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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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とうとうお役御免です

 マークスは真っ赤な顔でおかわりをねだり、エマはマークスに寄りかかって、くうくう寝息をたて始めた。


 魔獣はみんな下戸みたいです。リシャール様が投げつけたのは強いお酒でした。頭からかぶったお酒を舐めた程度でここまで酔う方を見たことがありません。でも足止め成功です。


「ラウルもだけどさ、ドガールも酒の席には絶対に来なかった。食前酒さえ飲まないと聞いていたから、もしかしたらって思ったんだよね」


 七面ラウルにも飲ませて隙を作るつもりだったと。魔術ばかりでなく、常に相手の弱点を探るその姿勢。素晴らしいですが、弱みを見せないように気をつけます。


「ラウル、お前も飲むか? すごいダメージ喰らったな。酔って忘れろ。また石に戻るなよ」


「それも良いかもしれない」


 男性にとって清いはどうも褒め言葉ではないようで、耳を赤くしたラウルは下を向いている。違うとでも言いたいのかしら。私に遠慮しないで言えばいいじゃない。また腹が立ってきたけど、さすがに衰弱しているラウルに詰め寄ることはできない。


 ちょうど目の前に八つ当たりできる人がいた。


「マークス様はそんなに急いで、何から逃げようとしてしているんですか?」


「それは。ヒクッ。金目の乙女だったエマ様はともかく、私を恨んでいる魔獣は多い。ここにいてはエマ様にも危害が…ヒック…」


 あちら側で魔獣達が狩られるのも、ドガールや偽神父が虐げて、命を奪うのも見て見ぬ振りした。人が魔獣の血で変わっていくのも。


「あなたはリシャール様やエドガー様に気づいて欲しい、止めて欲しいと思って魔法省のメイドにわざと赤い布を使わせたんじゃないの?」


「歯止めにはなるかとは思ったよ」


 最初は気まぐれだったエマの実験が、ドガールを主軸にいつの間にか組織になり、新しい種族が魔獣や人の上に立とうなんて話しになった。今更人と仲良くしようなどとは思わないが、万物の神の怒りに触れる行いだと畏れていた。


「尻尾巻いて逃げてんじゃないわよ。ここだけじゃない。リシャール様が保護してくれた魔獣や人が大勢いるの。あの赤い布を作ったのはあなた達なんでしょう? 元に戻してよ」


「できないよ。ヒック。もう死ぬのを待つしかない」


「そんな。マリエッタも本当に戻らないの? あのメイドの子も…」


 何かないかと、マークスの体を揺すぶったが頭をふるだけ。


 子どもはどうなるのよ。父親であるラウルは何も言わず、動こうともしない。あなたも無理だと思うの? 諦めちゃうの?


「ノエル。あちらにはクリスタ様もいる。僕らだけでなんとかしよう」


「そうですね。エドガー様、もう人の世に戻りましょう」


 ノアを呼んだが姿を現さなかった。


 ***


「ノエル、ラウルを置いてきて良かったの?」


「もう石から出たんですから、お世話の必要ないです。お役御免ですね」


 笑ったはずなのに、エドガー様は泣かないでと頭を抱きかかえてくれた。そんなことされたら、止めていた涙が零れてしまう。


 話を聞いたクリスタ様は一度お部屋に戻られ、人形とオルゴールを持ってきた。


「これが何だかわかるわよね」


「はい。この人形の中にはどなたがいるのですか?」


「ソフィア様という先代の金目の乙女よ。私の夫、ラウルの父親は魔獣王。でも彼には添い遂げる金目の乙女がいなかった。結果、人である私と大恋愛の末に結婚してラウルが生れたの。もちろん私は歌えないし、古代文字も読めなかった。そんな魔獣王の妻のために少しだけ力を貸そうと、人形に魔力を入れておいてくれたの」


 古代文字は結婚してから読めるようになったのと顔を赤らめるクリスタ様。なんだかとっても可愛らしいです。


 歴代の王全てが金目の乙女と結婚できるわけじゃないのね。それもそうか。あとでアメリも誘って大恋愛のお話を聞かなくては。


 クリスタ様が魔力を込めてオルゴールを回すと、あの旋律が流れた。時折保護区にいる魔獣達に聞かせているという。ネジでは動かない仕組みでした。


「ラウルは幸か不幸かあなたという金目の乙女に出会えた」


「不幸だとも思っていたのですか」


「そうよ。だって振られたら、あなたの目と口が不自由になるかも知れないのよ? なかなか声をかけられなかったらしいわね」


「そうでしたか」


 声かけた手前、私が不自由になったら後味悪いものね。それに届かない本に手を伸ばしているのを後ろから見ていたから、すっと手を差しのべてくれたのだとわかった。偶然じゃなかったのか。


「エマ様がラウルに近づいた時から、あの子は警戒していた。王の妻となる人が狙われると父親から聞いて知っていたの。魔獣よけのブレスレットはお守りみたいなものね。それで自分も指一本も触れられないって地団駄踏んでた。でもそれはいいの。節度あるお付き合いができて良かったわ」


 微笑まれるクリスタ様。ハーフなので近づくことはできたけど、触れたら相当痛い目に遭うらしい。それ、見たかったです。


「瘴気まみれになったと聞いて慌てて飛び出したのは、禍が起きれば最初にそれを受けるのは力のある魔獣たち。金目の乙女にだって降りかかるかも知れない。もし止められるとしたら今はラウル以外にいない。罠とは知らずに姿までさらして、瘴気ごと石に閉じこめて結界をはった。中で起きた事は私も予想してなかったわ」


 あなたに何かあったらってそればかり。あの子の最大の弱点よね。


 ここでクリスタ様のお話が終わった。


「あのぅ。一度もお目にかかっていないのですが、オーエン伯爵は今どちらに?」


「ラウルはそれも話していないのね。少し出掛けましょうか」


 クリスタ様の魔法陣に乗って、保護区内にある大きな洞窟へと連れて行かれた。


「この奥にいるわ。私も会うのは久しぶり。エドガー様、大丈夫よ。危険はないわ」


 光る球で明るく照らされた洞窟の最奥には、大きな石の彫像が立っていた。



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