第1話 はじめましてお母さん…ですよね?
ん、眩しい、カーテン閉め忘れてたか…?
うっすらと目を開けると暗闇の中で光るポツンととした何かが見える。
随分と狭いな、どこで寝てたんだ俺、
手を伸ばそうにも上にある何かにぶつかり、足を伸ばそうにもその行動は同じ様に阻まれる。
パキ、
鬱陶しくなり少々乱暴に手を伸ばすとその闇は壊れ、あっけなく光を取り込んだ。
さっきより眩しくなった。
窮屈だしカーテンを開けてさっさと起きるか。
ーそう言って再び腕を大きく振り上げー
パキパキッ
「キュオォン、」
ん?なんだ?なんの音だ?んん、眩しいな全然目が開けられない。
おっと、何かが顔に当たってる。
なんだ?壁にでもぶつかったか?それにしても体が怠いな、風邪でもひいたか?まいったな、会社に行かなきゃ行けないんだが、
「キュウ…」
お、目が開くようになってきたぞ、よし、目が慣れてきた。会社には遅刻しずに済みそうだ。
ようやく開く様になった目を開け、何回か瞬きを繰り返す。
……なんだ?この岩のようなもの?家の中にこんなのあったか?
でかいな、一体何メートルあるん………………だ
………………………………え?
上を見上げて、わかった。俺が岩だと思っていた何かは鼻に当たる部分だったと。
君はファンタジーって信じるか?おとぎ話だとよく聞くが、現実だと妖精が出たなんて言われても信じないだろう。
だが……信じて欲しいんだ。そして教えて欲しい
この目の前にいる生き物をドラゴンと言わずしてなんと呼ぶのか。
!?!!? ドラゴン!どっからどう見てもドラゴンだよな!?俺はまだ夢を見ているのか!?
ズルッ。
「キュウ!」
ベチョ、
驚いたあまり後ろにそれると体がぐらつき、乗っていたであろう乗り物から俺は外に投げ出された。
理解が追いつかないぞ、それにこの石の床は…まさか俺を食べるつもりで巣に!?やめろやめてくれ!
重い体を引きずりドラゴンと距離を取る。
どうにかしてにげないと…殺される…! そうずるずると床を這っているとふと自分の手が視界に入った。
ん?‥は?
困惑が止まらないが仕方ないだろう。だってどう見ても自分の手が爬虫類…いやドラゴンのような手だったのだから。
両手を動かしてもちゃんと連動する。手袋か何かだと思ったが剥がそうにも剥がれない。
そしてその石の床に転がっていたガラスのような破片で自分の姿が目に入った。
(はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?)
「キュオォォォォォォォォォン!?!?」
拝啓、前世の人間の母さん父さん。
どうやら今世で俺はドラゴンになってしまったみたいです。
なんでだよ!!!
さて、取り乱して申し訳なかった。あの後叫び声を聞いたお父さん‥?お母さん?ドラゴンが急いでこちらに寄ってきて、俺はなす術なく、うなじを口で持たれて今はそのドラゴンの胸元に移動させられました。
これはおそらく転生…というやつなんだろうな…俺、刺されたし。
それにさっき壁にぶつかったと思っていたのは、おそらくお母さんドラゴンが俺にすりすりしてきた時のやつだったらしい。それで今はお母さんのザリザリとしたデカすぎる舌でグルーミング中だ。
「キュウ…ウォン」
それで不思議な音だと思っていたがどうやら俺の鳴き声だったみたいだ。というか、舌の勢いが強すぎてもう食べられそうで怖いんですけど、時々喉で鳴っているであろう親のドラゴンの鳴き声がもはや地響きみたいで、鳴かれるたびに体がビクッとなるほど怖い!
………それにしたって俺ちゃんと動けるのかな。尻尾とか翼とか人間だった頃はなかったし、知らない感触が付いてきててあまり動かせる自信がないな。
ちょっと、父さんか母さんかわからないけど一旦その毛繕いやめてくれ。
ちょいちょいっと手で拒否の姿勢を取ると意図が伝わったのかその胸からあっさり解放されて体に清々しい空気が流れ込んできた。
あー空気が気持ちいな。ここは見るからに洞窟だな。しかもこのドラゴンが入るって事は相当でかい。……歩けるか?
ゆっくりと右前足を出して地面に置く、次は左後ろ、左前…右後ろ 順番に足を動かして洞窟内を歩いていく。
どうやらちゃんと歩けるようでよかった。実家で飼ってた犬の足並み、覚えていてよかった。
尻尾はほぼ意思関係なく動くため、時々尻尾に体が引っ張られ地面にドシャ、っと叩きつけられる。その度に後ろで地震のような声を上げられるのだが、心配しているのだろうと思えても怖い。
おそらく母親のドラゴンと見た目は変わらないだろうが
先ほど姿を確認できた鏡の前まで行ってみて改めて自分の姿を確認することにする。
見た目はザ・ドラゴン。
ツノは少し前に出てる感じですごく攻撃力が高そうだ。
体の色は紺…よりかは黒か?とにかく黒い色だ。夜に狩をするのだろうか?
目の色は黄色?黄緑?みたいな色で母親とは目の色が違うな…父親譲りか?でも宝石みたいで綺麗だ。爪の色は体よりかは明るいけどやっぱり全体的に暗い色の体だな。
手や足をグーパーして確かめていると後ろからとんでもない風圧が体を直撃した。
(どわぁぁぁぁぁ!?なんだ、敵襲か!?吹っ飛ばされるぅぅぅ!)
「キュウゥゥゥゥゥゥゥキャァァァァァァ!」
爪で必死にしがみついていると母ドラゴンが羽で風圧を和らげてくれた。
あぁ、……助かった…ありがとう母さん、さすが母は偉大だ。
一体何が起きたんだと母の羽の隙間から顔を覗かせると母と同じ体の色をしたドラゴンがお座りしていた。
おお!あれが父親か!俺と目の色が一緒だ!なんと凛々しい体なんだろうか!やっぱり改めて見ると男の夢が詰まった感じでとてもかっこいい。
俺の体とは違って黒曜石みたいな綺麗な色をしている。いつか俺もああなるんだろうか。それは少し楽しみだ
それにしても父さんは何を咥えているんだ?小さい…肉?ご飯か?
それが気になりじっと見ていると父ドラゴンが突然首を振り、俺に向かってその何かを投げ込んでくる。
(な、なんだ?)
「キュ…?」
気になり、空中に放り投げ出されたそれをしばらく凝視しているとだんだんとその何かが俺の上まで迫ってくる。
(ちょ!?ちょっと待てデカくないか!?)
「キュイ!?ピィーキューー!?」
想像よりも大きいそれを避けようとして慌てて後ろに下がった。
ドスンッ。と土煙を立てて音がするほどのそれに恐る恐るそれがなんなのか確認した。
(うわっ…)
「キュル…」
思わず顔を顰めてしまったが、それは鹿のような、牛のような動物、おそらくこの世界の生き物だろう。少なくとも俺は今まで見たことがない
俺の体よりでかいぞ…
こんなものどうやって食えというのか、両親2人…いや2匹とも俺が食べるの待ってるし、正直お腹も空いている。‥が、
レバーですら食べられなかった俺に、この生臭さ全開のご飯を食えるのか…
どこから手をつけていいのかわからないそれを前にオロオロしていると見かねた母ドラゴンが近寄ってきてその牛なのか鹿なのかわからない動物の上半身を口で簡単に引きちぎってみせた。
……グロい…な、結構
するとその口に咥え込んだ肉をさらにぶちぶちと音を立てて噛み砕き、俺の前に投げる。
ちぎられた肉は見事に赤身だけとなり、そこだけ見ればとても美味しそうに感じてきた。ゴクっと生唾を飲み込むと、腹の虫がそれに反応してぐぅ、と鳴る。
(生きるためだ、生きるため、)
恐る恐るその落ちている肉を咥え込み、数回噛んで飲み込んだ。
ゴクッ。
(…お?意外に)
うまい。生臭いのは消えないが口に運んでしまえば案外食べられるではないか。
続けて一口、二口と口に入れて咀嚼する。
やっぱりドラゴンは肉食なのだろうかと考えながら母ドラゴンが小さくしてくれたかけらをどんどん食べていく。
もぐもぐと洞窟の端の方で食事をとっていると、唐突に父ドラゴンの上に母ドラゴンが乗っかった。
‥ん?………………え?
そして母ドラゴンが徐に腰を………
(…ってお前メスじゃなくてオスだったのかよ!)
「ギュル!ガーーーーーーーーーーーーー!!」
と。一匹のドラゴンの鳴き声が洞窟にこだました。