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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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友達はご先祖様

 幼い頃は母と二人暮らし。王都に移り住んだ後も同じ年頃の女の子と言えば、不仲な従妹のマリエッタだけ。最近まで友達と呼べるのは魔獣だけだった。生まれた時代は違ってもエマとはわかり合えるところがあって、一緒に過ごすのが楽しくなってきた。


 さすがというか、どの文字も即答で教えてくれる。論文の読み解きは午前中だけでに20ページも進んだ。これは思っていたよりも早く終わりそう。


 約束通りお茶の時間に母屋から運ばれたケーキを出すと、エマは目を輝かせた。その反応わかる! 私もここに来て、初めて見た時は驚いたもの。お店で出てくるようなしっとりとして、きめの細かいスポンジの上に山盛りフルーツと真っ白なクリーム。添えられたソースの甘酸っぱさに、頬が落ちるところだった。


 エマがいることはまだ内緒なので私の分を二人で分けた。一人で一皿食べるより美味しく感じた。


「半分だと物足りなかったんじゃない? 明日からはもう少し量を増やしてもらおう」


「半分じゃないよ。ノエルは少ししか食べられなかったね。大きい方とっちゃってごめん」


「エマちゃんはまだ成長期じゃない。気にしないで食べなよ」


「でも明日からはきっちり半分にしよう」


「ありがとう。ねぇ。パンケーキでも焼こうか。別腹なんてないかな?」


「ノエルの意地悪! 別腹を認めます。私にも手伝わせて」


 マリエッタと分けることなんてなかったし、一緒にテーブルに着いてもおしゃべりしたことはない。文句か自慢話を黙って聞くだけ。食べるのに夢中で話すことはしなくても、エマがいるだけで楽しくなる。


 二人でパンケーキを焼いた。エマに粉をふるわせるとそこら中を粉だらけにした。片手で卵を割ってみせると拍手されて、「私もやりたい」とエマが割るとなんと黄身がふたつ入っていた。今度は私が拍手する。フライ返しを手にしたエマがうまく返せなくて、生地がフライパンの外へ飛び出した。それでもどうにか焼き上がったパンケーキにチョコでお互いの顔を描いてみる。もう可笑しくて二人で笑い転げた。


 その後はまた並んで座り、読み解いていく。難解なパズルが端から埋まっていくようだ。


 ラウルは瘴気自体は悪くないと考えていた。


『毒草だって使い方次第では薬になる。瘴気もまた何かに役立てることはできないだろうか』


 本当にできたらいいだろうな。ラウルならきっとできる! 今度はあなたを信じるよ。


 今日はここまで。暖炉の前でアメリに借りた雑誌を読むことにした。エマがあれこれ聞いてくる。流行りの服、歌劇の新しい演目。おすすめのデートスポット。どれもエマには刺激的だったよう。


「贅沢は敵。全部が無駄だと思っていたけど、違うのかな」


「時代によって流行りは違うだろうし、必要なものも違うよね」


「古いもの。新しいもの。せっかく長生きしてるんだから、この目で見てみたい」


「私もエマちゃんと見てみたい」


 ふふ。顔見合せて笑った。


 エマは久しぶりに長く人形から出て疲れたのか、夕食を食べながらうつらうつらとしている。


「エマちゃん。寝るなら客間に行こう。私のだけど寝間着を貸してあげる」


「ありがとう。お兄様はまだ帰らないね」


「なぜマークスさんをお兄様と呼ぶの? 友達ではないんだ」


「あれこれうるさいし、世話を焼かれてばかり。子ども扱いされているうちは友達にも何にもなれない」


「エマちゃんに面倒見のいいお兄様がいて羨ましいけど、早く恋人同士になれるといいね」


 黒く固まった半身まで赤くなるエマがもう知らないと布団を被る。照れてるんだ。可愛いな。


 一緒に寝ようと片付けをして、客間に戻るとまた扉が開かない。幼子じゃないし一人で大丈夫でしょう。私の恋人(仮)、ただの石を抱いて主寝室へ行く。


「ノア、石を魔法で温めてくれる? えっ? 今夜はだめなの? 昨日は気まぐれだったのか」


 仕方がない。台所に温めに行った。火であぶりながら石に話しかける。


「ラウルは一人で寂しくないの? 向こうに友達はいる? 本当はご先祖様にあたる方だけど私に友達ができたのよ」


 返事をしないただの石だけど、なぜだかラウルに届く気がする。本当に届いたら困るけど。


「あなたの大親友リシャール様はきっと寂しく思ってるんじゃないかな。っていうかさ、ラウルは魔術師長に任命されたんだよ。もしかしてずっとリシャール様に仕事を押しつける気? 無責任な方は嫌いです。すぐに戻りなさい!」


 クシュン!


「えっ? なんだノアか。猫のくしゃみって人みたいなんだね。おいで」


 ノアはぴょんと膝に飛び乗り、ゴロゴロと喉を鳴らした。


 ***


「ハッ…ハクシュン!」


「どうした? まだ真っ裸でうろうろしてるのか?」


「うるさい。今の僕には服よりも暖かい体毛があるから裸じゃない。次は音声魔法でなく、服を送れ」


 目の前に浮かぶ青い玉から笑い声が漏れてきた。服は期待できないな。鼻がまだムズムズする。風邪ではない。どこかで噂されているのか。それもいきなり叱られた気がする。


 書類仕事を溜めないように、北塔は優秀な事務官を多く雇い入れた。それでも最後に団長のサインを欲しがる。それは副団長のリシャールに任せてある。僕の出番は討伐の時だけでいいという条件で団長になった。それなのに魔術師長にされたって? 断ってくれたら良かったのに。面倒な任命式はまた猿のシャルルを使えばいいか。


 リシャールの報告だとここ最近は瘴気を出す魔獣が激減していた。それなら討伐に行かないで済む。


 リシャールとエドガーが魔獣狩りを禁止にした事も大きいが、今世の金目の乙女の存在が知れ渡ったせいかもしれない。存在だけでも魔獣たちの拠り所になる。


「そっちに何か変った事はないか?」


「人語を話せない魔獣達が騒いでいる。巣が荒らされて、番いで連れ去られた形跡もあった」


「それは密猟者の仕業か?」


「今それを確かめに行かせている」


「こっちで出来る事があれば何なりと言ってくれ」


「今はない。兄弟仲良く魔法省で仕事してくれ。動くなよ」


「わかった。服はノエルちゃんが腕の不自由なお前用に作っているらしいぞ。裁縫上手で料理上手。余計な事に首を突っ込まなければ最高の嫁だな」


「そうだな。最高のあとに可愛いもつくぞ」


「それエドガーも言いそうだ。じゃあまたな」


 青い玉が弾けて消えた。


 リシャールも嫁と言っていたよな。やっぱり婚姻届け出されたのか。一度確かめに本人に会いに行ってみようか。

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