悪党の世話係はごめんです
従う振りをして、エドガー様を袋から出してもらった。ベッドに寝かせると目を開けてくれたがまた眠ってしまった。ここは危なくてノアも呼べない。今は回復を待つしかない。
また文字でも書かされるのかと思ったら、先に厨房へ連れて行かれた。ここにはゴダールの他、教会にいた数人の男だけ。昼飯を作れと言う。変装にも使えるかとエプロンを鞄にいれておいて良かった。
「ここにある食材だと簡単なスープと卵料理くらいしかしかできません。何かご希望はありますか?」
「まともな飯さえ食べられれば、何でもいい」
何でもいいが一番困る。スクランブルでいいか。エドガー様と私の分は別のものを作ろう。
出来上がったものを食堂に運ぶと偽神父たちだけ。ゴダールは席に着いていなかった。待たなくていいのかな。言われた人数分作ったのにゴダールの分が足りない。偽神父に聞くと数は合っていた。
「ゴダール様は人と同じものは召し上がらない」
頷いてテーブルに皿を配った。ゴダールの食事って檻の中の魔獣かしら。どうしよう。でもここで焦ってはいけない。
「ではエドガー様の様子を見て参ります。一緒に行かれますか?」
「俺は食事中だぞ? すぐに戻って来こい。抜け出そうとしても無駄だからな」
「エドガー様さえ助けていただけるなら、逃げ出したりしません」
それは本心だ。エドガー様を逃したら、自分の命を断てばいい。もう余計な事に巻き込むことも、巻き込まれなくてすむ。ここならオベール家の墓に入れてもらえるかも。偽でも神父ならそれくらいして欲しい。
***
「エドガー様、お食事ですよ。甘いパンケーキはいかがですか?」
甘い匂いに誘われて起きてはくれないかしら。顔色は戻った。呼吸も正常。あとはお目覚めを待つばかり。まぶたがピクッと動いた。
「ノエル…」
「良かった。先にお水をどうぞ」
助け起こして水を飲ませる。さすが男性。細身なのに重いのね。お背中をしっかり支えないといけない。
「ノエル…」
いつもと違って優しくそっと遠慮がちに抱きしめられて、すぐに離された。そして次の瞬間ご自分の頬を思い切り叩かれた。
「どうなさったのですか? 急に起き上がらせてすみません。もう少し横になりましょう」
真っ赤になった頬を冷やさなければ。混乱してるのかしら。
「大丈夫。君を見たら我慢できなくて。その。ごめんね」
「少し召し上がれますか?」
「ノエルが食べさせてくれる? 今ちょっと手が使えない」
「ええ。もちろんいいですとも。お口を開けてくださいね」
手がどうかしたのかしら。強く握っているのはなぜ?
涙ぐむほど美味しいと残さず食べてくれた。囚われの身だというのに、こんなに甘々なことしていいのかな。今は体力、気力、魔力回復が先。きっといいはず。おやつも夕飯も心を込めてお作りしましょう。
「では偽神父に呼ばれていますのでまた後ほど。エドガー様は休んでいてくださいね」
食器の片付けが済むと、掃除道具入れに連れて行かれた。我が家と思えば掃除も喜んでしますが、私ここへ何しに来たのかしら。悪党の世話はごめんです。適当に掃除を終えたら魔獣たちの様子を見に行こう。最後に玄関脇の鏡をさっと拭いて終わり。ついでに身なりチェック。髪に絡んだ蜘蛛の糸はいつの間にかとれていた。
***
ノエルが出て行って扉が閉まると、また頬を叩かれた。自分が傷つくだけだと言っても、腹が立つともう一度叩かれた。頭の中で怒鳴るのやめろ。
『いい加減にしろよ。体を貸すと言ったのはお前だろ』
『お前こそ調子にのるな。魔力の空っぽな今だけ貸してやるだけだ』
頭から大きな袋を被せられたまでは覚えている。目覚めた時、体の中の魔力がごっそり抜かれていた。これではノエルを守れない。苦肉の策が奴の魔力を借りること。置いて行かれたくせに諦めの悪い奴。光の球を見た時に気づいた。あれはクリスタ様から教わった初歩の魔法で使う魔術師は限られている。しかし利用するにはちょうどいい。奴もそのつもりだったのか、糸にした魔力を僕にも伸ばしてきた。
『大きな魔術は使えない。それも一度きりだ』
『わかっている。ノエルを助けるためだけに使う。それだけだ』
大量の瘴気と一緒に閉じ込められた石の中がどうなっているかはわからない。いくら奴でも瘴気に飲まれずに、本体から離れた場所に魔力の糸を張り続け、その上魔術を行使するのは至難の業だろう。彼女のためか。
ずっと石の中にいてくれ。そう思わずにいられない。だってまだ彼女の心は奴から完全に離れていない。笑っていてもいつも寂しげにしている。それでもそばにいて欲しい。渡さない。金目でなくてもいい。歌わなくていい。役目もおろさせる。
『あいつは今、地下にいる』
『行くぞ』
ドガールの目的はこの世の支配者になること。阻止してやる。それだけは奴と一致している。




