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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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襲われた村

 クリスタ様は離れに魔獣が押し寄せた後、姿を消した私のことをすごく心配してくださっていた。探しに行きたくても、保護区の魔獣達が妙な行動を起こし始めたため動けなくなったと詫びてくれた。


「ゴダールに渡さないよう、ラウルがあなたを北塔に運んだのね。その後のことはリシャール様からお聞きしたけど、大変な目に遭ったわね」


 リシャール様もエドガー様もクリスタ様から魔術の手ほどきを受けたとのことで、問い詰められたら隠し事ができないらしい。


「はい。ラウル様には感謝しています。もちろん両殿下にも」


 そういうことにしておこう。


 リシャール様がクリスタ様を怖いと言っていたのはかなり手こずらせたからだとか。クリスタ様からもリシャール様の転移魔法陣に乗ってはいけないと言われた。肝に銘じます。


「魔獣達になにが起きたのですか?」


「ある幼体は母親を求めてずっと鳴き続け、ある幼体はすやすや眠リ続けた。成獣たちも急に落ち着きがなくなって、移動を始めたものが数多くいたの。保護区から出さないようにするのが大変だったわ」


 まさかここまで聞こえるほどの大声で歌ってたなんてことはない。古代文字、古代魔術の力かしら。


「マリエッタのことは最初から疑っていたわ。魔獣の臭いを香水では隠しきれない。あの赤い布を見た時はぞっとしたわよ。お腹の子だってラウルの子か怪しいものね」


「それは間違えないみたいですよ」


 すごく嫌なお顔をされる。母としては息子を信じたいのね。


「子どものことは無事に生れた時に考えましょう。これでラウルの婚約者はマリエッタではなくノエルよ。あれがもし嫁いできたら二度と王都の屋敷には帰らないつもりだったの」


 教会に出たマリエッタの影は魔獣が化けたものじゃないかとリシャール様達は結論づけた。マリエッタを逃がすと言ったマークス様も姿を消した。一緒にいるのかな。


「いえ。私はもうこのまま破棄のままでお願いします。もともとご縁がなかったのです。一時でも夢を見せていただいてそれで十分です」


「ノエルに捨てられたらあの子、ますますおかしくなるわよ。エドガー様もノエルを狙ってるし、そろそろ石から出さないとまずいわね」


 何か策を考えられたのでしょうか。怪しい笑みを浮かべていらっしゃいますよ。石をリシャール様に預けたと言っても叱られなかったが、お世話係からは逃れられなかった。


「ゴダール様について教えていただけませんか? なぜ魔獣を憎みながらも、固執するのか。私を捕らえて、魔獣を数多く呼び寄せたいと考えているのでしょうか」


 魔法省に長くいるクリスタ様なら何かご存じだろう。先にゴダールの育った村のことからお話が始まった。


「村はこの保護区内にあったの。古くから住み着いていた原住民で、村民を見て人の姿を真似た魔獣もいたのよ」


 廃村になるまでは、間違えて人が入らないように警備や見回りをするのが村民の仕事。保護官やメイドとしてここで働く元村民以外で生き残ったのはゴダールだけ。


「もしかして魔獣と人は一緒に仲良く暮らしていたんですか?」


「そうよ。口伝だけど、金目の乙女も村人の一人。村人と魔獣が結婚して子も沢山生れた。ほとんどの村民に魔獣の血が流れているでしょうね」


「オベール家の祖先も村出身だとすると私にも魔獣の血が流れている…」


「怖がらないで。誇っていいのよ。ノエルは金目ではあるけどもう血なんて薄まって、人と言ってもいいんじゃないかしら。ゴダールも血は薄まっているはずなのに、あの高い魔力は先祖返りとしか考えられない」


 クリスタ様も神話をご存じだった。私が古代文字が読めると聞いても驚かなかったわけだ。隠していたようだから、ずっと知らない振りをしてくれていたとか。ラウルと結婚しなくてもお母様になってくれないかしら。養女にもなれないので、心の中で呼ぶのをお許しください。


「なぜ村は魔獣に襲われたのですか? 村民と友好関係にあったのですよね」


「あの村が襲われたのは、子を宿した魔獣を狙った密猟者が村に逃げ込んだせいなの。報復に来た魔獣と魔術師でもあった密猟者の魔法に巻き込まれてしまった」


 魔獣の血肉が不治の病も治す万能薬だとデマが流れた。特に胎児にはその力があると信じられた。神のお遣いと聞いてそんな話になったのだろう。哀しいことだ。


「その母魔獣は無事だったのですか? 子は無事に生れたのですか?」


「ええ。魔獣達に守られて今でも親子は元気にしているわ」


 それは良かった。きっとアメリが話していた高位の魔獣様なんだ。


「ゴダールが見つかったのは、村が襲われからてひと月も後だった。誰がかけたのか結界の痕跡があってね、それをずっと維持していたの。幼い子がよく一人で生き残っていたと当時の魔術師長が連れて帰ったのよ」


 結界の周りには村民の亡骸があったそうだ。その中に親もいたはず。魔獣を恨むのも無理はない。


「どうやって幼い子が飢えずに生き延びたかわかる?」


「保存食でもあったのでしょうか?」


「魔獣の亡骸を食べていたそうよ」


 胸が締め付けられた。生きるためとは言え、魔獣を。


「彼は人のままなのかしら…」


 クリスタ様は人ではないとお考えのようだ。ずっと若い姿を保ち続けているのは、人よりも寿命の長い魔獣の力? 教会で姿を見せたのを最後に魔法省にも来ていないとエドガー様が言っていた。どこに行ったのだろう。


「もう遅いわね。ゆっくり休んでちょうだい。明日ノエルに見せたいところがあるの。特別に連れて行くわ」


 優しく頭をなぜられ、お母様と言いそうになる。


「ありがとうございます。ではお休みないませ」


 お聞きした情報を整理したい。部屋へ案内してもらった。


 ***


 扉が閉まると、ノエルに絡みついていた金色の糸を握りしめた。とってもすぐに糸はあの子を追いかけていくだろう。


「ラウル、話を聞いていたんでしょ? またあの子が飛び出していくかもよ。どうするの?」


 あの話を聞けば廃村へ行きたいと言い出すに決まっている。


 リシャールの部屋の転移魔法陣が突然光った。


「うわっ。勝手に使うなよ。今度は置いてけぼり喰らうなよ」


 石は母の部屋に向って転移した。

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