第三十一話:箱が二つになるとき、序列が生まれる
箱が、
二つある。
昨日まで、
世界は一箱だった。
それだけで、
秩序は保たれていた。
だが今、
箱が二つある。
これは、
分断ではない。
配置だ。
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――飼い主視点――
段ボールを、
少し離して置く。
近すぎても駄目。
遠すぎても、
緊張が増す。
距離は、
三歩分。
ミケは、
元の箱。
新しい子は、
新しい箱。
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――ミケ視点――
俺は、
動かない。
先に動いた方が、
立場を失う。
箱の縁に顎を乗せ、
目を細める。
観測だ。
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――子猫視点――
ここ、
あったかい。
箱、
かくかく。
におい、
いっぱい。
向こう、
おっきい。
じっとしてる。
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――ミケ視点――
視線が合う。
逸らさない。
逸らしたら、
終わる。
相手は、
俺を見ている。
だが、
意味は分かっていない。
それが、
一番厄介だ。
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――飼い主視点――
どちらも、
鳴かない。
ただ、
見ている。
静かすぎて、
少し怖い。
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――ミケ視点――
小さい方が、
一歩、
前に出た。
境界線を、
踏む。
だが、
迷っている。
止まった。
いい判断だ。
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――子猫視点――
あれ、
こっち見てる。
動かない。
おっきい。
でも、
こわくない。
たぶん。
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――ミケ視点――
俺は、
尾を、
ゆっくり一度、
動かす。
これは、
言葉だ。
「そこでいい」
という意味。
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――飼い主視点――
ミケの尻尾が、
揺れた。
いつもの、
あれだ。
落ち着いてる。
……はず。
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――ミケ視点――
子猫が、
座った。
境界の、
向こう側で。
序列は、
今、
決まった。
俺は、
動かない。
それでいい。
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夜。
箱は、
動かなかった。
距離は、
三歩のまま。
だが、
空気が、
少し柔らかくなった。
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――ミケ視点――
序列とは、
押しの強さではない。
譲る場所を、
最初に決めることだ。
俺は、
この家を知っている。
だから、
急がない。
小さい世界が、
大きくなるには、
時間が要る。
世界征服とは、
増えた世界を、
壊さずに並べることだ。
箱が二つになった夜、
俺は、
まだひとつも失っていない。
それが、
最も重要だった。




