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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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僕らに足りないもの

 母に話があると柱の陰に連れて行かれた。ノエルから話を聞いてかなりご立腹。これは小言確定。会話が漏れないように防音壁を張った。


「ラウル。やっと姿を見せてくれたと思ったらどういうことなのかしら。せっかく二人のよりを戻そうとした母の気遣いを無駄にする気なの? 中身がシャルルと思われていたって、やりようがあるでしょう。あの子の勘違いを正すのは今しかないわよ。いいわね」


「わかっています。ノエルの誤解が解けるように頑張りますよ」


 次にノエルの機嫌を損ねたら、あれをノエルとリシャールにまでばらすと言う。それだけは勘弁して欲しい。それは尻尾をつかまれると一瞬だが、まったく動けなくなるというもの。その一瞬が命取りにもなってしまう最大の弱点と言ってもいい。


 幼い頃は幼獣だけでなく、領地に住む人の子どもらともよく遊んだ。ある日のこと。いつもの追いかけっこじゃつまらないと、いつの間にか尻尾取りとかいう恐ろしい遊びに変っていた。


 ズボンの後ろに全員がワラで編んだ偽の尻尾を挟み、とられないように逃げ回りながら、一番多くの尻尾を集めた子の勝ち。抜けたいとも言えずに泣く泣くワラの尻尾をつけた。


 逃げ回りながらずっと自前の尻尾まで抜かれたらどうしようと心配でたまらかった。追い込まれて、とうとうワラの尻尾を抜かれた時は、あまりの恐怖に鹿に戻ってしまい、ピーピーと鳴いて母に助けを求めた。それくらい子鹿にとっては恐ろしかった。今でも尻尾に触れられただけで足がすくむし、母にからかわれる。


 とにかく今はノエルの機嫌を直すことが先決。騙すつもりはなかったけど、今の僕はシャルルだ。上手く利用させてもらう。 


「先ほどは失礼いたしました。金目様があまりにお綺麗で、調子に乗り過ぎました。反省してます。この哀れな猿と一緒に任命式へ出ていただきませんか?」


「クリスタ様からお叱りを受けたなら、私からは何も言いません。お母様からの頼みでもあるし、最後まで二人でやりきるわよ」


「そう言っていただけると助かります。どうでしょう。どうせなら二人で楽しみませんか? お互い緊張しないで済む相手。ほら、もっと笑顔で。クリスタ様にいいところを見せましょう」


「そうよね。せっかくだし楽しむことにする。大きな式典に出るのは初めてだし、一生に一度くらい王宮の舞踏会に参加してみたかったの」


 ノエルが笑ってくれた。最高に可愛い。だが待てよ。あちこちからノエルに向けられている視線は何だ? 認識阻害魔法をかけようか。そうすると僕の婚約者であるノエルの存在を消す事になる。他の女性を伴っていると誤解されても困るし、仲の良いところを見せつけるしかないか。


「ノエルと呼ばせてもらいますよ」


「いいわよ。ところでラウルとシャルルはどういう関係なの?」


「幼なじみなんだ。何でも知ってるよ。知りたい事があれば聞いて」


「私は何も知らなくて。そうね。ラウルの苦手なものは何? 食べものでも何でもいいいわ。教えて」


「それを知ってどうするの? 仕返しでもする気?」


「違うわよ。事前に知っていれば、余計な事をして、これ以上嫌われなくてすむからよ」


 なぜ嫌われていると思っているんだろうか。今さらだが、僕らに足りないのは会話だ。言葉に出さずともわかってくれていると思い違いしていた。


「本人じゃないけど自己紹介からしようか。名はラウル・オーエン。歳は23歳。


 父は魔獣、母は人。たまに保護区で鹿に戻るけど、ほぼ人の姿で過ごしている。手が使えると便利だからね。職業は魔術師。父が不在の今は魔獣王の役目もしている。君にルーラーと名付けてもらってからさらに魔力が強くなった。ありがとう。


 大量の瘴気を一度に取り込む時は七つ面に姿を変える。君が恐れずにいてくれたのがとても嬉しかった。とラウルは言っていた。見られたくはなかったらしいけどね。


 趣味は読書と落ちた自分の角磨き。保護区の私室に保管している。角を利用して薬やペーパーナイフ、まだ下手だけどアクセサリーを作ることもあるよ」


「怖いどころか、ちょっと可愛いなんて思ったけどな。でも瘴気がなくなればもう七つ面に変る必要はないね。魔法省から届いた箱に入っていた指輪もラウルの手作りかな。字は下手なのに、意外と手先が器用なんだ。てっきりマリエッタにあげるものだと思っていたけど、お母様に差し上げるものだったのね」


 あの姿を可愛いだって? どこを見たらそう思うんだろうか。そして、なぜまた大勘違いするの? 指輪は君へだよ。結婚指輪にしようと一番魔力のこもった箇所から作った。その指にはめてあげることはできないから、黙っておこう。


「肉類は食べないし、酒も飲めない。鹿だからね。それと香水。花や新緑の香りは好きだけど、魔獣はみんな人工的な匂いは苦手。あとは騒がしいところ。人の子どもも苦手。でもノエルとの子ならば大事にすると断言できる」


「そこまで聞いていません。我が家は余裕がなくて、ミートパイもハムのサンドイッチも作って渡せなかった。私は香水をつけないし、それで良かったのね」


「ノエルの作る素朴な木の実の入ったクッキー。あれは大好物。香水なんかつけなくても君からは、魔獣が好む匂いがするよ」


 それは前にアメリにも言われたな。クンクンと匂いを嗅がれた。猫にまたたびみたいなものかな。首筋にまで顔を近づけられた。近すぎるよ。横を向いたら唇が触れそうだよ。


「マリエッタと何もなかったとわかったけど、どうしても気になる事があるの。聞いてくれる?」


 やっと離れてくれた。心臓に悪いわ。


「どうぞ。些細なことでも聞いてよ。この機会にモヤモヤを吹飛ばしてあげる」


「私とマリエッタが描かれた姿絵を一枚あげたんだけど、私の顔だけがこすられて消されていたのよ。どう思う? やっぱり嫌われていたのかな」


「ノエルを嫌う? そんなことはあり得ない。あの絵はね。触れることができない君の代わりに毎日撫でてた。それでたまに、キ……キ……。これ以上は言えない」


「急にお猿に戻らないでよ。そうだったんだ。すごく嬉しいけど恥ずかしい。誰にも見られてないかな。そういえば魔獣除けの銀の腕輪の他に、魔獣除けの魔術もかけられていたらしいの。そこまでする必要あったのかな」


「あるよ。今は制御ができるだろうけど、呼び寄せるために歌いでもしたら、ものすごい数が押し寄せてくる」


 そうだよね。離れで適当に歌っただけでかなり集まってきたもの。


「婚約者の事を聞かれると急に不機嫌になったって。それは何故だろう。私の容貌も家格もぱっとしないから、本当は婚約を後悔していたのかな」


「ノエルは自分の評価が低すぎる。すごく可愛いし、今日なんてドキドキしっぱなしだよ。魔獣に人の身分なんて無意味。わざと機嫌を悪くしたのは照れもあったからだけど、他のオスにとられないように隠しておきたかったから。それに古代文字が読めると知れたら危険が及ぶ。口下手な奴なんだ。そろそろ許してやってよ」


「許すも何も。私もどうかしていたわ。本当はラウルにこのドレスを見て欲しかった」


 大丈夫。ずっと見ているよ。


「それとノエルの育った森の家に新婚旅行に行くことを勝手に決めてすまなかった。驚かせたかったんだ。あんなことがなければ、僕たちは結婚して、離れで熱々の新婚生活を送っているはずなのに。エマなんて助けに行かず、石になんて入らなければ良かったんだ」


「ちょっと。また変な事言ってるわよ。石に入ってくれたおかげで瘴気がそこら中にまき散らされずに済んだのよ。それにエマとは今では友達なの。軽はずみなこと言わないで」


「そうだったね。ごめん。とにかくラウルは君を嫌ったことは一度もない。忘れないようにもう一度言おうか?」


「大丈夫です。本人から聞きたかったけど、嫌われてはいなかったのね。これでやっと一人で歩き始められる。シャルル、ありがとう」


 ノエルの目に涙が光る。誤解は解けたみたいだけど、二人で歩きたいとは言ってくれなかった。やはり離れる運命なのかな。


「さて、そろそろ任命式が始まる。何があっても僕から離れないでね」


「はい」


 大広間へ続く荘厳な扉の前で、呼ばれるまで待つようにと言われた。


「あなたは慣れているでしょうけど、私は緊張して手まで震えてきた」


「大丈夫。心配ないよ。そうだ手をつなごう」


 初めて手をつなぐのに、いきなり指を絡ませてきた。抗議をこめてじっと見つめると、少し首を傾けて、微笑み返してくる。ちょっとした仕草までそっくり。まるで婚約時代に戻ったみたい。


 ふふ。私はラウルの「大丈夫」と優しい笑顔に弱いの。特別に許してあげよう。

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