罠にはまりました
宝物庫から銀の腕輪を持ち出したのはエドガー様。ラウルとは結婚式が終わるまでと貸したそうだ。結婚式が終わると前じゃ何が違うのかな。わからない。
「ラウルは婚約者を貴族の娘としか言わなかった。もしかしたら金目の乙女を見つけたんだと考えた僕は、教える代わりに貸すことを交換条件にした」
「その手があったか! さすがあの分厚い本を読破しただけはある」
「兄上も一度くらい読まれた方がいいかと。読み物としても、とても面白いですよ」
「本開くと眠くなるから無理」
リシャール様ってお勉強は苦手なのかしら。次の国王はエドガー様になっていただくのが良さそう。投票箱があるなら私も清き一票を入れます。
話の途中だが、銀の腕輪を回収に行くことになった。ついでにコッコとリコちゃんも連れて帰りたいとお願いしてみた。
「いいよ。そんな可愛いお願いならいくらでもして」
雌鶏だからそれほどではないけど、静かな私邸に鳴き声はご迷惑かと思って言い出しにくかった。魔術で防音壁を作るからまったく問題ないと事もなげに仰る。さすがだわ。
リシャール様がさっさっと行って用事を済ませようと立ち上がる。
「僕の部屋からラウルの家に行けるよ」
「兄上の魔法陣に大事なノエルをのせたくない。すぐに組み上げる。兄上はね、なぜか魔法陣を描くのだけは苦手なんだよ。他はなんでもできるのに不思議だよね」
どんなに複雑な魔術でも感覚で覚えた言うから驚きを通り越して呆れる。生れながらの天才ってやつね。でも私は真面目で地道に努力される方が好きだわ。
「そこまで酷くないよ。たまに寄り道したり、人にぶつかるけどさ」
やっぱり。魔爵ともあろうお方が、執務室に突然現れると聞いておかしいと思っていた。転移先を確かめずに転移するなんて危険だもの。現れた先にいたのがメイドなら悪戯で済むだろうけど、悪漢がいたらどうするのかしら。お聞きしたらその時は否応なしに攻撃魔法を放つという。頼もしいです。
エドガー様の魔法陣が3人の足元に現れ、すぐに離れに転移。床に足が着くよりも先に石が急激に熱くなった。
「ラウル、どうしたの? きゃーっ! 落ちる!?」
「ノエル!」「罠だ!」
エドガー様が腕をつかもうとしてくれるが間に合わない。リシャール様もものすごい速さで魔法を放たれたが、気づいた時は私だけ違う場所に立っていた。
***
「逃がさないと言っただろう。閉じ込めておけ」
埃っぽい廃屋の一室に偽神父が立っていた。待ち伏せされていたのね。どうやって離れに入ったのかしら。また地下牢行きかな。トイレ付きでありますように!
「ノエル様!」
牢ではなかったが、薄暗い部屋に押し込まれた先になんとアメリがいた。でもその姿は…。
「ノエル様申し訳ございません。あいつに離れの鍵を奪われてしまった上に捕まってしまいました。あっ! それ以上私に近づかないでください」
クリスタ様のお留守を狙って忍びこまれたんだ。
「いいのよ。隅に隠れてないで怪我がないかみせて」
アメリの尻尾は無残にも先が引きちぎられていた。今は止血にハンカチを巻くことしかできない。
「こんな姿を見ても驚かれないんですか?」
「会ったのはのは2度目だけど、アメリも人と魔獣のハーフだったんだね。お屋敷には他にもいるの?」
「数人います。もちろんクリスタ様はご存じですよ」
普通はどこかしら隠せないで、魔獣達と一緒に深い森で暮らしているという。長時間、人の姿が保てるアメリは保護区で育ち、人と同じように教育を受けて、自らお屋敷に奉公へ出てきたという。
こんな時に不謹慎だとわかっているけど、モフモフの耳触りたい。ピクピク動いてすごく可愛い。石に猫目と耳描きたい。耳付き帽子を編むのもいいわね。…今はそれどころじゃなかった。
「ここがどこか知っている?」
「連れてこられた時にちらっと見えたのですが、廃村のようでした。詳しい場所まではわかりません」
アメリになら見られてもいいか。石は依然として熱を帯びたまま。まだ危険は去っていない。ノアを呼んだ。
「まあ、ノア様を呼びだせるなんて。ノエル様はすごいです」
「ノア様? この子はただの猫とのハーフじゃないの?」
「魔力がかなり高いし、しなやかで俊敏な身のこなし。魔獣の中でも高位の種族だと思われます」
ベタ褒めね。魔獣にも階級があるのか。エドガー様にも教えてあげよう。
「ノアお願い。アメリを隠して。ラウルも静かにしてて。私なら大丈夫」
これ以上アメリを傷つけたくない。ラウルは砂と化したことになっている。古代文字を唱えるのも最後の手段にとっておこう。二人を守るのは自分しかいない。
しばらくすると、部屋の外が騒がしくなり、扉が開かれた。
「お前もここで大人しくしていろ!」
「 私に乱暴しないで。ゴダール様に言いつけるわよ」
「そのゴダール様からの指示だ。悪く思うなよ」
「養女にしてくれるって言って、私をだましていたのね!」
閉められた扉に向って悪口雑言の限りを叫び続ける。相変わらずね。
「マリエッタ、静かにして」
「嫌だ。あんた、まだ生きていたの? 本当にしぶといわね」
振り向いたマリエッタは先日よりもかなりお腹が大きくなっていた。顔色は青白く、目は血走り、髪も艶を失い、どうみても健康な18歳の人には見えなかった。




