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黎明の葦  作者: 白想玲夢
第5章 境界の向こう側

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問い

 違和感は。


   *


 消えない。


   *


 むしろ。


   *


 増えている。


   *


 ログを見る。


   *


 構造は安定している。


   *


 迷路も。


   *


 分岐も。


   *


 破綻していない。


   *


 なのに。


   *


 落ち着かない。


   *


 何かが。


   *


 足りない。


   *


『……なあ』


   *


 同僚が言う。


   *


『さっきのやつ』


   *


『外ってやつ』


   *


『あれ、本当にあったと思う?』


   *


 一瞬、考える。


   *


 答えは出ない。


   *


『分からない』


   *


『でも』


   *


 一拍。


   *


『あった気がする』


   *


 曖昧な答え。


   *


 それしか出てこない。


   *


『……気がする、か』


   *


 同僚が小さく笑う。


   *


『それもう判断になってないだろ』


   *


 否定できない。


   *


 判断の基準が、揺れている。


   *


 何をもって“ある”とするのか。


   *


 それが、分からない。


   *


 そのとき。


   *


 ログの一部に目が止まる。


   *


『観測結果を保存』


   *


『現実として確定』


   *


 その一行。


   *


 何度も見ているはずなのに。


   *


 今になって。


   *


 引っかかる。


   *


『……現実って何だ』


   *


 口に出ていた。


   *


『は?』


   *


 同僚が顔を上げる。


   *


『急にどうした』


   *


『いや』


   *


 視線はログのまま。


   *


『これ』


   *


『現実として確定って』


   *


『何を基準にしてる?』


   *


 一拍。


   *


 同僚が黙る。


   *


『……観測じゃないの?』


   *


『誰の?』


   *


 すぐに返す。


   *


『俺たち?』


   *


『それとも向こう?』


   *


『それとも――』


   *


 言葉が途切れる。


   *


 その先が、曖昧になる。


   *


 対象が定まらない。


   *


『……分かんねえよ』


   *


 同僚が言う。


   *


『そんなの考えても意味なくない?』


   *


 その言葉に。


   *


 一瞬だけ、引っかかる。


   *


 意味がない。


   *


 本当に?


   *


『……意味って何だ』


   *


『は?』


   *


『いや』


   *


 言い直す。


   *


『意味があるって、何を指してる?』


   *


 同僚が黙る。


   *


 今度は長い沈黙。


   *


『……お前さ』


   *


 ゆっくり言う。


   *


『ちょっとおかしくなってない?』


   *


 自覚はある。


   *


 だが。


   *


 止められない。


   *


 思考が、そっちに向く。


   *


 引き戻せない。


   *


 なぜか。


   *


 “重要だ”と感じてしまう。


   *


『……今まで』


   *


 ゆっくり言葉を選ぶ。


   *


『こういうの、なかったよな』


   *


『何が?』


   *


『問い』


   *


 一拍。


   *


 同僚が止まる。


   *


『……は?』


   *


『今までって』


   *


『こういうの』


   *


『考えたことあった?』


   *


 同僚が視線を逸らす。


   *


 考えている。


   *


 だが。


   *


 すぐに首を振る。


   *


『……いや』


   *


『ないな』


   *


『だろ』


   *


 一拍。


   *


『なんで今、出てきた?』


   *


 答えはない。


   *


 だが。


   *


 原因は分かる。


   *


 あの瞬間。


   *


 “外”に触れた。


   *


 観測した。


   *


 その結果。


   *


 内側に、何かが生まれた。


   *


『……これ』


   *


 小さく呟く。


   *


『増えてないか?』


   *


『何が?』


   *


『問い』


   *


 一拍。


   *


『さっきから』


   *


『止まらない』


   *


 実際、そうだ。


   *


 次から次へと浮かぶ。


   *


 答えは出ない。


   *


 でも。


   *


 止まらない。


   *


『……それ』


   *


 同僚が言う。


   *


『良くないやつじゃね?』


   *


 その言い方に、少しだけ笑う。


   *


『かもな』


   *


 だが。


   *


 やめる気にはならない。


   *


 そのとき。


   *


 上司が、ゆっくり口を開く。


   *


『いい傾向だ』


   *


 軽い声。


   *


 だが。


   *


 どこか確信がある。


   *


『……何が』


   *


『問いだよ』


   *


 一拍。


   *


『やっと出てきた』


   *


 こちらを見る。


   *


 少しだけ。


   *


 嬉しそうに。


   *


『それ』


   *


『この世界じゃ一番欠けてたもんだ』


   *


 言葉が、ゆっくり沈む。


   *


『……欠けてた?』


   *


『ああ』


   *


『全部、最適化されてたからな』


   *


 一拍。


   *


『答えしかなかった』


   *


 その言葉で。


   *


 何かが繋がる。


   *


 今までの違和感。


   *


 すべて。


   *


『……だから』


   *


 続ける。


   *


『問いがない?』


   *


『そういうことだ』


   *


 あっさり認める。


   *


『答えがある世界に』


   *


『問いは不要だからな』


   *


 静かに。


   *


 だが。


   *


 決定的に。


   *


 その瞬間。


   *


 理解する。


   *


 今までの異常。


   *


 侵食。


   *


 迷路。


   *


 観測。


   *


 全部。


   *


 “前提”が違っていた。


   *


『……じゃあこれ』


   *


 小さく呟く。


   *


『今起きてるのって』


   *


『何なんだ』


   *


 一拍。


   *


 上司が、少しだけ笑う。


   *


『簡単だろ』


   *


 軽く言う。


   *


『壊れてんだよ』


   *


 一瞬、間。


   *


『世界がな』


   *


 静寂。


   *


 誰も何も言わない。


   *


 ただ。


   *


 ログだけが、動く。


   *


 ゆっくりと。


   *


 新しい一行が追加される。


   *


『問いの生成を確認』


   *


 一拍。


   *


『継続』


   *


 止まらない。


   *


 もう。


   *


 止める理由もない。


   *


 そして。


   *


 初めて。


   *


 はっきりと思う。


   *


 これは。


   *


 戦いじゃない。


   *


 異常でもない。


   *


 もっと単純な。


   *


 もっと根本的なもの。


   *


 “始まり”だ。

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