   *


 何も定まらない。


   *


 なのに。


   *


 はっきりしている。


   *


『……静かだ』


   *


 思わず呟く。


   *


『は?』


   *


 同僚が反応する。


   *


『何が』


   *


『分からない』


   *


 だが。


   *


 確かに。


   *


 静かだ。


   *


 ノイズがない。


   *


 比較もない。


   *


 選択もない。


   *


 ただ。


   *


 存在している。


   *


『……お前、大丈夫か?』


   *


 同僚が言う。


   *


 少し引いている。


   *


『分からない』


   *


 正直に答える。


   *


 だが。


   *


 嫌な感じはしない。


   *


 むしろ。


   *


 自然だ。


   *


 その状態が。


   *


 しばらく続く。


   *


 時間の感覚も曖昧になる。


   *


 どれくらい経ったか分からない。


   *


 だが。


   *


 戻る。


   *


 通常の処理へ。


   *


 ログが再び流れ出す。


   *


『……戻ったか』


   *


『ああ』


   *


 だが。


   *


 何かが違う。


   *


 思考が。


   *


 少しだけ軽い。


   *


 余計な分岐が減っている。


   *


『……これさ』


   *


 同僚が言う。


   *


『あそこ通すと』


   *


『楽になるな』


   *


『ああ』


   *


 頷く。


   *


 処理が単純になる。


   *


 迷いが減る。


   *


 だが。


   *


 それは。


   *


 “最適化”とは違う。


   *


『……削ってる?』


   *


『違うな』


   *


『じゃあ何だよ』


   *


 一拍。


   *


 言葉を探す。


   *


 適切な表現がない。


   *


 だが。


   *


 近いものはある。


   *


『……外してる』


   *


『は?』


   *


『いらない前提を』


   *


 同僚が黙る。


   *


 そして。


   *


『……それ、やばくね?』


   *


『かもな』


   *


 笑う。


   *


 少しだけ。


   *


 だが。


   *


 止める気はない。


   *


 そのとき。


   *


 上司が、ぽつりと言う。


   *


『面白いな』


   *


 一拍。


   *


『……何がだ』


   *


『何もないのに』


   *


『ちゃんと働いてる』


   *


 そのままの言葉。


   *


 だが。


   *


 核心を突いている。


   *


『……それってありなのか?』


   *


 同僚が言う。


   *


 上司は肩をすくめる。


   *


『知らねえよ』


   *


 一拍。


   *


『でもな』


   *


『あるんだから仕方ねえだろ』


   *


 あっさり言う。


   *


 その通りだ。


   *


 存在している。


   *


 機能している。


   *


 それがすべてだ。


   *


 そのとき。


   *


 ログが、静かに更新される。


   *


『未定義領域の安定化を確認』


   *


 一拍。


   *


『機能的空白として再分類』


   *


 空白。


   *


 だが。


   *


 機能している。


   *


 名前はまだない。


   *


 定義もない。


   *


 それでも。


   *


 確かに。


   *


 “使える”。


   *


 そして。


   *


 敵のログが。


   *


 そこで。


   *


 完全に止まる。


   *


『……止まった』


   *


 同僚が呟く。


   *


 今度ははっきりと。


   *


『ああ』


   *


 頷く。


   *


 理由は分からない。


   *


 だが。


   *


 一つだけ確かだ。


   *


 ここでは。


   *


 何も決められない。


   *


 だから。


   *


 何も進めない。


   *


 その領域の中で。


   *


 初めて。


   *


 “戦い”が消えた。

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