迷子になりました
朝日が眩しくてまぶたが開けられない。でもすごく見られているのはわかる。
「おはよう、ノエル。そろそろ部屋に戻ろう」
私はもしかしてあのまま寝てしまった? やだ恥ずかしい。
がばっと起き上がると、私の周りには早く退けと睨むフクロウ似の鳥魔獣達がいた。コウモリ似も天井からぶら下がってじっと見ている。人がいたらゆっくり眠れないよね。ごめん。
「おはようございます。もしかして、エドガー様は寝ないで、ずっとこの子達に突っつかれないように見張っていてくださったのですか?」
「ん? うん。そうだよ。ちゃんと見張っていたよ。髪に羽毛が付いてる。先にお風呂に入ってから食事かな」
夜通し寝顔を見ていた。そしてそれを兄のカラスに見られていた。弟の悶々とする姿を笑うためだ。当分は兄上とは口をきかないと決めた。絶対にからかわれる。
欠伸をしているエドガー様にお礼を言って部屋に入るとアメリが綺麗に片付けておいてくれた。
クリスタ様から届けられた替えの服はクローゼットに。下着は鍵のかかる引き出しにしまってあった。金庫なみの二重鍵。どんなお宝かと開けたら下着だなんて、金品目当ての泥棒だったら怒りそう。高級レースつきで実家ではお宝に相当するお値段だと思うけど、下着なんてやっぱり盗らないよね。
少し遅くなってしまったが朝食の席に着くと、クリスタ様から犯人は必ず捕まえると力強いお言葉いただいた。でも下着ドロボウと大きな声で言わないで欲しい。盗まれたものが見つかったら私のだって皆にばれちゃう。それは嫌だ。恥ずかしすぎる。どうしよ。
「気になってたんだけどさ。ノエルちゃんの盗まれた下着は何色? 白? ピンク? 僕の好みはピンクかな。黒もドキッってするな。お前は?」
「し……。兄上! なんてことを聞くんですか!」
私より真っ赤な顔のエドガー様。なにやら想像しましたね。まぁお仕置きは免除しましょう。
「リシャール様。後ろ向いてください」
「こっそり僕だけに教えてくれるの? ぎゃー!!! 冷たい!!!」
「ふふん。私にだって少々魔法が使えるのを忘れないでくださいね」
背中に『氷』『塊』を入れて差し上げました。
「私も犯人捜しのお手伝いをさせてください。クッキーを焼いたら、釣られてやって来るかもしれません」
「そうね。ノエルにも手伝いをお願いするわ。リシャール様は少し外で頭も冷やしてきなさい」
呆れたクリスタ様に食堂から追い出されそうになると嫌だとごねる。仕舞いにはサボっていないで仕事をしろと怒られた。
「仕方ないな。王都へ帰るよ。メイドちゃん達もずいぶんと良くなったからね。頑張ったご褒美に王都で評判の大道芸を見せてあげる約束したんだ。ノエルちゃんもどう?」
「それは良いですね。私も見たいです」
「よし。貸し切りにしてみんなで見に行こう。それまでにあいつの仕事も片付けておくか」
「楽しみにしています」
<ここにはない場所>へ行くにはもう少し気持ちの整理をしてから行くことにした。考えなしに行ってはダメだ。ラウルの事を知りたい。婚約者だったのに何も知らなかった。
「僕もそろそろ帰るよ。南北の団長が不在に加えて、副団長もいないとあってはまずいからね」
エドガー様には責任もおありだ。引き留めてはいけない。鈴はどこまで聞こえるのかな。
「クッキー泥棒を捕まえたら私もすぐに戻りますね」
「気をつけるんだよ。くれぐれも無理はしないでね」
最後にギュッとしてもらう。当分会えなくてもこれで大丈夫なはず。だけどお二人が魔法陣に乗って姿が消えると、すごく心細い。でもラウルだって一人で頑張っている。私も頑張らなくちゃ。
クリークさんが厨房に聞いてくれたが、料理人達は今まで一度も姿を見たことがないという。毛の感じから、もしかしたらという魔獣がいるらしいが、ハーフやただ姿を似せただけの魔獣もいて特定には至らなかった。
アメリを連れて、厨房の隅でクッキーを焼いた。昨日と同じボソボソとバターと砂糖たっぷりの二種。換気扇を回して窓も全開。甘い匂いがそこら中に漂う。
探偵団はクリークさんとアメリと私の三人。クリスタ様はお産の始まる魔獣がいるため、すぐに第二棟へ行かれてしまった。
「クリークさん、味見に一枚いかがですか?」
「これはどうも。ふむ。私もこっちの素朴な方が好きですね。非常食にもなりそうだ」
原生林の奥に入ると地図もなければ、方向も見失う。夢中で魔獣を追いかけているうちに森で迷子になることがしょっちゅうあるそうだ。救援を待つ間に腹の足しになるものがあると助かるという。ボソボソは一枚でも食べ応えありますからね。レシピをあとで料理人に渡しておきます。
クリスタ様にお皿に触ると私達にだけ聞こえる魔法をかけてもらい、昼食の用意までの間、料理人達に外へ出てもらった。さて、餌にかかるかな。捕らえたらどうしてくれようとあれこれアメリと考えた。お尻百叩きくらいでは許してなんてあげない。
隣の配膳室に身を潜めていると、ビー、ビーと警報が鳴った。かかった!
厨房をのぞくと窓から身を乗り出した猿似の魔獣がお皿に手をかけていた。ささっとクッキーを袋に詰めて走り去っていく。その早いこと! 一瞬だった。これは料理人も気づけない。
「やはりあいつらか。追いましょう」
「はい!」
クリークさんの後に続いて、森の中へ消えていくお猿の背を追った。
「ノエル様、走れますか?」
頑張ってるつもりだが、獣道を走るのは人には無理がある。
「私に乗ってください!」
乗る? えっ~。クリークさんは狼だったんだ! 格好いい!
「キュルル」
えっ~。アメリまでリスに姿を変えて、枝から枝へ飛び移る。すばしっこいな!
それでもお猿には追いつけず、私達は原生林のど真ん中で迷子になった。




