第三十二話:距離は、三歩から縮まらない
三歩。
それが、
今の世界の幅だ。
昨日から、
距離は変わっていない。
近づいてもいないし、
離れてもいない。
だが、
止まっているわけでもない。
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――ミケ視点――
俺は、
水を飲む。
その音を、
聞かせる。
生活音は、
敵意ではない。
それを、
教えるためだ。
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――子猫視点――
おみず、
ちゃぷ。
おっきいの、
のんでる。
ぼく、
まだ。
みてる。
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――飼い主視点――
二匹とも、
落ち着いている。
でも、
視線は、
離れない。
三歩。
絶妙な距離。
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――ミケ視点――
子猫が、
転んだ。
箱の縁に、
足を取られた。
俺は、
動かない。
助けない。
だが、
見ている。
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――子猫視点――
あ。
ころんだ。
いたい。
でも、
だいじょうぶ。
みられてる。
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――ミケ視点――
立ち上がった。
鳴かなかった。
それでいい。
世界は、
自分で立つものだ。
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――飼い主視点――
助けたくなる。
でも、
我慢する。
ミケが、
見ているから。
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――ミケ視点――
三歩は、
教室だ。
近すぎれば、
答えを与えてしまう。
遠すぎれば、
何も伝わらない。
俺は、
間に立つ。
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夜。
電気が落ちる。
暗闇は、
距離を曖昧にする。
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――子猫視点――
くらい。
ちょっと、
こわい。
でも、
におい、
ある。
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――ミケ視点――
子猫が、
一歩、
近づいた。
三歩が、
二歩になった。
だが、
俺は、
動かない。
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――飼い主視点――
ミケは、
逃げない。
それだけで、
十分だ。
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――ミケ視点――
距離は、
数字ではない。
許容量だ。
今日、
それが、
少しだけ増えた。
三歩は、
まだ縮まらない。
だが、
縮まらないこと自体が、
進歩だ。
世界征服とは、
急がないことだ。
増えた世界が、
壊れないように、
速度を落とす。
今は、
それでいい。
明日も、
三歩。
たぶん、
もう少しだけ、
やわらかい三歩だ。




