ライバル
しばらく休んで意識を向けると、いつもいるはずのあれがいない。僕のかけた結界から抜け出した? どうも腕に残っていた魔力は結界を通り抜けるのに使われたらしい。誤算だった。まずい。あれがノエルに接触したら何をするかわからない。
「急ぐぞ」
二人の返事も聞かずに転移魔術でノアの魔力を辿った。
「急にどうした? いきなり飛ばされると酔う」
「久々に僕もクラクラした。ここはノエルの家だよね? 灯がついている」
『ここは大昔から金目の乙女が隠れ住むのに使われた家のひとつ。ノアの気配がする。ノエルはここにいるだろう。だがもう一人いるかも知れない。気をつけろ』
「お前が最後に会いに行った金目? 同時代に二人現れたって事か?」
こんなところにいたんじゃ、いくら探しても見つからなかった訳だ。リシャールがぼやく。
『違う。エドガー、もう一度体を貸してくれないか?』
「嫌だと言っても、使うんだろう? もう一人の金目の乙女はノエルとはどういう関係だ?」
『先代金目の乙女とでも言っておこうか。いいか。ノエルを連れて向こうへ戻れ。今度こそ手を離すな。絶対に離すな』
「承知した。転移魔術は任せる。僕の魔力も使え」
『遠慮なく使うさ』
こっちへ戻れないよう全部使い切ってやる。本当にここでもうさよならだ。金目の乙女は月の女神の化身。神殺しなどしたら、どれほどの報いを受けることになるのか。呪いは確実に受けるだろう。そして全てを奪われる。
『リシャールは僕が石から離れたら、ありったけの魔力で石を割れ。内側にも亀裂を入れる』
「中から七つ面の魔獣が出てくるのか? 怖いよ~。エドガーに残ってもらったらだめ?」
『弟が可愛かったら一人でやれ。お前を死なせやしない。絶対に仕留めろ。いいな』
「お気遣いありがとう。帰ったら酒おごる」
お前は嫌がるだろうけど、唯一友人と呼べる奴に仕留めてもらえるなら本望だ。行くぞと石から出ようとしたが、先に扉があいてノアが出てきた。
『ノエルは無事か? 中にあれはいるのか?』
ノアは黙って家の中へ戻る。付いて来いと言っているようだ。まだ石から出ずに力を温存することにした。
「誰もいない。ノエルちゃんはここに来ていないのか?」
「ノエルがノアから離れるとは考えにくいが。カップがふたつ。誰か二人はいたってことだ」
「お前ら、ノエルちゃんに縄でも着けとけ。行動が読めないし、どこへでも一人で行ってしまう。あれは昔からなの?」
「もうとっくに結わえたさ。なのに魔力を通した紐を切られた。どういうことだ?」
『古代文字を使って、魔法陣を発動させている。気づかなかったのか?』
「しっ、知ってるさ。お前に言われるまでもない」
『ノエルは好奇心旺盛だが、お淑やかな子だった。誰かさんの影響でも受けたか?』
「おい。表に出ろ。お前を心配しての行動だぞ」
『はん。お前こそ後から出てきて、心配されてるぞ。引っ込んでろ』
くそ。石の中から圧縮された魔力が今にも放たれようとしているのがわかる。僕だって彼女のためならいくらでも力が出せる。
魔術師同士が本気でやり合うような事はしない。決闘などしようものなら、魔術師長に制裁を加えられる。でも今はその魔術師長はいない。長年ライバルと言われてきた相手。不足はない。
勝ってもノエルの心を奪えるわけではない。ただ散々彼女を苦しめ泣かせたこの男が、今も心配されているのが気に食わない。離すなだって? お前が離したくないって聞こえるぞ。
肌に、石に触れる空気がビリビリとする。家が震え、床板まで浮いてきた。
「お前ら喧嘩すんな。ノエルちゃん見つけるのが先だろう。ラウル、この黒猫が何か知ってんだろう。早く聞き出せよ」
一触即発。ここで二人が放出したらあたりは大穴が空くどころじゃない。敵にもまだ遭遇していないのに無駄遣いすんな。
「二人とも、まだやる気なの? エドガー、お兄ちゃん本気出して止めるけどいいのかな。ラウル、お前まだ隠し事あるよな。ノエルちゃんにばらすぞ」
魔力がしぼむ。うん。二人を黙らすのは僕にしか出来ない。良い子達で良かった。
「さて。黒猫ノア様にお聞きしようじゃないか」
「ミャー」
ノアが影となり、次第に人の姿が見えてきた。ラウルに似た男が現れた。




