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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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リン リン リン

 エマは古いドールハウスまで出してきて人形で遊び始めた。


 ノッカー代わりの小さな鈴を鳴らすと扉が開く。中は花柄の茶器の乗ったテーブルセットとふかふかのベッドが置いてある。カバーも花柄。この部屋はドールハウスを真似たのかしら。


 何度も寝かされ、座らされた。もっと優しく、丁寧に扱って! お願いだから絶対に落とさないで。割れたらどうなるのかしら。思い出せる古代文字を頭に描く。『元』の『身体』に『戻れ!』だめだ。


 まさか自分が人形にされるとは思わなかった。小さな家に不釣り合いな高価な人形とオルゴール。エマの部屋にもあったから、暗闇と沈黙を回避できる重要なものと思っていたけど大外れでした。我が家の人形も誰かなのかな。


「初めてあなたと会ったのはオベールの屋敷。庭に出たらエマ様に似た金目の少女がいた。私は嬉しくなってつい姿を戻し、近づいてしまった。一緒に遊んだのを覚えているかな」


 曾お爺様のお屋敷のお庭を散歩していたら、大きな黒犬が尻尾を振って走ってきた。私を背に乗せてお屋敷の周りを歩いてくれて、とても楽しかったです。でも今は思い出話しよりもエマから私を取り上げて欲しいです。


「エマ様はあふれそうなほどの魔力を持って生れてきた。何も知らずに歌っていた時はまだ良かったが、魔獣を引きつけると歌を禁止された。使われない魔力が体を蝕み始めて溶け出した。エマ様を失うことはできない。禁術を使ってでも命をつなぎ止めようとしたんだ」


 それがあの人形。体は少女のままなのに、長く生き続けるうちに、大人になったと思い込んでいるんだ。人形が大事にされてるのは、まだあの中にエマが戻れるようにかしら。


「エマ様は魔力を使って勝手に人形から抜け出し、ユーグ様を探し回った。さすがに子を抱くお姿を見たときは落胆されていた。それでもユーグ様ご夫婦が彷徨う影達を鎮めて地に還し、新たな魔獣が生れる瞬間が好きだといつも羨望のまなざしを向けていた。いずれは自分も役目を担いたいと健気に努力されていたよ」


 道さえ外さなければ、とても良い子だった思います。どこで間違えたのかしら。


「人の神話には魔獣王が絶対的支配者と書かれているらしいが、支配も何もない。見送り、迎えるだけだ。どうして人はそんなものを作り出したいのだろう。理解に苦しむ」


 その方が話として面白いからです。魔獣の頂点に立つ存在を誇張したいだけ。事実とは違うようだけど三冊目が楽しみだわ。


「もう私達は長居しすぎた。消えるためにラウル様の魔力をいただく」


 最後はエマに聞かれないよう小さな声でつぶやかれた。妹のように可愛いといっても、子守に疲れたのだろう。


「悪さをすれば尻拭いしてきた。ドガールへ血を飲ませたのも、赤い布を作るのも反対だった。新しい種族なんていらない。狩られる魔獣達を見ぬ振りした。危うく金目の乙女であるあなたまで殺されるところだった」


 色々と苦労があったのはわかりましたが、私達を巻き込まない方法はなかったのでしょうか。


 エマがやっと人形から手を離した。飽きてもう人形のことは忘れて欲しい。魔力があれば外へ出られるらしいけど、私は魔力なんて持っていない。このまま永久に人形として一人寂しく生きて行くかと思うと泣きたくなる。


「お兄様。ラウルが近くにいるみたい」


 エドガー様も一緒かしら。私に気づいてくれるかな。何か。何かないかな。


 ***


「マークス。お前が仕組んだのか」


「そうだ。すべて私の仕業だ。やっと気づいたか」


 リシャール様がドロドロのエマに今にも魔法を放とうとしている。マークスはエマをかばう気だ。見上げた忠誠心です。


「兄上、待って。ノエルがいない。お前達、彼女をどこへやった?」


「それは秘密。あの子はもう私のもの。誰にもあげない」


『エマ、石に戻ってくれ。僕が欲しいんだろう?』


「ラウルは私を迎えに来てくれたのね。すぐにそちらへ参ります。お兄様、後はお願い」


 エマの記憶をのぞいてやる。ここで浸食されているのが役に立つとはな。エドガーの手をビリリとしびれさせ、床に転がる。よし。エマが石を拾い上げた。そのまま吸い込まれろ。


「嫉妬深い金目の乙女はずいぶんと素直だな。これならありか?」 


 リシャール様、感心している場合じゃないの。ラウルが溶かされちゃう! 伝える方法はないかな。そうだ。あれだ。エドガー様、気づいて。


『鈴』『三回』『鳴らす』!!!


 リン リン リン。


 かすかな鈴の音が聞こえた。僕があげた鈴とは違うが、鳴ったのは三回。この部屋のどこかにいる。


「ラウル、僕がノエルを必ず連れ帰る。そんなドロドロ、得意の雷を落としてやれ」


『エドガー、頼んだ。リシャール、石を外へ投げろ。お前も来い』


 リン リン リン。


 たとえエドガーへの合図だとしても、僕の頑なに凝り固まった心へのノックだと思っていいかな。姿は見えないけど彼女はどんな時も諦めない。信じてみよう。


「うわ~。あれが出てくるのかな。エドガー、ノエルちゃん見つけたら外へ出すなよ。あいつ荒れ狂う」


 多分、他面の魔獣はラウルだろう。七つだっけ。六つ消せばあいつは生き残るのか。やっと出てきてけりをつける気になったんだな。


 石を思い切り窓から投げると、マークスは黒犬となり、追いかけて行った。


「あいつ、魔獣だったのか。 ちょっとあれ持って行くか。ここにあるかな」


 リシャール様も早く追って! 相変わらずマイペースすぎる。そこが良いところでもあるけど、少しは焦って。


 それに比べてエドガー様が鈴の音に気づいて、近づいて来る。さすがだわ。優しく手に取ってくれた。


「ノエルは人形になってしまったの? 可愛いよ。複雑な古代魔術だな。解術できなくても一生大事にするからね」


 このご兄弟、そろってダメダメでした。

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