10 夜会の始まり
王宮が近づくとワクワクに緊張も混ざる。
門を通り馬車が止まった。
(宮殿、デッカ)
馬車から降りて入り口までの距離が遠く感じる。
ロータスの腕に手をかけ階段を上った。
玄関口のホールだって広い。
私は必死に知り合いを見つける。あいさつをして我が家の代替わりを報せなきゃ。
「ごぶさたしております、カモミール子爵」
「こちらこそ‥お父上は?」
「おほほ、最近引退しましたの。今はわたくしが当主ですわ」
1人1人に家督が移ったことを話した。
みんな表面的なあいさつ以上が済むと、サッとこちらから離れてしまう。
詮索されないのは気が楽だが、話し相手が誰もいないのはさびしい。
解放されているエリアを一通り回ったけど、以前に友達だった人まで全然近づいてこなかった。
(我が家の実情がバレちゃったのかしら)
両親に人望がなかったからかもしれないし、借金まみれだったことや長女を虐待していた話が広まったのかもしれない。
社交界でサンフラワー家の評判はガタガタのようだ。
(自業自得かぁ)
しかしこれが貴族社会だ。
これからは私自身が頑張らなくてはいけない。
(断罪は回避されたけどまだハードモードなんだよな)
「大丈夫ですか」
隣でロータスさんが気遣ってくれた。優しい。気を取り直して私は会場を歩く。
王族へのあいさつはそこそこで終わる。
落ち目の貴族が関われる時間は短いからね。
軽食が用意されている部屋もあったけれど、我慢して玄関ホールに戻った。
どうしても会いたい人がいるから。
今夜の夜会にはダンデライオン辺境伯と姉が参加している。
見つけた。
久しぶりにお姉様に会えたわ。
「サルビアお姉様」
「マリーゴールド、会いたかったわ」
駆け寄って手を取り合う。久しぶりのサルビアは美しかった。
見たこともないドレスに宝石がちりばめられたアクセサリー。
そして幸せに裏打ちされた笑顔。
「さすが辺境伯夫人ね、すばらしいわ」
「あなたも可憐よ」
ロクなアクセサリーをつけていないことをお姉様は口にしない。優しいからね。
宝石類は先祖代々の物を除いてほとんど売り払った。
今夜私がつけているのは小ぶりなネックレスとシンプルな髪飾りだけ。指輪もティアラもイヤリングもない。
それでも精一杯のおしゃれだ。
「ダンデライオン卿にもごあいさつ申し上げます。いつも様々なご支援をいただきどう感謝すればよいか」
姉の婚約者にヒザを曲げる。
「将来の義妹殿ですから、これくらいは」
彼もニコニコしていた。
美男美女の2人は本当に幸せそうだ。しばらく見ていたいくらい。
「お姉様は恋人とラブラブね」
からかったら恥ずかしそうにしている。
「もう、あなたから取ってしまって申しわけなかったのに、そっちは気にもしていないのね」
「そうですねーお姉様が幸せならそれで構わなかったと言いますか」
姉は口をとがらせる。
「あなたには良い人はいないのかしら」
「しばらくは無理でしょう。会場を回って実感しましたが、現状我が家と交流を深めたい家は見つかりません」
ちょっとだけロータスさんを目で追ったけど。
今はオリバー様と歓談中だ。
「お父様とお母様はどうしていらっしゃるの?」
姉がいたずらっぽく聞いてくる。
「まだまだ荒れているらしいわ。まあ無理を言っても聞かなくていいって使用人には通達しているからね。それでも‥仕事もしないで3食食べさせてもらえるのは幸運だって分からないのかしら?」
平民であれば恵まれた環境だろうに。
「あの人たちには無理でしょうね。あなたが毒牙から逃れたことが奇跡みたいなものよ」
改心したことっすね。
異世界人の意識が憑依したのだから、確かに奇跡みたいなものだ。
会場に曲が流れる。
「サルビア」
オリバー様が姉の手を取った。
彼らの後姿に万感をこめて見送る。
「マリーゴールド様、自分で良ければ踊っていただけますか」
ロータスさんが手を差し出してきた。
私はニッコリと手を重ねる。頬が熱くなった。




