4 完璧な計画
辺境伯の館に到着です。
広い屋敷に足を踏み入れると、玄関ホールで当主が待ち構えていた。
「我がダンデライオン家に嫁いでくれて感謝する。私が当主のオリバーだ」
「初めましてダンデライオン卿、私はマリーゴールド・サンフラワーでございます。そしてこちらは姉のサルビアですわ」
「は? 姉君ですか? なぜ」
私が姉を紹介すると、ダンデライオン卿は困惑した。
まあ姉同伴で嫁ぐ女はいないであろう、しょうがない。
(しっかしさすがヒーロー、イケメン! 漆黒の髪が白磁の肌に映えるわ~ついでにガタイも良いなんて♡)
大好きな物語の登場人物にうっとりしかけた私だが、目的を忘れてはいけない。
「これには深いわけがあるのです! どうか話を聞いて下さい! ってか聞いてくれるまで放しません!」
私は辺境伯の上着をガっと握りしめ整った顔をにらみ上げた。
だってね、こいつ元のお話ではサルビアの事情をロクに聞かず放置したのだよ。
『君を愛することはない』ですって!
姉の悪評を真に受けて、事実をロクに調べもしなかったのよ!
そのせいでサルビアは使用人にも冷遇され世話もされずに別館に1人住むことに。
まあメイドのふりをして働くうちに周りの信頼を勝ち取るし、オリバーにもほれられるのだけど。
さんざん苦労をかけた姉をこれ以上冷遇されてたまるか。
「姉は実家で虐げられておりましてとても置いてこられる状況ではありませんの」
「え、サンフラワー家で虐げられているのは確か‥」
ほらやっぱり社交界に出回っている噂を信じている。
「姉の悪評は、全部私が振りまいたものです! 遊び歩いたのも男を侍らせたのも散財ばかりしたのも、全部この私がやったこと、お姉様は悪くないわ!」
私は馬鹿正直に暴露した。
辺境伯がマリーゴールドへ求婚したのも、不遇な妹を気づかってのはず。
だったら最初からサルビアに好意を持たせるのは簡単だ。
「私は姉を虐げていたヤバい妹なので、婚約は姉と結んで下さいませんか? 私は姉の侍女として働きますので!」
ここで婚約者を取りかえ、自分の就職先も確保する。
(これこそが完璧な計画よ!)
「マ、マリーゴールド? 何を言っているの?」
「うん? 済まないが良く分からない」
お姉様は目を丸くしているし辺境伯は顔をしかめている。
「オリバー様、顔が怖くなっていますよ。お話は後から検討してもよろしいでしょうか」
執事らしき青年が間に入った。物語には辺境伯家の傍系でオリバーの幼馴染がいたから彼だろう。
私も手を離した。
すぐ無下にされる様子はない。今は勘弁してやる。
「とにかく部屋に案内する」
玄関ホールから階段を上がり2階の部屋に移った。
「不便があったら執事のロータスに。この2人は部屋付きメイドだ。姉君には客間を用意させよう」
執事はやっぱり知っているキャラだった。
「マリー、さっきはどうしたの? いきなり侍女として働くだなんて」
「え、あの家に帰りたくないからですよ」
「だったら辺境伯様に嫁げばいいじゃない、優しそうな方よ」
お、ヒーローの第一印象は悪くないようだね。
「私ごときでは高位貴族の夫人など務まりませんわ! お姉さまにお譲りしたいの」
ハッキリ言ってマリーゴールドの成績は悪い。
知識をさらっても勉強の記憶がからっきし。
前世の自分の方がよほど教養豊かだよ。
「それはそうだけど‥」
ゲフッ、お姉様もそうお思いっすね。
「それでもあの方に求められたのはあなたなのよ。わたくしを一緒に連れ出してくれたのは嬉しいわ、でも貴族夫人の座まで譲ろうだなんて、どうしちゃったの?」
サルビアの困惑はもっともだ。
「侍女ならわたくしがなりますから、マリーはきちんと婚約なさい」
確かにそれも私にとってはハッピーエンドなんだよね。今の私ならお姉様を不幸にさせないだろうし。
だけど1人の読者として、ヒロインのサルビアには幸せになって欲しかったんだもん!
「とにかく、しばらく一緒に暮らしてどちらかを選んでもらいましょう。オリバー様にだって好みのタイプはあるのですから」
姉には無理やり納得させた。
オリバー辺境伯が直々に選べば、断る気も消えるはず。
ついでにもし万が一、彼が選ぶのが私だったら‥それはそれで良し!




