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お世話係になりました

 クリスタ様は手紙を受け取るとすぐに本邸に戻ってくださった。


 メイドのアメリに呼ばれ本邸の居間に入ると、クリスタ様と伯母とマリエッタ。それに第2王子で魔術師のエドガー様まで席に着いている。さすがにこの顔ぶれを前に緊張からか嫌な汗をかく。悪い予感しかしない。


 マリエッタは髪を結い上げずにおろして、ドレスのリボンが縦結びになっていた。身支度を手伝う私がいなかっただけでこの有様とは。18にもなって情けない。伯母はなんとか自分で整えたようだ。


「ノエル。突っ立ってないでお座りなさい」


 唯一空いているマリエッタの隣に座る。ここなら顔を見なくて済むわね。


「手紙をありがとう。ラウルはその箱の中かしら」


「はい。こちらです」


 小箱をお渡しして中を確認していただく。しかしクリスタ様が石に触れると静電気でも起きたかのようにバチンと音がした。


「魔獣の呪いじゃないわ。魔術で瘴気ごと閉じ込められたようね。瘴気が外に漏れ出ないように石に結界を張ったまではいいけど、自分も出られなくなった。そしてラウルはずいぶんとお怒りみたい。私の魔力を弾き返してきたわ。ノエルは石に触っても平気だったの?」


「はい。そこらに転がる石ころと同じで、何も起きませんでした」


 クリスタ様も魔術師として活躍されているが、瞬時に呪いではないと見破るとは。さすが筆頭魔術師と呼ばれるラウルの母である。


 貸してとエドガー様も石に触れたが、クリスタ様以上に大きな音がして、火花まで散った。


「誰がラウルを閉じ込めたのだろう。救い出す方法はあるかな」


 しばしお2人は考え込んでいたが、すぐには答えを導き出せないようだ。


 そしてクリスタ様は今度はマリエッタを見てため息をつかれる。


「マリエッタさん、ラウルの子を身ごもっているというのは本当なの?」


「はい。実の姉とも慕うノエルお姉様の前では言いにくいのですが、私達は愛し合っていました」


「でもねぇ。私は息子から一言もそんな話を聞いていないのよ。産まれたら本当に2人の子か確かめられるわ。それまでラウルの婚約者は2人って事になるのかしら」


「そうなると、支度金は2人分いただけるのでしょうか」


 伯母の目が輝く。そんなわけあるかーい。私の結婚を許したのも支度金目当てだって事はわかっていたけど、厚かましさに呆れるし、すごく恥ずかしい。


「まさか。結婚するのは1人よね」


 クリスタ様も苦笑している。


「私はもう破棄で結構です」


 婚約者が2人なんて聞いたことがない。それに姉のように慕っていただって? それこそ初耳だ。


「ノエルの意思なら仕方ないわね。今後はどうするつもりなの?」


「働き口を見つけて自活します。家にはもう戻れませんから」


「ノエル、つまらない意地をはらないで家に戻りなさい。身重のマリエッタを助けてあげて欲しいの」


 意地ではない。あなたが追い出したのよと言ってやりたいがここは我慢した。伯母はただで使えるメイドが惜しくなったのね。そうはさせない。


 そんな私に助け船を出してくれたのはエドガー様だった。


「ラウルの世話は誰がするの? このまま箱に入れて放置という訳にはいかないだろう。瘴気が漏れ出たらすぐに知らせる者が必要だ。それにノエル嬢はたしか古代文字を読み解くことができるんじゃなかったかな」


 エドガー様が珍しいものでも見るようにおっしゃる。


「はい。祖父に教わったので読むことはできます」


 我が家も実は数代前までは魔術師がいたのだ。古代文字で書かれた本もあったのだが、少しでも家計の足しにしようと売られてしまった。伯母には二束三文にもならなかったと馬鹿にされたが、そもそも読める人がいない。図書館に買われた本をもう一度読みたくて探しに行った時に出会ったのがラウルだった。


「ラウルは古代文字で書かれた太古の魔術の研究をしていたはず。もし論文が残っていたらノエル嬢にまとめてもらってはどうだろうか」


 確かに床に散らばっていた紙に古代文字が書かれていた。あれのことかしら。


「それはいいわね。お願いできるかしら?」


 離れに住んで石の世話と論文まとめのお手伝いをすれば、それに見合う給料を出してくださる言う。瘴気が漏れ出たら怖いが、これにのらない手はない。大好きな古代文字を好きなだけ読めて、三度の食事とおやつ付き!


「やります! やらせてください!」


 ***


「世話といっても何をすれば良いのかしら」


 たまにジャーと水で洗えば良いのかしら。窓辺において日光浴? そうだ。


 ペンで顔を描いてみた。インクが滲んで泣いてるみたい。泣きたいのはこっちよ。この浮気者!


 トントンと扉を叩かれた。離れ担当になったアメリかしら。


「どうぞ。開いてるわ」


「お届け物でーす。重いので中に運びましょうか」


「助かるわ。こっちにお願いします」


 ずいぶんとサービスいいわね。配達人が大きな箱を運び入れてくれた。


 送り主は魔法省。ラウルの私物を送ってきたらしい。石に向って開けますよと声をかける。一応本人には伝えた。返事はないが承諾と見なす。


「えっーと。何これ。酷い!」


 一番上にあったのは小さな姿絵。祖父が画家を呼んで私とマリエッタにそろいの服を着せて描かせたもの。一枚だけ姿絵があると話した時に、会えない時にも寂しくないようにとラウルに請われて渡したのだった。


 それなのに…。私の顔だけ擦られて薄くなっている。マリエッタの顔は綺麗に残ったまま。


 顔も見たくないほど私は嫌われていたのか。いっそのこと切り取ってゴミ箱に捨てればいいじゃない。


 忙しくて会う機会はほとんどなかった。それでもお互い想い合っていると信じていたのに。1人ではしゃいで馬鹿みたい。会うたびに見せてくれた笑顔はもう忘れよう。


 その夜、夢を見た。誰かが暗い夜道を彷徨っている。ラウルかしら。顔が見えない。夢の中でも私に背を向けるのね。


 目が覚めると涙が頬を伝っていた。私はあの嵐の夜以来初めて泣いた。

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