白でした
神殿の奥から出てきたのはリシャール様。髪を乱し、寝間着でもないのに胸元がはだけています。王子様ともあろうお方がこんなとところで何をやってるんですか。
ここで驚いてはいけない。喜ばせたらまた何かしそうです。冷ややかな目でじっと見つめて差し上げました。後ずさりしても逃がしませんよ。
「下着泥棒はあなた様の指図ですか?」
「そうです。でも助かった……。あれをどうにかして欲しい。まさか本物の金目の乙女様が来てくださるとは思わなかった」
認めましたね。でもちょっと待って。乙女様?
いつもの「子ネズミちゃーん」でも「ノエルちゃん」でもない。初めて会ったみたいな反応よね。
「リシャール様はなぜここに? エドガー様と王都へ帰られたのでは。まさかご自分の転移魔法陣に乗り換えて迷子になったとか? そして現れた先の石壁に頭ぶつけたのですか?」
「心配してくださるのか。あれと違ってお優しい。金目の乙女様はこっちが好みだったかな。失礼いたしました」
一度部屋から出られたリシャール様が戻られたと思ったら、現れたのはエドガー様? どうなっているの?
「えっと。私はまだ夢を見ているんだ。もう起きなきゃね。アメリ、頬を思い切りつねってくれる?」
「ノエル様は起きています。私にもリシャール様が見えたし、目の前のエドガー様も見えてます」
「まだ寝ぼけてるのかな」
主さんがざらざらとした舌でペロッと舐めてくれた。完全に目が覚めました。でも目の前のエドガー様は消えていません。幻覚を見るほど疲れていたのかしら。
「これはボス猿の仕業ですよ。魔力まで似せているとは見事ですな。そろそろ正体を見せろ」
クリークさんが狼になって威嚇すると、目の前でエドガー様がお猿になった。周りのお猿よりもひときわ大きい。貫禄ありますね。そして人の姿に変わった。ガタイは良いけど、顔は平凡。凜々しい王子様達を見た後だから、少し期待しちゃったじゃない。
「今保護区の女性の間で最も人気なのはリシャール様。すぐに目移りするから大変なんだ。要望に応えるこっちの身にもなって欲しい」
頭をかきながら、やれやれはないでしょう。これはお二人の分も上乗せしてお仕置きです。あれを回収したら『変わる』『姿』『禁止』を即刻顔に写し書きしよう。
「クッキーはあげるから、盗んだものを返してください」
もう返せないと首を振られた。
「とにかく凶暴で手に負えない雌で、少しでも落ち着かせようと、乙女様の身につけていたものを与えてみたんです。そうしたら気に入ったようでずっと履いていますよ。脱がせますか?」
「誰にあげたんですか? お猿の女王様ですか? 新品を買ってあげれば良いじゃない。人の履き古しなんて嫌でしょう」
「もちろん買い与えました。でも新品は全て破かれました。ものは試しに金目様のものを与えたら、匂いを嗅いで泣いていました。よほど気に入ったんでしょう。少し大人しくなりました」
無理。もう私が泣きたい。匂いを嗅ぐって変態ですよ。それもこんな大勢のお猿やクリークさん、主さんの前で言わないで。なぜ金目のものを与えたのかはわからない。背格好が似ているのかしら。
「白のパンツはハンカチ代わりに使ってます」
倒れそう。さっと背を支えてくれたのはアメリ。
「奪い返しますよ。切れ端でも残らず回収して燃やしましょう。その雌猿の顔をズタズタにひっかいてやりたい」
持つべき者はやっぱり女友達。男共では役に立たない。
一応クリークさんは耳を垂らして聞かなかった振りをしてくれた。でも聞きましたよね。忘却の魔法はないでしょうか。ほら主さんまで横を向いてしまった。肩が震えてますけど、もしや笑ってる?
「その方に会わせてもらっても良いですか。代わりにハンカチをお渡しします」
クリークさん達にはこの場で待ってもらい、アメリを連れてその女王様に会いに行った。
女王様のお部屋には見覚えのある家具が置いてあった。少女趣味のピンクのドレッサー。鏡は割れている。香水の瓶は空っぽ。あらあら。私の服は入らなかったのね。ぐちゃぐちゃに丸めてあった。
布団を頭からすっぽりかぶってベッドの中で丸くなって眠っている。こんな所にいたのか。
「マリエッタ。起きて。帰るわよ」
「キキー! じゃなかった。その声はお姉様なの? 私を迎えに来てくれたのね」
「違うわ。たまたまここに来たらあなたがいたの。出てきてちょうだい」
「誰にも会いたくない。でも、お姉様には会いたい。叱られても良いから会いたかった」
アメリを部屋の外に出した。今はどこも怪我はしていないけど、またマリエッタに狙われるかもしれない。
「私しかいないわ。顔を見せて。お腹の子はどうした? もう生れたの?」
「子ども? あれは私の子なんかじゃない。捨ててきたわ」
布団を引っぺがすと、顔を見せたくないのか、人のパンツを頭から被った。今はパンツどころじゃない。
「今、何て言ったの? 捨てた? どこへ? あなたが捨てたのは私が欲しかったラウルの子よ。子どもを死なせたりしたら一生あなたを許さない」
前に見たときよりも魔獣化が進んでいる。腕を振り回されだけでも大怪我を負うだろう。それでも布団から引きずり出して、床に座らせた。
「お姉様も私も騙されていたのよ。ラウル様が魔獣だなんて知らなかった。生れてきたのは毛むくじゃらの猿よ。あんなに痛い思いして生んだのに。ギャー、痛い! ぶたないで!」
往復ビンタをしてやった。怒りが収まらない。マリエッタだけじゃない。自分にも腹が立つ。私はマリエッタの言葉を鵜呑みにした。自分に自信がなくて、ラウルを疑ってしまった。浮気なんてしてなかった。白でした。
「ラウルの子なら鹿だよ。ラウルは鹿魔獣……」
主さん! 主さんはラウルだ! なんで気づかなかったんだろう。大急ぎで戻ったがもう主さんは姿を消した後だった。




