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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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グレー

 実体ではないが我が家に帰ると、ノエルが客室のドアノブと格闘していた。


「おかしいな。びくともしないよ。『開く!』古代文字を唱えてもだめか」


「『開く』だけじゃだめ。『ラウル』『お願い』『開けて』だよ。それより早く僕らの部屋へ行こうよ」


「ニャ~~ア~」


 石の中から声をかけても彼女には聞こえない。代わりにノアが気づいて返事をしてくれた。それも僕のかけた魔法に呆れたのか間延びしていた。どこか馬鹿にされた気分。


「グレー、外の見回りに行ってこいよ」


「ニャッ!」


 ノエルの前では良い猫ぶっているが、口は悪いし、すぐにへそを曲げる。そのくせ好きな子に声もかけられないヘタレで……。僕のことではない。今はノアと呼ばれる黒猫チャコール・グレーの事だ。拾った時は真っ黒でなく消し炭色。見たままで名付けた。子猫の時は可愛かったのに、最近は名付けが雑だと文句を言われ、ノエルがノアと名付けてからはグレーと呼ぶとたまに無視される。


「これ以上ノブを回したら壊しちゃう。今夜もあそこを使わせてもらおう。ノアもお散歩から戻ったらおいで」


 グレーがすっと消えた。石から不穏な空気を感じたのか相変わら逃げ足は早い。家の前で拾ったグレーは魔力が高く、とても賢い。そしてたまに僕をキレさせる。


「ノエル様にまた抱っこされたにゃ。石にはわからないだろうけどぉ。すごく柔らかくて、暖かいのにゃ~」


 わからないよ! 石の中にいたって彼女の温かさは感じられるから、嫉妬なんてしない。


「体中を優しく洗ってもらったにゃぁ。その後乾かしついでにマッサージまでしてもらって天国だったにゃぁ」


 石も丸ごとゴシゴシ洗ってもらうし、顔を描いてもらって、服まで着せてくれた。いいだろう。猫と張り合う自分はどうかと思うが、気の置けない奴で憎めない。リシャールと似た者だな。そういえばまだユーグ様に憑依された件を聞いていなかった。


 グレーをここへ寄越したのは、もちろんノエルの護衛を頼みたかったのだが、前からペットを飼いたがっていたから。鶏もいいけど猫もきっと喜ぶと思ったんだ。


 見栄っ張りの伯母さんが犬や猫の毛がつくのが嫌だとかでペットが飼えないと漏らしたノエルに、鶏を飼うのはどうかと僕が勧めた。毎日卵が食べられるなら、叔母さんも反対しないはず。僕もまたクッキーを焼いてもらえるかもなんて期待もあった。


 勧めたはいいが、翌日から討伐に出掛けてしばらく会えなかった。やっと帰還できてノエルに渡そうと有精卵を魔法で暖めながら図書館に行ってみると、難しい顔をして本を読んでいた。それも少し前屈み。お腹でも痛いのか心配して声をかけると、違うと言ってタオルにくるんだ卵を見せてくれた。


「ラウル様、お帰りなさいませ。こうして卵を暖めているのですが、なかなかヒヨコが産まれないのです。どうしたら良いのでしょう」


 卵売りから買った卵を大事に抱えていた。困った顔も可愛いけど、それ無精卵じゃないかな。


「そろそろ産まれるよ。一緒に孵化が見られるなんて嬉しいな」


「産まれそうなんですか? 私にはぜんぜんわからなかったです。さすがラウル様ですね。ここで孵ったら迷惑になりますから、お庭に出ませんか?」


「うん、そうしよう。お願い。僕にも卵を暖めさせて」


 タオルごと受け取り、こっそり有精卵と入れ替えた。そしてベンチに座り、一緒にヒヨコが殻を割るのを見守った。あの時の君は本当に嬉しそうだった。そして会うたびにコッコとリコちゃんの話を聞かせてくれた。


 あの頃はいつか連れて行くことになる保護区の幼獣たちの世話が一緒にできたらいいな、なんて思っていたっけ。


 二人の寝室へ入ると、石を柔らかいクッションの上に置いてノエルは浴室へ行ってしまった。連れて行かれなくて良かった。僕の意識がどこか遠くへ飛んでしまうところだった。


 さて、今のうちに外の様子でも見に行こう。細い魔力糸を伸ばしノアの後を追った。このまま部屋にいたら理性がふっ飛ぶ。


 離れの周りを探索すると鶏が増えていた。いつの間にうちの娘達は婿を取ったのか? 親鳥の気分だ。相手は鶏魔獣。普通の鶏の倍の大きさ。目つきも嘴も鋭く、つつかれてノエルに怪我でもさせたら大変。誰が連れてきたんだろう。


「ニャ~」


 エドガーか。余計な事をしてくれた。鶏魔獣は全て保護区の山奥へ送ったはずだ。どこで見つけたんだろう。


 鳴き声がやたらとでかくて早朝から騒音で起こされる。防音魔法をかけたところで、見た目が可愛いくないし、とにかく食欲旺盛。敷地内は荒らされ、雑草と一緒に花壇の花も食べ尽くされてしまう。今はエドガーが大量に置いていった餌をつついているが、ヒヨコなんてすぐにでかくなる。ノエルには悪いが保護区へ送ることにした。


 騒がれないように上手く転移魔法陣の上に乗せたいが、逃げ回って大人しく乗ってくれない。下手に捕まえると大音響で鳴かれる。


「グレーも手伝ってくれ。こら逃げるな! 無視すんな!」


 グレーのやつ、鶏魔獣が怖くて寝室へ逃げたな。僕がノエルと二人甘い夜を過ごすはずだったのに。山奥に密猟者が入ったのか調べに行くはめになった。

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