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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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クッキーを食べたのは誰?

 第二保護棟で母魔獣に甘えるちびっ子達の様子をエドガー様と眺めていた。背中に乗ったり、毛繕いしてもらったり、すやすやと寝ている子もいる。どんな夢を見ているのかな。


「可愛いですね。みんなのお母さんが戻ってきて良かった」


「ノエルは子どもが好きなの?」


「はい。好きですよ。すっごく可愛いです。コッコやリコちゃんも雛から育てたんです」


 ピヨピヨ鳴きながら私を追いかけていたヒヨコがあっという間に大きくなって、初めて卵を産んだ時はわぁわぁ泣いたっけ。人の子ではないけど親気分が味わえた。今では我が家の番犬ならぬ番鶏。


「ノエルは何人くらい欲しいの? 僕も子どもは好きだよ」


「自分の子どもはいいです。出産ってものすごく痛いって聞きました。私には無理そうなので、代わりに親を亡くした幼獣を育てる事にします」


 えっと意外な顔をされる。私だって愛する人との赤ちゃんを抱きたい。でも自分の子や孫、子孫に金目が生れたら嫌だもの。もうこんなお役目は私で最後にしたい。


「それも良いね。僕にもミルクあげる手伝いをさせてよ」


 一瞬寂しそうな顔をされたが、「たくさんお飲み」と幼獣に哺乳瓶を咥えさせた。ゴクゴク飲むと「可愛いな」と目を細める。


 本当はご自身の子にあげたいのでしょう。胸が痛んだ。いくら鈍感な私でも好意を抱いてくれているのはわかる。彼だけでなく、誰に望まれても応えられない。


 二人の会話を聞いていたクリスタ様がため息をつかれた。魔獣王の妻にはお見通しだった。


「ノエル。ラウルの赤ちゃんの時の絵があるの。見る?」


「ぜひ! 実は石にベビー服を着せた時から見たいなって思っていたんです」


「見ても驚かないでね。ちょっと人とは違うから」


 魔獣と人のハーフですものね。どんなかな。楽しみ。


 クリスタ様は私室の奥から他人に見せたことがないという絵を出してくれた。クリスタ様に抱かれた赤ちゃんラウルは魔獣であるお父上の血が濃く出ていた。


「私は自分の子だし、先に聞いていたから驚きもしなかったけど、ノエルはどう?」


「可愛いです! 毛がふっさふさ。突き出た耳がすごく可愛い。ぱっちりお目目が愛らしいです。まつげ長いな~。小さな手は人なのにつま先は蹄だなんて、これも可愛い。直ぐに立ち上がって走りだしそう」


 今はサラサラの黒髪だけど、生まれたばかりの頃は顔以外、全体的に薄茶の毛で覆われていた。これは抱っこしたい。尻尾の絵がないのが非常に残念。


 ふふと笑うクリスタ様は難産で大変な思いをしたけど、無事に生れてよかったとしみじみ仰る。


「四つん這いだけど、生れてすぐに立ち上がったの。もう足がぷるぷるして、痛いの忘れて、私まで力が入ってしまったわ」


 馬の出産みたい。見たかったな。安産だとしても普通のお産の倍以上痛そう。金目のことがなくても、私にはやっぱり無理そうです。


 二才頃からは人の姿で生活していたそうだ。それまではクリスタ様から離れず、後を追っていたと言う。しっかりしているように見えて、実は今も甘えん坊さんなのかも。一人で大丈夫かな。絵と同じ耳つきの帽子編みたくなってきた。あれと似た形の石を探さなくちゃ。


「ノエル。色々と心配なことがあると思うけど、自分から幸せを手放さなくても良いと思うの。先の事なんて誰にもわからないわ」


 隣に座るエドガー様も何か勘づいたご様子。必ず守り抜くと手を握ってくれた。


「エドガー様。婚約したのはラウルです。私に孫を抱かせてくださいね」


「今は解消してるよね。孫ならマリエッタが生んでくれるだろう。一体どこにいるのだろうね」


 案外近くにいたりして。姿が変わってわからないとか。


「クリスタ様、ありがとうございました。そろそろクッキーが焼き上がる頃なので、病棟へ行ってきますね」


「ノエル。あなた少し休みなさい。それ以上顔色が悪くなったら入院させますよ」


「今夜は編み物禁止だからね」


「わかりました。編み物もしませんから、エドガー様も休んでください。クッキーを渡すだけなので、一人でも大丈夫ですよ」


「入り口までは送るよ」


 さっと立ち上がり腕を差し出してくれる。


 クリスタ様が「うちの嫁に手を出すな」とか言っているが聞こえないふりをした。嫁じゃなく元お世話係です。


 ***


「ボニー。約束したクッキーよ。こんなのでいいのかな」


 バターと砂糖はできるだけ少なくして、ごまや砕いたナッツでかさ増し。一枚でも食べ応えがある。素朴だが私は気に入っている。


 皆は散歩に出ていて、病室にはボニー以外誰も居なかった。


「ボニーは行かないの?」


「話すのが苦手で、私がいない方がみんなが楽しく過ごせる」


 それでも少しおしゃべりしようと言うと嬉しそうに椅子に座るようすすめてくれた。話すうちにずいぶん打ち解けてくれて、悩みも話してくれた。


「友達なら私だって最近まで一人もいなかったよ。よかったらボニーに友達になって欲しい」


 さすがに魔獣や鶏が友達とは言えない。


「ありがとう。魔法省に戻ったら一緒にお昼を食べようね。でも意外。アメリちゃん、可愛いし、こんなに優しいのに」


 私はちっとも優しくない。大事な人達にいつも心配かけて困らせてばかり。


「ボソボソクッキーが美味しいだなんて、ボニーこそ優しいよ」 


「すごく美味しいよ。嘘じゃない。これが食べたかったの。まったく同じでびっくり」


「同じ? ボニーはそれをどこで食べたの?」


「実はラウル団長のお部屋で。毎日訪ねてくるマリエッタ様という元貴族のお嬢様からいただいたんだ」


 まったく同じですね。それ、私が焼いたクッキー。でもなぜボニーが食べていたの?


「せっかくラウル様のために手作りされたのに、渡せないと泣かれて。それからはこっそり二人でお茶をするようになったの」


「でもラウル団長がいつも嬉しそうにお部屋に招き入れていたって聞いたわよ」


「マリエッタ様を部屋にお通ししたのは、赤い布を使った私なの。ラウル様はいつも留守だったからね。誰も私と気づかずラウル様だと勘違いしてくれた。本人に会えなくても健気に毎日通ってくるから、せめてお茶くらいお出ししてもいいかなって。今の話は団長には絶対内緒にしてね」


「約束する。そのマリエッタ様が今どこにいるか知っていたら教えて。私も会ってみたい」


「私も会いたいな。教会にいるんじゃない? 底意地の悪いノエルとかいう従姉がいて家に居づらいってこぼしてたもの」


 名乗らなくて良かった。マリエッタの相手はラウルじゃないのかな。生まれるまでモヤモヤし続ける事になりそう。


 ボニーにまた明日ねと約束して、厨房に残りのクッキーをとりに行った。エドガー様にはバターたっぷりのクッキーを焼いておいたから一緒に食べよう。ボニーの話もしたい。


「クッキーがないわ。 誰か食べた?」


「誰も手をつけてないですよ。さてはまたあいつが忍び込んだな」


 つまみ食いにくる魔獣がいるらしい。他にも美味しそうなお菓子があるのに、私の焼いたクッキーだけなくなってるなんておかしくない?

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