告白
少しだけ外の空気を吸ってから部屋へ戻ると、扉の前に封筒が置いてあった。中には魔法のかかった鈴とおやすみと書かれたカード。エドガー様からだ。直ぐにでも三回鳴らしそうになるが我慢した。
クッキーは誰かに食べられてしまったけどそれで良かったんだ。今夜はお互いゆっくりと休むことにしよう。明日お話すれば良い。エドガー様の部屋に向っておやすみなさいと心の中で言ってみた。ついでにここにはない場所にも。
リン リン リン
ごめんなさい。扉を開けた瞬間に鳴らしてしまいました。
「ノエル! 何があった?」
寝間着姿のエドガー様が直ぐに来てくださった。ナイトキャップが可愛い! 見蕩れている場合ではないけど可愛いです。これもミニサイズで作らなくては。
「起こしてすみません。とにかく見てください」
「失礼するよ。……これは酷いな」
大した荷物もないが、鞄の中身が全て床に出され、引き出しの中も荒らされていた。
「紛失したものはある?」
「古代文字を一覧にしたものと、服とか……下着も」
写し書き用にも使えるようにした一覧。あれがないと困る。そして新品でもない下着をどうするのよ。
「許せないな。誰であろうと処刑する」
エドガー様から異様な魔力が漏れています! とりあえずしまって!
「どした~。下着ドロ? 泥棒に見せかけて、さてはお前か?」
騒ぎを聞きつけたクリークさんと、シャツの胸元がはだけたリシャール様まで欠伸しながらやって来た。その色気しまって! その格好で女子の病室へ行ったら、クリスタ様にきついお仕置きをお頼みしますからね。
「失礼な。違いますよ。ノエル、部屋に入るよ」
「少々お待ちを」
調べが入る前に、先にあれをしまわなきゃ。
エドガー様たちが犯人の痕跡がないか調べてくれた。
「これは魔獣の毛?」
「厨房にも現れた魔獣と同じかもしれない。確認しましょう」
クッキーの次は服。私が狙われているようだけど、目的は何だろう。わからないな。
「今夜は僕の部屋を使って。僕は兄上の部屋へ行くから」
「二人で寝れば良いじゃん。あれと母上には黙っておくからさ」
な、な、なんてことを。
「お話したいこともありますし、談話室に行きませんか? お茶を淹れます」
眠れそうにない。いっそ濃いお茶でも飲んで朝まで起きていよう。
「たしかにラウルの執務室でボニーはマリエッタと一緒にいたよ。時々紛れ込む子ネズミちゃんがいるから、誰か来たらわかるようにしておいたんだ」
私の事ですね。石を持っていなかったら、知らせがいかないものね。
「リシャール様にはボニーがラウルに見えなかったんですか?」
「本人がいないのはわかっているし、僕くらいの魔術師を騙そうなんてできやしないよ」
すぐにボニーがおかしいことに気づいて、医務室からここへ転移させたという。手際がいいです。もう一度教会に探しに行くことなった。行く当てのないマリエッタが立ち寄ったかもしれない。
話が終わったけど、部屋へ戻る気にはなれない。ここで縫い物の続きをしようかな。
「ノエル。星でも見に行かない? とっておきの場所を見つけたんだ」
「そうですね。行きたいです」
「ノエルちゃん、エドガーが何かしようとしたら叫べ。僕はいつだって姫を助けに行くよ」
「ふふふ。大丈夫ですよ。エドガー様は紳士ですから」
隣から「僕は我慢強いんだ」と聞こえましたが、他にも努力家で真面目な方だと存じてますよ。そしてリシャール様はいつも笑わせてくれる。優しい人たちに囲まれて私は幸せだ。
保護棟の屋根裏に上った。鳥魔獣が休めるように止まり木がある。今は外へ出掛けているのか一羽もいなかった。
「ここなら、寝転んで見られるよ」
天窓の真下にごろんと横になった。星空が目に飛び込む。
「すごく綺麗。顔をあげて見上げるのとはまた違いますね」
「私邸の屋根裏にも天窓を取り付けようかな。王都に戻ったらまた一緒に見よう」
「私はここで見られたら十分です」
遊びに行くのとは違う。住んでいなければ夜を一緒に過ごすことはない。
「ノエル。僕は君に話さなくてはいけないことがある」
「何でしょうか」
あれを見られたのかな。片腕が不自由になったラウルに服を縫っていた。渡しになんて行くなと言われるよね。
「ドガール団長が瘴気にまみれた金目の乙女を捕まえたと聞いた僕は、君かと思ってラウルよりも早く駆けつけた。でも君じゃなかった。もし君だったら僕も一緒に瘴気の中に入ろうとしたんだ。君だけを苦しませるなんて僕にはできないからね」
ふうと息を吐かれる。服の話じゃなかった。でもなぜ今この話を?
「その金目の乙女は捕まったというのに笑っていた。なのにラウルが来た途端に助けを求めた。おかしいと気づいたのに僕はラウルに言わなかった」
横を向くとエドガー様と目があった。でもすぐにそらされた。
「どうにか瘴気を押さえ込もうとしたけど、僕ら魔術師達にはどうにもできなくらいに、そこら中にあふれ出したんだ。ラウルが僕にその場にいた全員を転移させろって叫んだ後、僕はその通りに全員を避難させた。そして戻ることはしなかった。いくら北の団長で、次の魔術師長になる男だっていっても、一人じゃ対処できないとわかっていたのに、助けに戻らなかった」
今度は息を大きく吸って吐かれた。団員を安全に逃がすのも副団長のお役目。それを果たしたのにまだ何か?
「もしラウルが死んだら、君を手にできるかもって、思ってしまったんだ」
私にそれを責めることはできない。マリエッタに消えてくれと思ったことが何回あったろう。石牢の前で赤い布を使った時、私は知っていたのに代償の事を話さなかった。
「エドガー様。私、<ここにはない場所>へ行きたいです。きちんと向き合って話したい。どうなるかわかりませんが、先に進みたいです」
「君は強いな。一人で行っておいで。僕はずっと待ってる。ついでに服も持っていってあげて」
「ありがとうございます」
やはり見られてましたね。早く仕上げなきゃ。
「僕は君を心の底から愛してる。だから必ず戻って……。ノエル? 聞いてる?」
「……ふふ……」
「良い夢かな。笑ってる。寝顔も可愛いよ」
私は幼獣と人の赤ちゃん、両方を抱いている夢を見ていた。




