呼ばれてはいけなかった
不思議なことに、近頃夜になると子供を見るという噂話をよく耳にする。
背丈も服も性別も、目撃者によって曖昧で、共通しているのはただ一つ、「子供だった」その一点だけだ。
見られた場所も定まらない。学校の校庭だと言う人もいれば、路地裏や近くの山に入っていく道だと言う人もいる。
「さいきんな、夜に子供が出るねんて」
帰る時間が少し遅くなっただけなのに、辺りはまるで夕方の匂いがして、自分の足音がいやに響く。
私は無意識に、持っていたリコーダーの袋を握りしめていた。
とても人のものとは思えない、ぞわぞわとしたそれから逃げるように、私は足がもつれて、早足になった。
毎日通っている道なのに、なんだか今日は妙に暗い。
もうすぐ家だ!はやる気持ちを抑えながら角を曲がると、うちの窓が見えた。
いつもなら、お母さんかお兄ちゃんがいるはずなのに、今日はどこにも灯りがなかった。鍵なんて持ってないのに…そう思っただけで胸の奥がざわざわした。
近くに知り合いもいないし、仕方がないから玄関前の石段に腰を下ろした。ひやりとした感覚が、鼓動に重なってどうしようもない気分にさせられる。
「みさきちゃあああん」
思い出せそうで、思い出せない声がした。
私は振り向かなかった。
振り向きたい衝動と戦いながら、でも、諦めていた。
あの噂はなんて言っていたっけ?
「夜になると子供を見る」
その声が、すぐ後ろにある。
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