オベールの館
地下への扉を開け、壁伝いに石段を降りる。光の球がついてきてくれたから転ばずに済んだ。作ったご本人がいなくても残るものなのね。助かったわ。
光を頼りに、どこに繋がっているのかわからない地下道をしばらく歩くと行き止まり。ゴダールの家からはそう離れてはいないはず。村内の何処かだろう。扉に耳を押しつけたが物音はしない。すき間から光が漏れているのに誰もいないなんてあるかしら。
「ノア、確かめてきて。気をつけてね」
影となったノアが滑り込むと、中からガリッと扉に爪を立てる音がした。開けても大丈夫……。
「どうしてここに? 死んでいるの?」
魔獣の入った檻が並ぶ。よく見ると肩が上下している。皆静かに眠らされていた。檻に魔法がかかっているのか臭いもしなければ、物音ひとつしない。
「どうしよう。助けてあげたいのに。エドガー様達に知らせる術はないし。呼べたとしてもきっと叱られる」
「叱らないよ」
「ひっ!!!」
振り向くとエドガー様が立っていた。
「なっ、なぜここに?」
「僕を誰だと思っているの? 好き嫌いは別にして、ゴダール魔術師長が認めて副団長にしたんだよ」
ノアを抱いた時に服についた毛から魔力をたどって来ただなんて。副団長様すごいです。尊敬いたします。でも来て欲しくなかったです。
「ノアは魔術が使えたの? なぜ僕は飛ばされたのかな。それにしても酷い目にあった。ちょうど猿魔獣の群れの中に落ちてさ。見てよ。ひっかき傷だらけだ」
この光の球もノア? と聞かれた。エドガー様の光じゃなかった。本当にノアだったらすごいわ。
「気づいたらお姿が見えなくて、エドガー様が先に入られたのかと心配で心配で私も後を追ってきました」
待てずに勝手をしてすみませんと謝っても、疑いの目を向けられる。薄々は気づいてますよね。
「それよりも早く魔獣達を助け出したいです」
この子達の血があの赤い布を染めているのかもしれない。
「僕一人では難しいな。クリスタ様に応援を頼もう。一度戻るよ」
その間に一匹でも連れて行かれたら嫌だ。
「だめと言われてもノアとここでエドガー様達をお待ちします」
いざとなったら大声で歌えば、魔獣達が起きてくれるかも知れない。自力で逃げ出す事もできるかも知れない。
「かも知れないで、君一人を置いていけるわけないだろう。ここで魔法を使うのは危険だ。地下道から伝言を飛ばす。すぐ戻るからね」
絶対に動くなと言い残されて、エドガー様は一度地下道へ戻られた。
「ノアに濡れ衣着せてごめんね。エドガー様に正直に話すよ」
数分と言ったのにエドガー様はなかなか戻らない。だんだん不安になってきて、地下道へ探しに行こうか迷っていると扉が開いた。良かった。
「エドガー様……」
「エドガーがなぜこんなところにいるかと思ったら。来い。今度こそ逃がさない」
偽神父にまた捕まりました。
***
魔獣達の檻のある部屋を通り抜け、行き着いたのはなんと曾祖父の屋敷だった。ここオベール村だものね。たぶん伯父も父も曾お爺様が亡くなってから来ることはなかったろう。まさか不法侵入された上に魔獣を捕らえて、呪いの布を作っているだなんて。ご先祖もきっとあの世で泣いているわ。
訪れたことのある応接室へ連れて行かると、一番会いたくない人がいた。
「そろそろ石を返してもらわなくては思っていたところだよ」
「ゴダール様。エドガー様はどちらに」
「少しばかり他より魔術が使えるくらいのお飾りのくせに、いつも邪魔立てしてきて鬱陶しかったよ。ここで始末しようか迷っている」
「取引に使う気ですか?」
「金目の方は話が早いな」
マリエッタにも何か持ちかけたのね。ここにいるのかしら。
「先にエドガー様をここへ連れてきてください。話はそれからです」
「いいだろう。あれを連れてこい」
「かしこまりました」
偽神父がペコペコと頭を下げている。どうでもいいけど。
私の前に大きな袋が置かれた。中には眠らされたエドガー様が横たわっていた。青白く呼吸も浅い。名を叫びながら強く抱きしめた。思い出せる限りの古代文字を次々に唱える。
「その袋は特別製でね。魔力を抜き取る事ができる」
一度試して効果は実証済み。まるで実験でもして楽しんでいるように聞こえる。ラウルに使ったのね。許さない。
「抜き取ってご自分のものにでもする気ですか? あなたは魔力を十分にお持ちでしょう。なぜそんなことをするのです?」
「この世の頂点に立つにはまだまだ足りなくてね」
砂地が水を吸うようにいくらあっても足りないと、グラスを高く持ち上げる。どろりとした中身は魔獣の血だろう。神にでもなろうとしているのか。狂っている。
「お教えください。私は何をすれば良いのでしょう」
この腕の中にいる人は渡さない。救えるのならばこの命など惜しくない。もうあの嵐の夜に私は死んだも同じなのだから。




