8 実家に帰った後の方が大変だった
この世界にもスズメはいます。ナーロッパイエスズメが。
朝だ。
スズメがチュンチュン鳴いている。
私は体を起こす。
もちろん何もなかったよ。うん知ってた。アハハ!
隣ではまだロータスさんが寝ている。
(寝顔はちょっとかわいいな)
そこまでイケメンじゃないはずだけれど、意識するとカッコよく見えるのはなぜなんだろう。
ボーっとしていると彼が目覚める。
急いで視線を外した。
「お、おはよう」
「‥おはようございます。すぐ出ますので毛布から体を出さないように」
「は、はい」
ロータスさんは昨夜上着を脱いだだけで眠ったらしい。
言葉通りすぐ部屋を出たので、私は急いで着がえた。
「はあ」
扉の向こうからため息が聞こえる。
(慎みがないって、あきれられた?)
馬車の中では何も話しかけて来なかった。
私も何か気まずくて話題が見つからない。
まあ揺れがひどいから会話する気もおきないけど。
あの日以外は宿もすいていて、ドキドキイベントは2度とおきなかった。
残念。
平穏無事に王都の我が家にたどり着く。
「あああ、マリーゴールドちゃん!」
両親からもみくちゃにされた。
父も母も私が出かけた時よりゲッソリしている。
「サルビアはどこだ」
父親が馬車の中を探った。もちろんいるわけない。
「お父様、お姉様は辺境伯に見染められて向こうに残ったのよ」
私の言葉に両親は悲鳴を上げる。
「そんな、サルビアがいなかったら誰が仕事をするんだ!」
(あんたらだよ)
やっぱりお姉様に仕事の大半を押しつけていたんだな。
「じゃあ辺境伯からの支援金は」
「ありません。わたくしも手伝うから、みんなで片付けましょう」
帰って早々、書類とにらめっこするはめに。
ああ頭が痛い。
それからね、もう大変だったわ。
我が家の無計画な出費のせいで家計は火の車。
両親が放っておいた仕事って全部難しいのばっかりなんだから。
ロータスさんにも聞きながら、なんとか1つずつ終わらせる。
父は領地の情報を外部の人間にもらすわけにはいかないって、渋っていたけど。気にする余裕すらなかったわ。
社交とか出る暇もなく日々が過ぎた。
少しでも借金を減らさなくてはいけないのに、領地は度重なる増税で疲弊している。
売れるものは売ったけど焼け石に水だ。
心労でお肌はボロボロに。目の下のクマとかあるのが当たり前になっちゃった。
「これ終わるまで何年かかるのよ」
「軌道に乗るまで10年以上でしょうか」
ゴールの遠さにゲンナリする。
それまでロータスさんはつき合ってくれるのだろうか。
(1年くらいで見捨てられそうな気がする。そうなったらどうすればいいのさ)
彼には帰る場所があるのだ。不安に心が押しつぶされそう。
「そのうちに慣れます、大変なのは今だけですよ。まあ休憩にしましょうか」
「やっとお茶の時間ですわ!」
喜ぶ私をロータスさんはクスクス見守ってくれる。
毒親に囲まれて暮らすのって精神削られるのよ。ロータスさんとのたわいない会話が一番の癒し。
まあ忙しすぎて時々しか話せないけどさ。せっかく一緒に住んでいるのに。
「そんなに頑張らないで、ドレスでも買って気晴らししましょうよ」
家族に仕事の進捗を報告していたら、母親がとんでもないことを言い出した。
「お母様、我が家の財政状況分かっていますの?」
「そんな、マリーゴールドまでサルビアみたいな意地悪言わないで」
ああ、実の娘だってのに姉が虐げられた原因はそれだったような。
姉だけがこの家を考えた言動をし、両親に煙たがられたのだ。
「そうだな、もっと税金を上げるか」
は? 父親も賛同しているだと? ふざけるな!
堪忍袋の緒が切れた。もう、プチっとね。
まだ片付いていない仕事は山積みだけど、こいつらジャマばっかりしやがる。
もういらないんじゃないか? 親って勘当できたっけ?
あ、ひらめいた。
私は久しぶりに可愛らしく笑顔を作る。
「お父様、お母様、わたくし欲しいものがあるの」
なんだい、なんでも言ってごらんと両親は罠にかかった。
「マリー、家督が欲しいわ♡」




