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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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石は元婚約者を甘やかしに行きたい

 リシャールの転移魔術で雷が落ちる前にオーエン伯爵邸から逃げ出した。


「さすが兄上と言いたいところですが、あんな速さで高度な魔術を使ったら、体に負担がかかりますよ」


「師匠の遊びに付き合うのも弟子の役目だからね」


「だからって無茶しすぎです」


 十代になる前に、十分な魔力があると判断された者だけが魔術を学ぶことができる。王族に生れたからと言って、人より魔力が多いとか、特別な魔術を使えるというものではない。魔力も使い続ければいつかは尽きる。


 少しでも負担を減らそうと考案されたのが魔法陣。あらかじめ少し魔力を込めておけば、瞬時に発動できて負担は少ない。唱えながら一気に魔力を高めて放つのは危険が伴う。魔術師が少ないのはこのため。命を落とす者が多い。


 弟が言うように人の体には負担だろうが、ラウルの腕を噛んで魔獣の血が混じったせいか、魔力量が格段に増えた。それだけ特殊な血なのだろう。魔法陣を描くのが苦手なのでとても助かるが、いまだに魔獣の血は馴染まない。うっ~気持ち悪。人前では悟られないように上手く隠す。


「心配するな。さて。ノエルちゃんのために伯父上探しをしようじゃないか」


「僕も手伝いたいけど、南塔の団長になってしまったからな。当分は魔法省に毎日顔を出さないといけない」


「北のラウル団長はこっちへ戻ってくる気があるのか、ないのか。これ以上ノエルちゃんを泣かせたらお前がなにするか、お兄ちゃんは心配だよ」


「あいつが戻ろうが、ノエルは僕が幸せにする。心配には及びません」


 ドガールは自分の放った魔術の暴発で死亡したと報告された。自業自得に変わりはない。魔術師長が怪しげなものを作り、人を拐かし、騙していたなど公表できない。副団長であるエドガーが南棟の団長に。魔術師長はラウルに決まった。


「エドガー。赤い布は全部で130枚作られた。103枚を回収して、すでに破棄されたと確認できたのが25枚。残り2枚を探している。ドガールの部屋になかったか?」


「なかったはずだが、僕ももう一度探してみます。でもその数は正確なのですか?」


「誰に渡して、誰に使ったのか記した台帳が見つかった。2枚だけ誰が持っているのかわからなかったんだ」


「そうですか。では何かあれば報告します」


「よろしく頼むよ。団長」


 ラウルの血のおかげか、古代文字を読めるとまではいかないが、なんとなくわかるものもある。それは数字。一度ノエルに数字を示す古代文字を見せてもらったから間違えない。赤い布に小さく通し番号があった。あと2枚。もしあいつが持っていたとしたら。彼女は絶対に許さないだろう。


 ***


 湖の畔に食いちぎられた布袋が落ちていた。湖底に沈むことなく、ドガールはこの世から消えていった。


「産んでもいない。ただ乳をやった人の子の罪を被るなんて。母は強いな」


 元はぶちの入った雌犬の白い影は真っ黒く瘴気にまみれていた。今は早く子のところに行きたいと静かに魔獣王が訪れるのを待っていた。


「おいで。静かに眠りにつけますように」


 影の額に手を当て瘴気を取り込んでやる。瘴気にまみれていたのに穏やかに消えていった。


「ごめんね。もう生れ変わることはできない」


 金目の乙女の歌声を聞いて目覚める魂たち。金目の乙女がいなければ、代わりにオルゴールが目覚めの歌を奏でてくれる。もう<ここにはない場所>に乙女はやってこない。奏でるオルゴールもない。


「今いる魔獣の魂が全て消えたらお終い。僕一人がここに残るのか。長い月日を一人で」


 そうだ。執務室に置いていたノエルの姿絵はどうしただろう。ここに持ってくればいい。


「あれはもう紙がすり切れるほど撫でたからな。よし。新しい絵を描かせよう」


 父に母への伝言を頼むと聞こえているはずなのに返事がない。自分で頼みに行くしかないなら、諦めるしかない。


 なぜだか急に父の浄化が進んで、力が戻ってきているのはここにいてもわかる。父の魔力がこの世界にまで届き始めた。父が存在しているうちは、彼女にルーラーと名付けてもらっても僕は魔獣王代理にすぎない。


 母には会いたくないが、彼女の様子が気になる。そろそろ寝支度を始める頃かな。もう少し魔力を強めてみるか。意識を石に向けた。

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