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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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18/62

始まりの鈴が鳴ったようです

 天蓋付きのベッドで目覚めると、静かにカーテンが開き、お茶を差し出された。初めてベッドの中で飲むミルクティーは格別だった。


 飲み終わると今度はまた違うメイドが二人も来て身支度をお手伝いしますと傅く。手伝いはしても、される事はなかったから妙におどおどしてしまった。初々しいとか、可愛らしいと言われるが、違います。貴族と言っても私付きのメイドなんていなくて、この状況について行けないんです。


 寝室の奥の扉を開けると、衣装部屋に続いていた。そこにずらーっとドレスが並んでいた。これは全てエドガー様のお見立てですと聞かされ、心が跳ね上がる。夜会服は仕立て中だとか。まだ開けられていない箱にはドレスに合わせた靴とバック。鍵付きのキャビネットにはアクセサリー。若い子向けのデザインだからと王妃様からのお下がりだが、すべて一点物。おいそれと着けられるようなものじゃない。眺めるだけで十分です。


 今日のお召し物はどれにしましょうと次々に出される。私好みのシンプルなデザインを中心に、自分では絶対に選びそうにないものまで。合わせてみると意外と似合うかも? 王妃様の御用達ブティックでお一人になった時に店員に聞きながら選ばれたそうだ。何気にブルー系が多い。


 扉の外でエドガー様が待ち構えていた。食堂までエスコートをしようと腕を差し出される。照れずに手をかけることができた。お互いが笑顔になる。


「お待たせしてすみません」


「女性は支度に時間がかかるもの。それに僕はすごく楽しみにしていたからいいんだ。ドレス選び何てしたことなかったけど、深緑色のドレスもとても似合うよ。知的な君にぴったりだ」


「ありがとうございます。とても気に入りました」


 飾りは袖口のレースくらいで華美ではないシンプルなドレス。同じ色のポケットチーフが目に入った。メイドが伝えたのかしら。粋な計らいに感謝だわ。


 ものが欲しいわけじゃない。喜ばそうとしてくれたその気持ちがすごく嬉しい。私のために貴重な時間まで使ってくれた。心の中に刺さっていたトゲが溶けていく。心の中で2回鈴を鳴らしてしまった。


「エドガー様も素敵です。眩しいです」


「眩しい? 誰かすぐにカーテン閉めて」


 眩しいのはあなた様ですと言えば、輝くような笑顔で返してくれた。もう後光まで射してます。


 食堂に着くとリシャール様がいない。二日酔いでまだお休み中だった。エドガー様と二人きりの朝食かと思ったのに、石の入った巾着を渡された。もう私が監視しなくても良さそうだけど。


「兄上から預かった。君にばかり負担をかけてすまない」


 石は静かに眠っているようだった。なぜかお酒臭い。まさか一緒に飲んだのかしら。巾着の紐をギュッと締めた。


 楽しい朝食を済ませると、お仕事があるとエドガー様は寂しそうな顔をなさる。離れがたいのは私も同じ。そうだ、お話するなら今だわ。


「エドガー様にお願いとご相談したいことがあります」


「改まって何だろう。私的な話なら人払いするよ」


 甘い顔で期待されるが、すみません。ほぼお仕事の話です。


 ***


 魔獣討伐に行きたいとお伺い立ててみた。少し難しい顔をされて、話を聞いてからもう一度考えてと言われる。


「これから話す事は、決して口外はしないで欲しい」


 王宮にあるエドガー様の執務室にお邪魔した。綺麗に片付いている。できれば片付けをさせていただきたかったのに。


 たたき起こされたリシャール様はまだ半分目が閉じている。人払いしているので、蒸したタオルを渡して、お茶を淹れて世話を焼いてしまう。でもエドガー様に構わなくていいと言われてしまった。でも体が勝手に動くんです。


「巨大化して瘴気を放ち続ける魔獣の討伐はしているが、瘴気を出さない、出しても少ない個体は捕獲してある場所で保護している。これは公にはしていない。あの文献を読んでもらったからわかると思うけど、今の民は瘴気を出す魔獣しか知らない。魔獣は恐怖の対象だから、わざと生かしていると知ったらパニックになるからね」


「全ての魔獣を滅しているわけではないのですね」


 心の底から安堵した。


「次に北と南の役割だ。北は主に捕獲して保護か眠らせている。南は討伐。小さな個体すら逃さない」


「何故ですか? 南はなぜ虐殺のようなことをするのです?」


 これはリシャール様が答えてくれた。


「今の団長、ゴダールが魔獣を憎んでいるからだ」


 ゴダールの住んでいた村が魔獣に襲われ全滅したそうだ。ゴダールは生れながらにして魔術の才があり、なんとか生き延びた。駆けつけた3代前の魔術士長に見い出され、魔法省へ。ある討伐作戦をきっかけに魔爵となった。


「彼は憎むと同時に異常なまでに魔獣に執着している。殺したと見せかけて何やら実験に使っているとの情報がをつかんだ僕らは、秘密裏に調べてあの赤い布にたどり着いた」


「あの。団長はそんなに短期間で入れ替わるものなのですか? ゴダール様は20代後半くらいとお見受けしました」


「そこなんだよね。前団長は北から出たが10年はいたよ。ゴダールは若返りの魔術を使ってるなんて言ってるけど、疑わしい。途切れることなく何年もかけられるものじゃない」


 不老不死の魔術でも生み出したのかしら。それとも…。


「ノエル。捕獲といっても危険が伴う。それでも気は変わらない?」


「はい。できれば保護されている場所にも行ってみたいです」


「では僕も同行しよう。これは譲れないよ。でも保護区に入るのは許可が出ないと思う。ものすごく遠いし、僕らでも断られる」


 魔獣は魔法陣に閉じ込めてそのまま転送されていた。保護区に行けないのは残念だけど、民には秘密だもの。魔獣の安全のためにもこれ以上の我が儘は言えない。


「討伐隊は当分派遣されない。先にあの教会で見たことを教えてくれるかな?」


「もちろんです。私からもご存じなら教えていただきたいことがあります」


 マリエッタのことも気になるが、まずは伯父だ。


「子ネズミちゃんは知りたがり屋さんだね。もう一人で勝手にどこか行かない約束をして。エドガーの寿命が縮まるよ。僕の可愛い弟を殺さないで」


「そうだよ。必ず僕に相談してね。あとお願いって何?」


「猫と魔獣のハーフ、ペットのノアをここに連れて来ることをお許しくださいませんか」


「半魔獣か。さすがに王宮では飼えない。私邸で預かろう。それならいつでも会いに行けるよ」


「ありがとうございます。一度戻って連れてきます」


「そういえばラウルが君に渡したはずの魔獣よけの銀の腕輪はどうしたの?」


「離れに置いてきました。見るのも嫌なのですが、捨てずに取ってあります。いざとなったら売ろうかと思って」


 婚約指輪がわりにもらったあれ。縁起悪いからもう処分して、ノアの餌代にしよう。いい使い道だわ。


「待って! あれ実は国宝なんだ。ラウルにどうしてもと言われて貸しただけ。何代目だかの国王が魔獣に狙われているとか大騒ぎして、当時の魔術士長と君のご先祖様に作らせたそうだよ」


 冷や出た出た。すぐに取りに戻らなければ!

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