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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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任命式は波乱の幕開け

 そろそろかな。隣に立つシャルルはまっすぐに前を向いて、少し眉間にしわを寄せていた。そりゃ誰だって緊張くらいするわよね。


「ラウル・オーエン魔爵ならびに婚約者ノエル・オベール男爵令嬢、中へどうぞ」


 扉が開くと整然と並ぶ貴族たち、魔術師たちに圧倒される。シャルルが震える私の手を優しく撫でてくれた。


「大丈夫。そこらに転がる石だと思えばいい。仏頂面にひげでも描き足してみなよ」


「ふふ。今日は楽しむんだったわね」


 なぜ皆様そろって怖い顔をされているのかな。任命式ってもっとお祝いムードかと思っていた。ラウルが魔術師長になるのを反対なのかしら。たぶんすぐに辞職すると思う。魔法省にいるのは魔獣達を守るためだもの。それは魔術師長でなくてもできる。


 国王陛下と王妃殿下の前でも私は婚約者と紹介されたが、ここで否定などできない。今日限りの仮の婚約者を演じましょう。国王陛下の前でシャルルがひざまづく。続いて私も。


 南塔団長のエドガー様が羊皮紙を広げて読み上げる。


「魔術師長は国のため、民のためにのみ魔術を使う。無断で出国してはならない。決議された出動要請を拒否することはできない。……王への忠誠を誓うこと。謀反を起こせば直ちに魔法具で拘束。魔術師長であろうとも逃れる術はない」


 魔術師長に選ばれるような者が本気を出したら誰にも止められない。国はただ力の強い魔術師を管理したいために魔術師長だなんて職を作ったのね。逃さないように首輪でもつけるみたいだ。


 高位の身分を与えられたって王族には逆らえない。もたらされる報酬だって取り上げられたら無一文。家族も大変ね。あっ、だから妻もしくは婚約者を同伴なのね。何かあれば家族を人質になんてこともあり得る。覚悟しておけって事だ。


 国王陛下と魔術師長ラウル、立会人エドガー様のサインと血判で『魔術師長任命』という契約が結ばれた。


 本人でなくても大丈夫だったの? 私の視線に気づいたシャルルがウインクしてきた。ずいぶんと余裕ね。心配無用でした。くせ字までそっくりに真似て、ラウルの血はあらかじめ用意されていたんだろう。


「おめでとう。オーエン魔術師長。これからも頼りにしていますよ」


 エドガー様が握手を求めるが、シャルルは手を出さない。王子にまで忠誠は誓ってないとでも言いたいのかしら。でも次の王様はエドガー様なんだよ。やっぱり第一王子のリシャール様の方が良かったかな。


「このあと舞踏会まで少し時間がある。先に軽く食事でもどうかな。ノエルの好きなものを用意させたよ」


「ノエル、どうする?」


「せっかくですから、いただきたいです」


 王宮のお食事はとても美味しかった。何が出るか楽しみ。…のはずでした。


 食堂に案内されて席に着くと、すぐに前菜が運ばれた。軽食かと思っていたけど、ハーフコースだった。次はメイン。運ばれたお皿を見てぎょっとした。隣に座るシャルルにだけ聞こえるように声を落とす。


「これは、何のお肉でしょう。もしやあれよね」


「鹿肉だね。ふふ。エドガーが僕にお楽しみにって言っていたのはこれかな」


「笑い事じゃないわよ。どうしよう。手をつけない訳にいかないわ」


 女性が残してもマナー違反にはならない。でもエドガー様は私の好きなものと言っていた。何故このようなものが用意されたのか理解に苦しむ。絶対に口にしたくない。ラウルがいなくて良かった。見せたくもない。


 上座からエドガー様が見ている。リシャール様は席についていない。こんな時になぜいないのよ。


「ノエルは今、何が食べたい」


「もう席を立ちたいくらいよ。でもチョコレートなら食べられるかな」


「ラウル、私にはリキュール入りにしてちょうだい。気分が悪いわ」


 うなずいたシャルルが指をパチンとならした。うん? 魔法をかけた? 特に変った様子はあるような。ないような。特有の匂いはしなくなった。


「ノエルもどうぞ。僕も食べられるようにしたから」


 恐る恐る口に運ぶ。思わず声を上げそうになって口元を押えた。見た目は鹿肉のソテー。なのに味はチョコレート! 一切れ目は生チョコ。口の中でとろける! 二切れ目はイチゴのチョコがけ。甘酸っぱさがいいわ。三切れ目はほろ苦。これも美味しい。


「人前で食事する機会はいくらでもあるからね。何が出ようが、これで失礼にはならないでしょう」


「グラスのお酒も?」


「そう。中身は水。それも保護区にわく清水に変えている。旨いんだ」


 最後のデザートはあの高級菓子店のものだった。王宮にも出入りしているのね。それをシャルルが冷たい氷菓に変えてくれて口直し。私達は無事に食事を終えることができた。


 食事が終わると、一度オーエン伯爵家に割り当てられた部屋へ移動。クリスタ様の侍女とアメリが待っていた。高位貴族ってすごいな。男爵家なんてひとつの部屋に押し込まれるもの。


「ノエル様。少しお化粧直しをいたしましょう。こちらへどうぞ」


「ありがとう。お腹が苦しいの。少しウェストを緩めてくれる?」


「それくらい我慢してください。踊ればすぐに戻りますよ」


 美味しくてつい食べ過ぎた。夕飯は抜きにしよう。


「ノエルに無理させないでくれ。そうだ。ドレスを着替える? それもいいけど、他のも見たいな」


「用意なんてしてないわよ」


「大丈夫。(パチン)今、用意した。ほら早く着替えておいで。時間がないよ」


 パウダルームに行くと、見たこともないドレスが置いてあった。


「これは……」


「あの子ったらずいぶんと張り切ったわね。これもつけてみて」


 クリスタ様も着替えを手伝ってくださった。最後にネックレスがつけられる。土台はラウルの角だ。真ん中には深緑のエメラルド。<ここにはない場所>で見上げた夜空を切り取ったかのようなドレスは、動くたびにきらめく。どんな仕掛けなのよ。


「ラウル様、お待たせいたしました」


「綺麗だ」


 一言だけ? そろそろ正体を明かしてくれてもいいのに。さすがに疎い私でもわかるわ。まだ何か驚かせるつもりかしら。なら知らない振りを続けましょう。

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