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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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勝手にお世話係になりました

 ボス猿シャルルはマークス様の姿で見送ってくれた。偽物とわかっていても騙される。


 マリエッタの中では石を砂にして、ラウルは死んでいることになっている。まだマークス様へご執心なんだ。もう心変わりしないで平穏に暮らして欲しい。


 下着泥棒のお猿も見つかった。雌猿だったのがせめてもの救い。彼女はお猿の女王マリエッタ様のお世話係だった。苦労をかけて申し訳ないと言ったら、一日中ベッドに潜っているからそれほどでもないと言う。先が短いのかと心配になってきた。ボニー達の魔獣化が止まって、人に戻ってきている。マリエッタも止まりますように。


 ***


 浮気疑惑をやっと晴らす事ができた。口で伝えても信じてもらえそうになくて、子どもが生れたらマリエッタの所へ連れて行こう思っていた。子猿には会えなかったが信じてくれて良かった。


 あの猿め。図書館デートの時間を作るための替え玉が、とんでもない事をしてくれた。それにあの遺跡には最古の魔術を記した壁画がある。いつから猿魔獣の郷にしていたんだろうか。早く追い出さないといけない。壁画に落書きでもされたら大変だ。


 それにしても焦った。彼女が僕の子を欲しがってくれていたなんて聞いたら、すぐさま姿を人に戻して、教会に転移しそうになった。魔力が尽きかかっていなければ、本当に行くところだった。


 石の中だったが離れで君と二人、すでに新婚生活は始まっていたようなものだ。正確には石の中にエマもいたから三人だが数には入れない。離れにいた頃は意識を保てていなかったから居ないも同然だ。


 花嫁衣装は見たいから式は挙げたい。仕立て上がっても僕だけ見せてもらっていなかった。指輪のサイズが心配だったが昨夜確認した。僕の角から作った魔力入り。早く君の綺麗な指にはめたいな。


<ここにはない場所>の大地にいい気分で大の字で寝転ぶと、また魔獣達がやって来てはひと舐めしてくれる。瘴気が薄れていくと同時に浮かれ気分も急激に醒めていった。


 どうかしていた。魔力を取り戻したら、向こうの魔獣達を眠らせたらこっちへ呼び寄せて、君から僕の記憶を消す決心をしていたのに。


「くそっ! どうしたらいい!」


 ノエルを失うなんて無理だ。彼女のいない世界で僕は生きていけない。瘴気さえ生れなければ、共に暮らせるのだろうか。


 驚かす気はなかったが大声に驚いて小さな魔獣達が逃げて行ったが、一匹だけ留まる魔獣がいた。


「坊主。荒れてるな」


「ユーグ様。どこへ行っていたんですか? そろそろノアから離れてください。ノエルが寂しがっている」


「お前さんが戻ればいいだろう。まだ信じていないのか」


「彼女のことなら信じていますよ。僕がいなくてもしっかりとこの先も生きていけるってね」


 相手がエドガーならまだ託せる。他の奴なら雷を落とす。


「また石からのぞき見する気か?」


 後をつけられていたのか。川で石を探す手伝いをした時に、ほんの少し魔力を込めておいた。側に置いてくれさえすれば、彼女の気配がわかる。


「最期の瞬間まで見守りたい。それくらいは許されるでしょう」


「ついて来い」


 ユーグはあの小さな家に入ると、ノアから出て棚に置いてある古いオルゴールと人形を差し出した。


「これは私の妻だ。大事に扱えよ」


 人形を起こすとまぶたが開く。金目ではなかった。


「お前さんからエマを引き離すために最後の魔力でオルゴールを鳴らした」


「ノエルがあの時歌ったのは、このオルゴールを聞いたから」


「いつか役立つ時があるかも知れん。大事にしろよ」


 そのままノアには入らずユーグは消えた。


「僕にこれを持ち続けろ。ではないな」


 ***


 保護区に戻り、クリスタ様に全てを話した。実家に戻るつもりだったが、クリスタ様は今まで通り離れで論文まとめをするように言ってくださった。


「ラウルが戻るまででいいの。お願いだからあなたまで何処かに行かないでちょうだい」


 そうだ。論文を全文解き明かそう。なぜだかそれをしなければいけないと直感した。それからラウルに会いに行くと決めた。


 クリスタ様のお部屋から伯爵家まで転移魔法陣を使わせてもらったので帰りは一瞬だった。あの山道を一人で戻ることにならずに助かった。


 当分エドガー様達には戻ったことは内緒。そのうち見つかるだろうが今は誰にも会いたくない。クリスタ様の許可した者しか入れない鍵を使って、離れに閉じこもることにした。


 扉を開けると黒猫が出迎えてくれた。


「ミャ~」


「あら! ノアはここに戻っていたのね。ユーグ様はもういないのかな。また一緒に暮らせて嬉しいわ」


 もう一人。巾着から川で拾った石を出した。


「今日からこの石をラウルと呼ぶわ。ノアもいいわね。悪戯してはだめよ」


 着替えならたくさん作り置きがあるけど、やっぱり鹿耳つきの帽子がいい。急いで縫い上げた。出来映えはまあまあかな。これから毎日お世話するからよろしくとキスをした。


「ラウル。疑って本当にごめんさい。直接謝りに行きたいけど、もう少し時間をください」


 解き明かしは明日から始めよう。先に掃除だ。


 床を磨いているとあの日と同じ、雨音が聞こえてきた。こっちに雷雲は来ないかな。あっ、ピカッと光った。


 ゴロゴロ バリバリッ! バーン!


 ふふ。雷が好きになるなんておかしいね。窓から外を眺めていると、私ではない人影がガラスに映った気がした。


「誰?」


 振り向いて誰もいなかった。

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