92話
こんにちは。
昨日の続きですね。
では、どうぞ。
古白に更に続けて質問した。
多分、俺が質問し続ける限り答えるが、俺が質問を止めた途端に『解散』とかなんとか言って、二度と会えなくなるような気がしたから。
幸い、疑問は尽きない。
「『実現の魔女』は、封印と抹消のどちらを選べばいい」
「抹消一択」
即答だった。
「いやー。封印でもいいよ?成功すれば君にとっては大団円だとも。でも、世界再生したらその封印は無かったことになるよ?正しい形、つまり『実現の魔女』も『実現』とかいうチート武器を振り回してるだけのただの女の子になる。まあ、そいつも放置すれば確定で闇堕ちするけど。で、そいつを上手く封印したとしても、人間って時々馬鹿だから復活させて悪用を企んだ屑のせいでまた同じことを繰り返すだけ。世界を救ってから封印にしたって、『実現』が全力で妨害するっしょ」
「……」
「ただねえ。抹消は抹消で方法がないでもないけど、貴方次第で成否は変わる。失敗すれば君という抑止力は消えてバッドエンド直行。上手くいっても君は消える」
「なるほど。次に、世界救済をしたとして、どんな影響が発生する?」
「おれと、椎名綴たちは消えるね。下手すると一条有希、日向紗季、君も消えるかも」
「思ったより影響範囲が大きい……」
「スワンプマンの原料は、ダークマター。わたくしの『故郷』由来のものだから、ここにあることがおかしいわけ」
「……もしかしなくても、唯笑にも影響があるのか?」
「モチのロン。今、ここにいる君と関わった記憶は消えるよねー、確実に」
繰り返した記憶も消えるから、君の知っている彼女とは異なるだろうさ。
古白はそういいつつ、でも気にしなくていいよ、なんて語る。
気にするわ、ボケ。世界を救ったときの犠牲が多すぎるじゃないか。
「大丈夫。『かみさま』なら君の我儘だって押し通せる」
「はあ……?」
回答の意図が読めずに首を傾げたが、古白はこれについて言及する気があまりなさそうだった。
渋々、次の質問に入った。
「世界を仮に救えたとして、お前はどうするんだ?『国際魔術連合』や『評議会』全権代行は続けるのか?」
「いや?」
彼女はひどくどうでも良さそうだった。
「人間の可能性は充分見れたし。貴方は、あたしから何も聞かなくても間違いなく『この世界』は救える。けど、接点のないただの人間にゃあ主は救えない。それが分かっただけでも収穫あった」
「そうか?」
「そういうもんだよ。とにかく、『この世界』について終わったら貴方のことなど知らない。興味もない。もう、全部おしまいなんだ」
「世界が終わるのか?」
「いや。世界は必ず救われる。それがメリーバッドエンドかノーマルエンドかグッドエンドかハッピーエンドかは知りませんがね。救われて、その後のことなんて知らない。ゲームってそういうものでしょう?ラスボス倒して、後は若い皆でごゆっくり」
「こんな状態……箱庭みたいな世界でどうやって平穏に生きろと。お前の言う『主』とやらは随分無責任じゃないか?」
「自分たちの世界でしょ?寧ろ自分でどうにかしろよ」
「『神様』に近しい位置なんだろ?じゃあ、救ってくれたっていいだろ」
「私は、『主』は、貴方の『かみさま』じゃないから。勝手に願われて失望されても困るんだ。それに、わたしゃあできる協力は既にしたぜ?『容赦』が無事に生きてるのがその証拠よ……ふふふ、クライマックスは劇的なものでしょう?自分たちで結末を見届けたいじゃないですか。私って、ハッピーエンド厨なんですよ?」
ひどく楽しげに、鼻歌まじりに喋っていた彼女は、こう続ける。
「我々、命在る全ての者が意味を為す。生きている、愛されている、存在を赦される、必要とされる。本当の幸福とは、誰も深く意識していないごく普通の現実にこそある。それがわたくしにとっての幸福理論。安心なさい。いつか、『かみさま』はお前だって真の意味で救ってくださるさ。そう、たとえばー君が令呪とか、『異常性』とか、その『異常性』すら超過した『奇跡』で世界にいられなくなったとしても、貴方が誠実に『本当の心』と向き合えたなら、君を掬い上げてくれる」
「……」
「だからね、城月怜。おれは決して正体、素性なんて語ってやらない。その代わり、私に意味なんて与えなくていい。私は古白曜でも燿心白でもない、『ネームレスカルト』だ。決して呼ばないでくれ。貴方の中で、私は何者でもないままにさようならをしよう」
彼女の口調は先程と変わらず、楽しげだ。
しかし、言っていることは紛うことなき拒絶だった。
「……なんで、」
「そろそろ相棒の元に返そうか。言いたいことは充分伝えられた」
「おい。『主』とやらを救わないとなんだろ?やる前から決めつけてどうする、『主』についてもう少し情報をだな」
なんとか、目の前の彼女の指先を止めたかった。魔術式に介入して転移を止めようにも、彼女の『転移』はほぼ間違いなく『魔術』ではないし、おそらく『異常性』で干渉できるものでもないから。
たしかに、彼女の話は滅茶苦茶だ。突飛なお伽噺をされたような気分だ。
だが、だからといって無碍にできる話では決して無かったし、燿どころか古白の全てが偽りだったとしても、彼女には世話になったのは確かなことなのだ。
だというのに、俺は、何も返せていない。
彼女は指をふと止めた。俺が胸を撫でおろし、やっと『主』について情報をくれるかと期待をした。
が、ソレは違った。
「人間らしく、貴方の欲に従って生きなさい。私の世界の問題は、私達が解決すべきなのだから」
だが、と顔を上げれば、彼女は綺麗に笑っていた。
「いざ、さらば。またいつか、お会いしましょう」
そして、止めていた指をピクリと動かした。
「っ、おい、」
止めるも虚しく、周囲は桜坂市のいつも見慣れた景色に戻り、唯笑の隣に戻ってきていた。
「え、怜?戻ってきたんだ、でも古白は?」
と唯笑から質問されたが、何も言えずにいた。
名前も、素性も結局明かさなかった、魔術師ではない、どころか人間ですらないらしい女性。何もかも拒絶したせいで、なんて呼べばいいのかすら分からない。
ヒントは数多く得られた。直接救ってくれやしないが、俺たちがどうにか世界を救うのに必要な情報をポイポイとくれた。その貴重すぎる情報は、明日に最終決戦を迎える俺にとっては大切な財産となる。下手したら『命の恩人』にすら値するかもしれないのに、何も報いることもなく、初めてあった時よりも何も知らない状態での離別となった仲間。
正直、今でも「何だったんだアイツ」と思っている。詳しく聞き出そうとすれば、一方的に神だの異世界だのと理解の範疇外のことを言うだけ言われて、困惑が大きい。だが、礼くらいさせてくれたっていいじゃないか。
もういい。決めた。人間らしく自分のために生きろというのなら、お言葉に甘えて、世界を救った後は、古白の言うその異世界に行く術を探ってやろうじゃないか。そして、再び会えた時には根掘り葉掘り聞き出して、強引に『主』とやらも救けて、古白の世界の問題も解決してやる。古白もなんだかんだ俺がいるこの世界の問題に干渉してきたのだから、文句を言われる筋合いはない。
俺だって、ハッピーエンド厨なのだから。
「『里帰り』したぞ」
「へえ。古白さんの出身ってどこだろ?
「遠く離れた異国らしいぞ。さっき自分でそう言ってた」
「へえ。いつか旅行に行ってみると面白そうだよね」
「そうだな。会談は終わった、さっさと戻ろう」
「うん。緊急招集あるしね」
……その時、隣に唯笑がいたら、もっといい光景を見られそうだな。
そう思いつつ、話を切り上げて帰路についた。
正直、昨日と今日に関しては、この小説の伏線でもありますが、
それ以上に、このシリーズ全体の伏線の方が近い話でした。
つまり何かっていうと、
古白の言っていることを深読みしなくてもこの小説は楽しめます。
ということ()




