第二十七話:段ボールは、国境である
箱には、
内と外がある。
それだけで、
十分な構造だ。
俺は、
新しい段ボールを見つけた瞬間、
世界地図を更新した。
匂いは、
まだ白い。
何も書かれていない歴史書の匂いだ。
俺は、
前足を一歩、入れる。
次に、
頭。
最後に、
胴体。
尻尾が残るのは、
わざとだ。
国境は、
見える必要がある。
箱の中は、
音が違う。
外界は、
薄く、
遠い。
ここは、
保護された空間だ。
俺は、
中で一度、丸くなる。
身体のサイズを、
国土に合わせる。
段ボールは、
完璧ではない。
隙間がある。
角は弱い。
湿気に負ける。
だが、
それがいい。
永遠の国境など、
存在しない。
外から、
人間の気配が近づく。
覗き込む影。
だが、
ここから先は俺の領土だ。
無言の圧が、
境界線を引く。
人間は、
一歩下がる。
理解が早い。
箱の外で、
世界が動く。
箱の中で、
俺は動かない。
支配とは、
動かないことだ。
時間が経つ。
段ボールは、
少し柔らかくなる。
角が、
俺の重さを覚える。
国境は、
徐々に、
俺に合わせて歪む。
これは侵略ではない。
同化だ。
箱が、
俺を受け入れる。
俺が、
箱を定義する。
やがて、
人間が言う。
「もうボロボロだね」
違う。
成熟しただけだ。
段ボールは、
やがて捨てられる。
それも知っている。
だが、
国は消えても、
支配の記憶は残る。
次の箱へ。
次の国境へ。
世界征服とは、
永続ではない。
更新だ。
今日も俺は、
小さな国境を一つ、
確かに越えた。




