娼館仕込みの愛想笑いで断罪されましたが、契約妻として別館ライフを満喫しています
テンプレートの設定を組み合わせて、お話にしました。
私は娼婦の子で、ピンクの髪をしている。
大きくなったら娼婦になるんだろうなって思いながら、娼館で雑用をやって暮らしていた。
十歳を過ぎた頃、ピンク頭の男爵が迎えに来て、父親だと言われた。
母親はもういなかったから、真偽はわからない。
一応、淑女教育を受けて、貴族学園に通うことになった。
居心地悪いなと思いながら、親切な男の子たちに助けられてなんとか乗り切った。
しばらく経つと、すました貴族女性に比べて、染みついた愛想笑いを振りまく私が人気者に。
娼館で人気が取れるような接客術を見て覚えていたので、つい反応してしまうだけなのに。
婚約者がいるかいないかわからないから、指輪かなんか印をつけておいてよ。
贈り物を押しつけてくるのを断っても押しつけられて、しかたなく受け取っていたら、困ったことになった。
いつの間にか、私がおねだりしていたことにされて。
いらないわ、こんな趣味の悪い、値段で勝負みたいなやつ。
勝手に盛り上がって、婚約破棄しようとした男の子たちが、断罪返しされた。
そりゃ、そうだよね。バカだなぁ。
……巻き込まないでほしかったわ。
親に怒られた途端、私を悪者にして睨みつけるって、なに? ダサ~。
私は男爵に切り捨てられ、元の娼館に戻ろうと思ったが……貴族に睨まれるからと門前払いをくらった。
途方に暮れていたら、契約結婚を持ちかけられた。
領地に愛する人がいるから、タウンハウスに住んで籍だけ入れてくれと。
領地にいる愛人の存在を隠すため、都では「ちゃんとした妻がいる」体裁を整えたいそうだ。タウンハウスに契約妻を住まわせることで、貴族社会からの噂や探りを封じる……う~ん、余計に噂にならない? そっちがいいなら、いいけど。
結婚したら、別館で暮らせるというので了承した。
そこで、予想どおり、態度の悪いメイドがついた。
運んできた変な臭いの料理を口に入れてやったら、大人しく仕事するようになったわ。
私に払われるべき「夫人手当」が少なかったので、執事をツメて、契約どおりに払わせた。私以外の経費も着服しているみたいだけど、関係ないから放置。
奥さんの仕事をしろとは言われてないもんね。
実は、この家で暮らし始める前に、ちょっとした細工をした。
正直、監禁されたら私の細腕じゃ抵抗できない。助けてくれる実家もない。
だから、新聞記者と仕立屋に、一週間後と二週間後に訪ねてくれるように頼んでおいたのよね。
もし、私に会えなかったら「借金取り」のフリをしてくれる、何でも屋さんに来てもらえるように手配した。
幸い、ちょっとぼろい別館で、自由に暮らすことができた。
「夫人手当」で、三人の協力者にお金を払うことができた。
そこそこ大きな金額だった――ちょっともったいなかったかな。
でも、「保険をかけた」けど、使わずにすんでよかったと思うことにしよう。
さて、残りの「夫人手当」で、長期契約できる傭兵を雇った。そろそろ子どもを産みたいという夫婦に住み込みを提案したら、即日引っ越して来た。
身の安全は、最優先で確保しなきゃね。
別館の一室を、仕事が一区切りした傭兵に開放していたら、思わぬ情報が集まってくるようになった。
気がついたら、ちょっとした情報屋みたいになってたわ。
傭兵が出入りすることに、執事が文句をつけてきた。
外聞が悪いって。それを言うなら、カジノ通いをやめたらって言い返したら口をパクパクさせて。
さらに、ヤツの実家が怪しい事業をやっていることをチラつかせたら、大人しくなったわよ。あははは。
情報は力よね。特に、非力な私みたいな女の子にとっては。
そんな中で、書類上の夫を狙っている連中がいたから、それを教えてあげた。
「襲撃されるみたいだから、気をつけたら?」って、メモをメイドに持って行かせた。
別にヤツがいなくなっても何とも思わないけど、違う人が家督を継いだら別館を出ないといけないでしょ。それは嫌かなって。
ちゃんと対処できるか心配だったけど、傭兵の誰かに護衛を頼むほど情があるわけでもないしなぁ。
どうしようか悩んでいたら、いざとなったら隣国にある拠点に来ていいって傭兵たちが申し出てくれた。
料理とか繕い物をする係ならできるかも。
……じゃあ、もう夫はどうでもいいかってなるよね。
そしたら、予想どおり襲撃されて、反撃して捕まえることができて――褒められたんだってさ。
ふーん、あっそ。よかったね。
ところが、なにやら感激したらしく、私に構ってくるようになった。
「こんなに僕のことを考えてくれていたんだね」
って、違うからね?
「真実の愛」はどうしたよ?!
そっちを本命にしたまま、私を正妻、兼二号さんにでもするつもりか?
いや~、ないわぁ。私のこと、舐めすぎだわぁ。
私生活に干渉するのは、はっきり言って契約違反だが?
「契約書ってぇ、これをお互いに守りましょうってゆう、約束ですよねぇ?
お互いに干渉しないって書いてあるんだから、意味もなく食事とか、誘わないでくださ~い」
きっぱり言ってみた。
「……だが、私たちは夫婦だ」
「この契約書が、私たちの『夫婦の形』……でしょぉ?」
忘れたなら、思い出せ。目の前に突きつけて、にっこり。
実力と人格が備わった傭兵たちを見慣れてしまい、責任感のない人物が魅力的に見えるわけもなく……。
(粗暴な傭兵は、傭兵夫婦により出禁に。あ、可愛い女の子が生まれましたよ)
一度だけ、根負けしてディナーをしたけど、二度とごめんだわ。
様々な地方のお話や、ワクワクする冒険譚に比べたら、貴族の自慢話なんて面白くないもの。
活躍している貴族の感心するような話ならまだしも、着ている服や誰かの悪口ばかり。
領地経営を工夫している人の話は面白いけど、そういう話はしたがらない。
ああ、領地の話には恋人が出てくるから、流石に私にはできないか。なるほど、なるほど。
もう、聞いているだけで苦痛。ほんと、時間の無駄。
娼館のお姉さんたちは、お話を聞くのも仕事のうちだから相槌を打ってあげるのよ。
ただ働きなんて、冗談じゃないわ。
早く領地に帰れば?
むうぅ。学園で痛い目を見たのに、条件反射で愛想笑いをしてしまう、自分が憎いわぁ。
物心ついたときから、自分を守るために口角を上げてきたもんだから……。
お菓子をもらえたり、殴られずにすんだり、お得がいっぱいだったのよね、笑顔って。
……「夫人手当」はもらっているけど、最初から「無駄な会話はしない」という条件の値段だからさ。
契約を変えるなら、三倍はもらわないと割に合いませんって。
あ~、もう、うっとうしいなぁ。
「契約違反で離婚を要求しますよ!」って言ったら、ようやく黙ったわ。
いやいや、本当に離婚すればいいじゃない!
明日、早速、本館に行ってみよっと。
きっと、本館では「やっと朝食を一緒に……」からの、急降下でしょうね。