1章 芽生え
よく分からない
「……つまんないなぁ」
声に出すつもりじゃなかった言葉が、喉からこぼれた。ベンチの影から、遠くで騒ぐ声が耳に届く。視線を向けると、公園の片隅で制服姿の高校生二人がメンコをしていた。
今どき、そんな遊びをやってる子がいるんだ。妙な懐かしさと、それ以上に興味を惹かれた。
なんとなく、そのまま公園に足を踏み入れた。とくに用があったわけじゃない。ただ、彼らの姿をもう少し見ていたかっただけ。私はベンチに腰を下ろし、陽が沈むまでの時間を潰すことにした。
数日通って分かったことがある。彼らは放課後、ほとんど毎日ここに来ている。片方は、いつもぼんやりしていて、どこか眠たげな目をしていた。名前は……覇玖って呼ばれてた。
もう片方は正反対。明るくて、声が大きくて、たまに笑い方がうるさいくらいの男の子。叶汰って呼ばれていた。
ある日、コンビニで覇玖とすれ違った。
小さな音を立てて肩がぶつかったとき、彼は一瞬こちらを見て、すぐに目をそらした。
「あ……すいません」
小さな声だった。紙みたいに薄い。誰かに聞かれるのが怖いみたいな、そんな声だった。
そのすぐ後ろから、叶汰が追いかけてきた。
「おい覇玖、ちゃんと前見て歩けよな。すみません、お姉さん。こいつ、下ばっか見て歩いてるからさ」
そう言って、軽く覇玖の額をデコピンして笑った。
二人の距離は、想像以上に近かった。親友って言葉じゃ足りないような、何かもっと、強く結びついているような。
——ふと思った。
叶汰を殺したら、覇玖はどれだけ絶望するんだろう。
毎日笑い合って、じゃれ合っていた相手が、突然いなくなる。それも、意味のわからない形で。
想像してみる。
覇玖が泣くところを。
膝をついて、声も出せずに崩れる姿を。
……それを考えると、胸の奥がじんわり熱くなる。
どうして、こんなに楽しくなってきちゃうんだろうね。
よく分からない