13 ロータス 前
本日はロータス視点です。
自分は国境付近の男爵家に生まれた。
長男だったのでいずれは家を継ぐと思い、経営術などを学んでいた。
学校を卒業してすぐ戦闘がおこる。それは想定内だったが、まさか2つ下の弟が初陣で武功をあげるとは。
弟は昔からなんでも器用にこなす奴だった。まだ学生だったが座学の成績も良く友人も多い。
家督は次男が継いだ方が良いかと親が口にし出す。
弟もその気になったことで自分の婚約が解消された。
彼女は弟と婚約する。
あの時はさすがにへこんだ。
自分としてはヤサグレていたのだが、家族には気がつかれなかったようだ。
気を使ってくれたのは寄り親である先代のダンデライオン伯。
「息子の補佐を頼みたい」
俺は子供の時から仲が良かった若殿に執事見習いとして仕えた。
広大な領地を支配する辺境伯家は仕事の量も種類も多い。男爵家を継ぐよりはるかに上回る経験を積むことができた。
数年がたつと代も代わり、俺の肩書から『見習い』が消える。
結婚を渋っていた我が主君だが、跡を継いでまで独身なのはまずいので嫁をもらうことになった。
選んだのはサンフラワー伯爵家の次女。
家格はこちらが上だが、あちらは名門だ。つり合いは取れる。
サンフラワー家を指定したのは、妹姫がわがままな姉に虐げられている噂があったからだ。
オリバー様は彼女をダンデライオン家に向かい入れることで、彼女を救い出したかったのだろう。
「初めましてダンデライオン卿、私はマリーゴールド・サンフラワーでございます。そしてこちらは姉のサルビアですわ」
まさか姉妹両方がやって来るとは。
しかも虐げられているのが姉で悪評まみれの方が妹だと、本人が暴露するとは思いもしなかった。
「どう思う?」
いつもは切れ者のはずのオリバーが珍しく困っている。
「伯爵家を調査しつつ、2人の様子を見るしかないでしょうね」
自分としてもそれくらいしか答えられない。
姉のサルビア嬢が淑女であることはすぐに理解できた。侍女たちの反応も良い。
だからと言って妹のマリーゴールド嬢も悪女と言うほどではない。
せいぜい勉強が苦手なお転婆くらいだ。
しかしサンフラワー伯夫婦は問題が多かった。長女への虐待は使用人からいくらでも証言が取れたし、領地は度重なる増税で疲弊している。
「1人は伯爵家に戻し、家を建て直させる」
オリバー様は決断した。
しかしどちらを帰すのかは悩んでいるようだ。
伯爵にふさわしい能力を持つのはサルビア嬢だが、オリバーは彼女に惹かれている。
妹君にも好感は持っているようだが、あくまで家族として接しようとしていることはすぐに分かった。
マリーゴールド嬢の方がよく彼を見ていた。
オリバーは自分から見ても色男だ。マリー嬢が心を奪われたのも当然至極。
しかし本人は姉を虐げたことをとても後悔していて、貴族夫人の座を譲ろうとしている。
婚約者を奪われた自分には考えられない。
健気な姿に心が打たれた。できることなら力になりたい。
マリーゴールド嬢の勉強には手を貸した。
主人とサルビア嬢の仲が深まると共に、マリー嬢が仲間はずれにならないよう笑いかける。
マリー嬢をサンフラワー家へ戻す話が持ち上がった時は同行を申し出た。
オリバー様は笑って快諾してくれる。
しかし王都の道すがら泊まった宿ではあわてた。
自分が令嬢と同室になってしまったのだ。
彼女としては知らない護衛兵よりは自分の方が良いらしいのだが‥それはつまり自分を男として見ていないことになる。
既視感があった。ああ何度かした見合いだ。
跡継ぎじゃなくても構わない令嬢はいるのだが、いつもうまく行かない。
「良い方なのですが‥生活が保障できなさそうで」
「使用人の方はちょっと。もっと頼りがいがあるお仕事の方が‥」
「ダンデライオン家のご令息と仲がおよろしいのでしょう? わたくしにご紹介いただけるかしら」
そう言われ続けたおかげで25になった今も独身だ。
プライドが傷ついて、ついからかってしまう。
「自分じゃなかったら誘われたとかん違いしますよ」
彼女は顔を赤らめている。かわいらしい。
それでも無防備なのは変わらなかった。翌朝、寝間着姿を俺に見せてくるなんて。
自分に男として魅力がないのか。
それともマリー嬢の奔放だった噂はまさか本当なのだろうか? 扉の外で1人首を振った。
たどり着いた伯爵家は惨憺たる状態である。
手を入れるのが遅れたら破産していただろう。それともこの夫妻なら違法な事業に手を染めるか。
マリーゴールド嬢はボロボロになりながら、親から権力を奪い家を建て直した。
俺は定期連絡の手紙で彼女の努力を報告し続ける。
その内オリバーからは「婿に入ればどうだ」などと不躾な返事が来るようになった。
マリー嬢の思いも知らないで。
伯爵家の婿は魅力的だが、彼女に自分は分不相応だ。
見た目も能力も平凡だし金もそこまであるわけじゃない。
そんな自分に何ができる?
もっと力のある家相手の方がマリー嬢も幸せだろう。
苦い気持ちにはフタをする。
今はまだこのぬるま湯につかっていたかった。
しかしそんなあいまいな状況は打ち切られる。




