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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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どうもお世話されているようです

 完全に寝落ちたのを確認して、人に戻った。


 腕の中の彼女はぐっすりすやすや。心配事だらけで眠れていないのはすぐにわかった。深く眠るように魔法をかけておいた。


 抱きしめるとその細さに驚く。魔獣よけの腕輪をしている時は指をくわえて見ているだけだったし、エドガーの体を借りて抱きしめた時も正直よくわからなかった。


 今は古代文字でとんでもない魔法も使うが、元は働き者の普通の女の子。メイド代わりに使われていると知り、すぐにでも伯爵家に引き取りたかったが本人が嫁ぐまでは実家にいると言い張った。支援さえも受けとろうとしない。きちんと食べているか心配しても「大丈夫」と逆に仕事漬けの僕を心配して、会うたびに手作りお菓子をくれた。


 本当に優しいし、すごく頑固。尻に敷かれてもいい。結婚したら思う存分甘やかそうと思っていた。世話されるのではなく、僕が君に尽くしたかったんだ。


 苦労をものともせず、その包容力で全てを包み込もうとする。その力の源は一体どこから来るのだろう。もう一度、か細い体を抱きしめた。


「ノエル様はとても素直な方ですが、鈍感すぎです。ラウル様に嫌われてると思い込んでいるし、この辺りで主なんて言ったら、魔獣王か後継者でしょう」


「しっ。起きたら大変。僕は今ここにいないことになっているからね。それに嫌われているのは僕の方だよ」


「ラウル様までおかしなこと言わないでくださいよ。嫌いな人に頼まれもしない服なんて縫わないし、世話なんて焼きません」


「人形ごっこならもうおしまい。お願い。朝まで少し二人にさせて」


「ではノエル様をお頼みします。ラウル様もあまり無理なさらないように」


 小さなリスがお辞儀をして暗闇に消えていくと、やっと二人きりになれた。愛しい君の寝顔を目に焼き付けておきたい。


 瘴気まみれのエマを見た時にあの古代魔法を使うと決めた。罠だったと知った今でもそれは揺るがない。


 魔獣と人はもう同じ世界では生きられない。この世にいる全ての魔獣を<ここにはない場所>へ連れて行く。そして人々から魔獣の記憶を消す。共存する世界を作りたかった。でももし君がエマのように瘴気にまみれたらと考えただけでも恐ろしい。


 君も僕の事を忘れるんだ。僕だけじゃない。幼い頃に出会った魔獣達。アメリやノア、保護区の幼獣達のことも忘れる。でも僕は君を忘れない。誤解を解きたいけど、君に嫌われたままの方が諦めがつく。


 それと僕の存在が最初から無いものなら、金目の乙女の役割も無くなって、代償を払わなくていい。あんな理不尽な代償なんてあってたまるか。


 でも僕を忘れないでとも願ってしまう。君を幸せにするって誓ったのに。悔しい。寂しい。朝なんてくるな。ずっとこのままでいたい。ポロリと涙が零れた。


 雨が降っている。夢の中で私は温かな雨に濡れていた。それは疲れた心を癒やすような。迷いも消えていくような。雨はすぐに止んでしまった。虹がかかるかな。


 トク トク トク。


 今度は主さんの鼓動だ。聞いているとすごく安心する。ずっとこのまま眠っていたい。


 ***


「ノエル様、起きてください」


「おはよう。あれ、なんか顔がベタベタしてる。まさか、よだれ垂らしてた?」


 アメリが顔を拭くように濡れたハンカチを渡してくれた。お猿を追いかけてきて迷子中なのに、こんなに熟睡できるなんて思ってもみなかった。


「主さんは?」


「いますよ。ノエル様の顔をすっごい舐めてました。今、反省させています」


 私のよだれじゃなく主さんのね。少し離れた所でアメリに叱られた主さんがうなだれている。


「大丈夫ですよ。気にしていません。こっちに来てください」


 嬉しそうにぴょんと跳ねてくれた。子鹿じゃないけど可愛いな。


 アメリが果物をとってきてくれて、朝からひもじい思いはせずに済んだ。クリークさんも戻ってきて、お猿の郷へ案内してくれることになった。


「大発見です。保護棟に戻って早く報告したいです。クリスタ様も大喜びですよ」


 そんなに? 私の下着……クッキー泥棒追跡の探偵団が、秘境探検隊になっています。でも楽しみ。下着さえ返してくれたらお猿とも仲良くなりたい。


 大興奮中のクリークさんは狼姿になっても乗せてはくれず、主さんの背に乗せてもらった。少し高くなって気分が良い。枝も避けてくれるので、傷もつかない。昨日はあちこちがひっかき傷だらけになって酷い目にあった。


 あれ、頬に触れてみると傷がない。主さんが舐めてくたおかげかな? さすが森の主さんです。


「ありがとう」


 耳元でお礼を言うと、体をブルリと震わせた。耳が弱いのかな。可愛すぎです。


 その後も川のそばで休憩してくれて、手足を洗うついでに一緒に水遊び。ラウルの入っていた石に似た石探しも手伝ってくれた。詳しく形を教えてもいないのに、蹄でここと教えてくれたのにはびっくり。クリークさんが釣ってくれた魚も焼いてくれた。すごい魔法も使えるんだ。


 綺麗な花が咲いていれば教えてくれる。小腹が空く頃には実のなる木の前で止まってくれる。完全にお世話されてますね。


 主さんがまた立ち止まった。どうしたのかな。次は何見つけてくれたの? 


「あれです!」


 人に戻ったクリークさんが指さす。寄り道ばかりしたけど、日が暮れる前に目的地に着いてしまった。主さん、帰りも乗せてくれないかな。もう少し一緒にいたい。話ができないかな。


 人に姿を変えたお猿が迎えにやって来た。お猿たちが住んでいたのは大きな岩山をくり抜かれた古代文明の遺跡。主さんがいなければ私にはたどり着かなかった。


「一族をまとめる長に会えるよう昨夜話はつけておきました。行きましょう」


 長い石段を登り、神殿みたいな場所へ案内された。そして奥から出てきたのは。


 この人は私を驚かすのがそんなに楽しいのかしら。本当に神出鬼没です。

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