おまけ その後
私は物語を読み返した。
『アタシは王太子妃になるのよ。田舎になんて嫁がないわ』
もう一度の憑依はさすがにおこらない。
小説の内容が変わることはなかった。それはそうだろうが、期待はしていたんだよ。
文を目で追うと、財産もなく平民落ちしたマリーゴールドはわずかな装飾品をねらった強盗に殺される。
(ここ、かわいそうだなって思ったんだよね)
ローズマリーは確かにヤバい妹だったけれど、毒親に育てられた被害者でもある。
殺されるラストには同情した。
(もしかしたら、私はあの子を助けるために物語の世界を生きたんじゃないかな)
だからあのタイミングで私は現実に戻ったのかもしれない。
それならばきっと、今もあの世界は続いている。
ローズマリーとロータスは共に伯爵家を建て直すだろうし、子供だって生まれるのだろう。
もう文章でも読めないけれど。
(ん、だったら蓮君にロータスの記憶があるのは)
私の人生のため?
年齢=恋人いない歴の私へ神様か何かが用意してくれた出会いじゃね?
彼とは時々ご飯を食べるようになった。夢の世界での仲は現在進行中。
蓮君はいい人だ。
「良い人」だけでは他に取り柄がないように聞こえる。
私だって十代の頃は見た目や収入に重きを置いていて、性格は二の次に考えていた。
しかし社会人になって思い知る。
(性格ってめっちゃくちゃ大事じゃん!)
性格が好ければパワハラもモラハラもないんだよ。
生活力がなさすぎるのは無理かもしれないけれど、人格がしっかりしている人ならそれ以外は最低限だって良いかもしれない。
蓮君は仕事しているし1人暮らしもしているし、話も性格も合うのだ。
メッセージを送ったら返信を楽しみにしているし、会えばついベタベタ触ってしまう。
人ごみに居ても、蓮君の姿はすぐ見つけられた。
この感情は‥間違いではないだろう。
(向こうも嫌そうにはしていないよね? 私のかん違いじゃないよね?)
私はスマホを手に取る。
『好きって言ったら困りますか?』
うじうじ迷った末に、送信した。
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「ねえロータス、このドレスどう? 似合う?」
「お美しいですお嬢様」
「もう、結婚したんだから名前で呼んでよ」
「ふふ、すみませんマリー」
久しぶりのドレスに浮かれるわたくしを、夫は優しく抱きしめてくれます。
わたくしはマリーゴールド・サンフラワー。
昔はとても我がままだったの。それがある日、知らない方の記憶と感情がわたくしに生まれ、全てが変わりましたわ。
その方の知識では、わたくしは欲望のままに姉を虐げ破滅を迎えますのよ。
彼女が運命にあらがう中、わたくしも彼女の一部として知識や感情を吸収しました。
あの方が学べば、わたくしにも知識や経験が身につきます。おかげさまで一人前のレディへ成長したのですわ。
あの方が光と共に消えた今でも元のわたくしに戻らなかったのはそのためよ。今だって努力を続けていますし。
ロータスに支えられて、没落寸前だったサンフラワー家も大分建て直せましたわね。
わたくしが当主でも何とかなっているのは、ほとんど夫のおかげでしょう。
そして彼の素晴らしさを教えてくれた彼女に感謝を。
昔のわたくしだったら分からなかったわね。
彼はちょっと目立たないだけで、優しさと賢さにあふれていたの。
かつて愚かだったわたくしを、ロータスは心から大切にして下さいました。
「嫌な時は嫌とおっしゃって下さい」
夫はわたくしに教えてくれたわ。
嫌なのに無理に触れてくるのは、愛ではないのだと。
昔、見た目だけはきらびやかな方々にささやかれた愛の言葉は、まがい物だったようね。
今思えばあの頃のわたくしは愛に飢えていたのです。両親は可愛がってくれましたけれど、あれは自分たちに都合の良い娘を甘やかしていただけでしたわ。
愛されたいがあまり周りに流されすぎていたのね。
本物の愛情と本物の幸せ。
あの頃欲しがっても決して与えられなかった宝物が手に入ったのは、全部あなたのおかげですわ。
(忘れません、絶対に)
消えてしまったあの方にそっとつぶやきます。
「ありがとう、わたくしに人生をくれて」




