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同じ空の下で  作者: 桜油
7章
99/140

93話

こんにちは。


明日で七章も終わりです。

最終章も近いので、そろそろあとがきとか設定集とか用意しなきゃ…。


では、どうぞ。

『軍』執務室。

久々に訪ねたその部屋は、提督がいないというただそれだけのことで、どこか空虚さを感じさせる。

そんな中、提督が本来いた席に拝郷が深く腰掛けて机に肘を立て、手を組んで顎を乗せていた。桜乃夫妻はその傍らに控えているが、提督の生前より緊張に張り詰めた表情をしている。


「よ、お二人さん。随分垢抜けたじゃねーか」

「よ、じゃないよ。君さえいれば、だいぶ『軍』もマシだったのに。しかもいつの間にか弟くんが提督に祭り上げられてるじゃん。今までどこをほっつき歩いてたのさ」


私が言えた口でもないけど、と付け足した唯笑は蛆虫でも見るように拝郷を見ていた。

桜乃夫妻は、普段なら宥めるなり煽るなり会話に介入しそうなものだが、今はただ只管黙り込んでいる。……どこかおかしい。2人も、多分拝郷にとんでもない無茶振りでもされたな。


俺の分析をよそに、拝郷はくつくつと笑っていた。


「つれねえなあ姫さんよお。折角、世界を救済できそうないい作戦思いついて、その下準備がパーペキに終わったってのに」

「そんなの不要だよ。とにかく、桜乃さんたちのサポートしててくれたら良かったのに」

「まあまあ、そんなこと言いなさんな。確かに姫さんも想定以上に頑張ってくれちゃって、おかげで、作戦が失敗してもどうにかなっちまいそうだけど。折角なら穏便に済ませたいんじゃねーの?姫さんが令呪を確実に使わない、王子様だって無茶しなくて済むってんならそれに越したこたねーだろ」

「……そんな作戦、あるわけないでしょ?」

「ちっちっち」


唯笑の反論に拝郷は、人差し指を立てて左右に振った。なかなかウザい。唯笑もこめかみに青筋を立てているが、拝郷はお構いなしに続けた。


「あるんだなあこれが。まあ?伝手が最強のオレにしかできねーかもしんねーけど」

「……」

「ま、この招集もオレが今日その作戦を説明して、そのとおりに動いてもらうためのものだし。今からぱぱっと説明してやるから、耳の穴かっぽじってよく聞けよ?」


拝郷がそう話す。先ほどから唯笑の方ばかり見て話している……のは初めて出会って以降はいつものことだが、今まではそう大して気にしなかったのに今は少しもやもやして、何となく口を挟んだ。


「一々煽らないと話せないのか、お前は。時間は有限だ、俺達の準備もあるんだから、さっさと話せ」

「おっと。王子様から指摘を頂いてしまった。それもそうだ、明日やる作戦だから今夜には心の準備はしといてくんねーと困るな」

「明日かよ」


拝郷は何でも無いように俺に返答した。


しかし随分と急な作戦だ。

……明日。司たちの、『最後』のショーの日だから観に行きたかったが……仕方ない。拝郷が黒守の提督就任に一枚噛んでいるなら、司たちのショーにもそれなりの意味があるのは予想の範囲内だ。何の意味もなく、司たちのショーをセッティングするわけがないよな。


煽るのをやめて普通の話し方に戻した拝郷の作戦は、こうだ。


明日、司たちがショーを開催する。拝郷は、今までの全ての伝手を利用して、それを世界中の大型ビジョン、テレビ、端末など含めた全てのモニターでライブ配信する。また、同日に世界中のほぼ全ての人々を対象とした『心象魔術』を展開する。すると、ほぼ全ての人類が抵抗できずに攻撃性が高くなって暴動が起こるのだが、ここで司の『異常性』の『容赦』が発揮されるのだ。

司は普段から常に『容赦』を使用……否、適用されている。自分から進んで魔術や『異常性』の効果を打ち消せないが、無意識下で自分にとって不都合な魔術等に関して『容赦』の効果でキャンセル、または弱体化させている。その効果は、自分や物理的に距離が近しい人物にだけ効果が及ぶ。

なので、『心象魔術』を世界中に向けて展開しても、司や近い距離にいるであろう舞月愛、識名宇海、黒守采和は正気を保てる。そして、司は黒守がショー翌日から『軍』全権代行になるのを知っているし、知らなくても黒守が、最後のショーを中止にしたくないという心情で強行を選択するだろう。もっとも、拝郷のことだ。そのへんも契約で縛って、確実に強行するように調整を済ませているだろう。その為、どんな暴動が起こっていようとも司たちはショーを開催するのだ。

そして、『容赦』の力を広く、強く伝播させる。そうすれば、暴動は収まる。


「ちょっと待て。どうせ打ち消すなら、わざわざ暴動を起こさせる理由はあるのか?」

「勿論」


俺の質問に拝郷は即答した。


「司のやつ。本人は完全に無意識だろうけど、どうも『歌っている間』が一番『容赦』が強く出やすいらしいんだわ。それも、『絶対失敗できない』と思ってるほど強まる。歌えば暴動が収まるんだぜ?あいつは絶対必死こいて歌うね」

「いや、暴動起こさなくても司は必死に歌うだろ」

「そうだけど、今回はできる限り強く『容赦』がほしい。なんせ、『実現』をなんとかしてでもおびきだしたい」

「……囮?」

「悪意持って言えばそうなる」

「おい。巻き込んでんじゃねーよ」


司たちは曲がりなりにも一般人だ。いくら優秀で実力のある黒守と言えど、戦闘能力のない3人や多くの一般人をかばいながら戦うのは骨が折れるはずだ。


そう思い咎めたが、やれやれ、と肩を竦めた拝郷が反論した。


「でもなあ、どうしても必要だぜ?現状、『実現』は消息不明じゃん。で、こいつがこのまま身を潜めてたらこいつの勝ち確なんだよな。それは理解してんの?」

「……それはそうだが」


『実現』が何も干渉しなくても、世界は滅ぶ。そうなった時点で俺達の敗北、『実現』の思う壺だろう。

それは古白との会話で実感していた。

唯笑はあの光景を『前回』以前で見ていたのだろうか、渋々頷いていた。


「でも、『容赦』が十全に発揮されてデバフが入ってたら、さすがに無視できねーだろ。無視してたら、今依代にしている高式に暁との接続が危なくなるし、そもそも『実現』としての力の本領は発揮できないからな」

「だから、『容赦』を派手に使わせて、暴動も起こすことで逆に場所を特定させ、そこへ誘き寄せるってか」

「そうそう、そういうこと。んで、接続をぶった切ってやろうって作戦」

「安全面は?司が、司の仲間が殺されたら無意味だろ」

「その為の黒守采和、汐宮宥の護衛、『軍』『放蕩の茶会』の哨戒って訳」

「椎名たちとも手を組んでるのか……」


俺が納得したところで、唯笑から「ねえ、拝郷」と声があがった。


「作戦は大体理解したよ。要は、私達が守ればいいだけでしょ?でも、『容赦』はその場にいる人しか効果がないでしょ?広範囲に伝播させるなんて、それこそ『決意』とか『覚悟』でもないと無理でしょ」

「そうだぜ?だから、『令呪』をもらいに来たっつー訳」

「それはいいが、『令呪』は消えるリスクもある。『覚悟』じゃ代用できないのか?」

「足りねーな。世界中だぜ?重ねがけしねーと馬鹿みたいな魔力量持ってかれんぞ?令呪も複数の画数を消費しねーと無理」


という拝郷だが、「重ねがけ……そんな発想、全然無かったや」と唯笑は目から鱗と言った様子だった。

唯笑が気づかないのも無理はない。唯笑は令呪を無駄遣い出来ない状況下だったし、そもそも一画で本来の目的を果たせるのだから複数も消費する必要性に駆られる場面もなかったはずだ。


画数を複数使用したり重ねがけするメリットも、予測は出来た。


まあ、でも。


「仮にそうだとしても、唯笑は令呪があと1画しか無い以上絶対使うなよ」

「えー。怜が死にかけてたら絶対反射で使っちゃうよ?」

「確かに使いそうだな。『初対面』の時も使おうとしてたし」


使わせないためにも気をつけよう。そう固く心に誓った。


閑話休題。


「しかし、そんな『覚悟』と『令呪』を重ねがけして、『令呪』を複数画消費してまで『心象操作』を使うってことだろ?そうでもしないと魔力が足りない以上、最低2人は必要だと思うんだが。その2人はどうすんだよ」

「目の前にいるじゃねーか」


そう言って拝郷は桜乃夫妻を指し示す。


「お二人さんには『心象操作』、『容赦』の影響範囲と効果のバフを頼んでる。『容赦』担当のほうが消費する画数は多くしとくけど」

「なるほど」


一応納得こそはしたが、あの桜乃さんたちがピリピリした雰囲気になるとはあまり思えず、首を傾げた。

だが、作戦に必要だと言われた以上、『令呪』は必要か。


「何画いるんだ?」

「10画。あ、オレにもくれ」

「何でまた。拝郷は作戦では令呪使わないだろ」

「いや、まだ説明してなかったけど。接続ぶった切るには必要なんだよね」

「それこそ俺たちで一気に攻めればいいだけなんじゃないのか?」

「作戦の失敗した時に備えて、あんま消耗してほしくねーの。そもそも、作戦成功したとて世界をどうにかこうにか再生するには、お前さん達に期待するしかねーんだから。戦闘ぐらいは任せとけ」


拝郷はそう言って笑った。


「待って。それは私が解決すべきことだよ?怜はともかく、皆関係ないじゃん」


そう唯笑が言うが、拝郷に「うっせ。寧ろお前のほうが無関係だわ、『今回』の住民じゃねーんだから黙っとけ」と切り捨てられて、目を瞠って黙り込んでいた。


「……本当にいいのか?」

「おうよ。先祖サマたちが遺した負の遺産ってえなら、本来大人が解決すべきことだろ。クソつまんねーご時世のせいでガチガチに巻き込まれてるだけなんだから、存分にその権利を使って青春謳歌しろ」

「……」


唯笑は未だに不満げだったので、俺からもコメントした。


「唯笑。作戦に思うところがあるだろうが、今更作戦に口出ししても大局は変わらないと思うぞ」

「それは分かってる。それに、ちゃんと成功したら……きっと、きっと、私が想定していたよりもずっと良い結果になる」

「じゃあ、」

「でも」


じゃあ、ソレで良いんじゃないのか。

そう続けようとした俺の言葉を遮った。


「悪い予感がする」


唯笑はそうぼそりと言い放った。


「『令呪』の複数画数の使用。『覚悟』との併用。それは私には思いつかなかったし、『容赦』と志瑞くんの性質を利用したこの作戦だって良いと思う。普通なら、そのまま採用したって良いレベルだと思ってる。刹那さんは犠牲になってしまったけど、他の皆は未来を迎えられる。本当、素晴らしい作戦だよ」

「……」

「でも、私がその未来予想図を思い描こうとしても、素直にそのイメージができない」


唯笑の主張に俺は再度桜乃夫妻の様子を窺おうとした瞬間、俺の視線を遮るように拝郷が間に入ってきた。


「やだねえ姫さん。提督が殉職したからってネガティブになりすぎじゃね?」

「そんなことない。私は怜となら世界だって救える。もう、私は1人で立ち尽くさないよ」

「どうだか」


拝郷は肩を竦め、俺の方へ向き直った。


「さて、王子さん?姫さんを危険に晒さなくていいかもしんねーチャンスだ。オレたちに『令呪』を10画ずつよこせ。直ちにな」

「だめ、怜。この作戦は、……っ」

「はいはい、姫さんに決定権ねーから。王子さんに聞いてんだから王子さんが答えてねー」


唯笑が何かを必死に訴えているが、『結界』の魔術が略式で展開され、唯笑の声が一切聞こえなくなった。

どうやら、俺が決断しなければならないらしい。しばらく考え込んだ。

唯笑の言う『悪い予感』。それが何に起因するものか。どうしても不安なだけであれば、その不安を拭い去ってしまえばいいだけなのだが……作戦そのものに欠点があるようにも感じられた。


たとえば、令呪10画と『覚悟』で足りるのか?


いや、足りる以前に桜乃夫妻のあの様子で『覚悟』は正しく効果が適用されるのか?


なんとか成功したとして、『実現』との接続を切断したところで、当の器本人である高式がそう大人しく引き下がるのだろうか。


拝郷はその辺りを度外視しているわけでないことは、俺達を『失敗したときの備え』と評していることから理解はできる。言わばこの作戦は、『成功したらそれはソレで良かった』というだけで柱の作戦ではなく、俺たちこそが本命のような気がする。世界を救うのは俺たち頼りなことからも、唯笑の想定と作戦はあまり変化がなく、寧ろ生還者が増える可能性もあるのでメリットしかなうように感じるから、やはり唯笑が拒否しようとしている理由はいまいち分からない。


まあ、最悪、俺や唯笑の方で挽回すればいいのなら。作戦を引き受けるのも一手だろう。


俺の表情の変化に拝郷は口角が上がり、唯笑は表情を曇らせた。


「だめ!」


唯笑の制止も聞かず、そのまま俺は拝郷に令呪を10画分付与した。桜乃夫妻にもそれぞれ10画ずつ付与する。

唯笑が膝から崩折れたが支えて、「大丈夫。俺達でフォローはできるだろう」と話す。唯笑は腑に落ちない様子で黙り込んだ。

あとでゆっくり話す時間が必要だろうな。


一方、拝郷はそっと優しく令呪が刻まれた手の甲を撫でた。


「ありがとな」


そう穏やかに微笑み、「じゃ。最後のブリーフィングは終わり。明日は寝坊すんなよ?」と拝郷は言い残し、執務室を後にした。

桜乃夫妻に声をかけようか悩んでいる間に、桜乃夫妻も「息子たちに一言挨拶に行ってくら」「貴方たちも、美味しいもの食べて、沢山お話して、ゆっくり休みなさいね」と拝郷に続いて去っていったのだった。

今後は明日も平日と同じくらいの投稿時間になります。


まあ、半月ほどで完結しますけど。

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