魔獣保護区へ
保護施設に行くには途中から馬車を降りて、険しい山道を歩かなければならなかった。ワンピースからシャツとパンツへ。靴も厚底のかかとの低いものに履き替えた。男の子になったみたいだけど、身軽になってすごく新鮮。これならいくらでも歩けそう。
「もう一度言うよ。保護施設まで魔獣避けの魔法がかかっているのはこの山道だけ。くれぐれも脇道に入らないように」
倒木を跨ぐ時など手を貸してくださるが、ずっとは手をつないで歩けない。景色に気をとられて度々道をそれそうになり、とうとうエドガー様から離れないようにお互いの腰に紐を結わえられてしまった。
「これでいい。ゆっくり歩くからついてきてね」
歩き始めた子どもみたいで恥ずかしいが、それだけ人には危険という事。アメリに言わせると、私から甘い匂いがするらしく、歌わなくても小さな魔獣は引き寄せられてしまうらしい。それを聞いたエドガー様はいくら気をつけますと言っても聞いてくれない。甘甘さんかと思っていたけど、もしや束縛したいタイプなのかしら。
アメリも匂いに釣られて離れ担当に志願したとか。自分ではまったく気づかない。今だって汗臭くないか心配でエドガー様の近くに寄れない。
「ノエル。もう少しだよ。頑張って」
歩き疲れてゼーゼー息する私に水を差し出してくれる。私の荷物まで持っていただいて申し訳ない。アメリとノアとラルゴは山道のすぐ脇をのんびり散歩でもしているかのように平然と歩く。魔獣の体力少し分けて欲しい。
「エドガー様。お願いですから施設に近づいたら紐は外してください。誰にも見られたくないです」
保護官や使用人に罪人が連行されてると勘違いされては困る。
「あら。いいじゃない。ノエルをしっかりしてるけど大人しい子かと思っていたのに、意外と好奇心旺盛の行動派と聞いたわ。ここにいる間は着けておきなさい。エドガー様、離さないでくださいね」
「クリスタ様、いつの間に! ずっとはあんまりです。それはどこ情報ですか?」
『内緒』とウィンクされるクリスタ様だって意外とお茶目で可愛らしいです。そして初めて見る細身のパンツ姿がすっごく格好いい。手足が長くてスタイル抜群。それに比べて私はやっぱり痩せっぽちの男の子にしか見えない。
「ようこそ、魔獣保護区へ。ノエルにとうとうここがばれてしまったわね」
秘密の保護区は人里から遠く遠く離れた原生林だった。どんな魔獣が住んでいるのだろう。深呼吸すると体の隅々まで浄化されていくようだ。
「先に居住区に案内するわね」
保護官クリーク様を先頭に先へ進む。開けた場所にツタで覆われた大きなお屋敷がいくつも見えた。
「ノエル、頭に蜘蛛の糸がついてる。とってあげるわ」
微笑んだクリスタ様が取り払い、手のひらにのせて見せてくださった。
「綺麗です」
「新種の魔獣かしら。毒蜘蛛じゃないといいけど」
金色に光る糸をクリスタ様がふっーと吹くと、糸は輝きを失い風に乗って何処かへ飛んで行った。
***
「ここが我々の宿泊棟で食堂も風呂もあります。隣の建物は第一と呼ばれる、運ばれた魔獣が怪我していないか、瘴気を放ってないか調べる医療棟。第二は生後間もない幼体や世話が必要なものの保護棟。第三第四は人の姿に近い者の居住棟。本人の希望があれば人と同じ教育が受けられ、職業訓練も行っています」
アメリはお世話になった第三棟の保護官や先生方に挨拶をしにノアを連れて行ってしまった。
居住区以外でそれぞれが好きな場所を住処としている魔獣の方が多いという。生息数や生態を調べたくても広すぎて人手が足りず、また入ったところですぐに隠れてしまい、実態はわからないまま。
「ラルゴは第一で預かります。その後は第三か第四へ移されるでしょう」
「とても優しい方です。よろしくお願いします」
ラルゴの保護者ではないがつい頭を下げてしまった。教会の地下牢に運んでくれた食事は彼のものだったんじゃないかと思っている。幼体を弔い、石を隠してくれたラルゴ。言葉を覚えたら色々聞いてみたい。
クリスタ様もお忙しい中、第二棟を案内してくださった。やっと紐をほどいてくださったエドガー様は第一に興味がおありのようでしばし別行動。ずっと一緒は気疲れするので少し。いえ、かなりほっとした。
「理由はわからないけど群れからはぐれり、人里で発見された子を見つけて、ここで育てているの」
「可愛いです。沢山飲んで大きくなってね」
狼似の子に、渡された哺乳瓶でミルクをあげるとごくごくと勢いよく飲んでくれた。
「ノアもここで育ったのですか?」
「そうよ。家の前に捨てられていたのをラウルが見つけて、ここに連れてきたの。来るたびに面倒もみていたわ」
私も図書館でラウルに拾われたのかな。ボロい服着て、うろついてたら捨て子に見えたのかも。そう思ったら少し気が楽になった。金目が物珍しくて少し構ってくれただけ。ただそれだけ。
「日が落ちたら宿泊棟から出てはいけません。これは命令です。わかりましたね」
「はい。明日から私もお世話をお手伝いしたいと思いますので、よろしくお願いします」
「ノエル。その前に私に話したいことがあるのじゃないかしら?」
笑っているが目が怖いです。クリスタ様の私室へ連行されて、全てを吐かされた。




