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同じ空の下で  作者: 桜油
7章
96/140

90話

こんにちは。


昨日の続き、なんならあとがきで垂れ流した裏の背景の補足でもあります。


では、どうぞ。

国道沿いの高架橋下の河川敷に、執行は体育座りで座り込んで顔を膝に埋めていた。

唯笑もすぐ傍に腰掛けてどこか途方に暮れていたが、俺の姿を見つけると駆け寄ってきた。


「あ、怜。来たんだ……綴ちゃんたちは?」

「別件でどっか行ったぞ」

「え。これを放置?」

「目的は全て果たせたからな。あとは彼奴ら次第だろ。……ちゃんと気づけてよかった」

「……もしかしてそういうこと?」

「ああ。……俺を無理やり怒らせてでも、『絶交』させたかったらしい。『決意』まで使わせてな」


そう。椎名たちは、世界を救済した後の未来も生きる為に必要なことをしようとしている。


古白から何を聞いたのかは分からないが、その一環として『この世界の本人に別人物だと認知させる』必要があるということだったのだが、その認知だけでは不確実というか、不安要素があったのだろう。

そこで、俺の『決意』を利用しようとした。

ただ、俺にとって椎名たちは『前回』からの縁で、唯笑に対するソレとは違うが特別な感情がある。最早、椎名たちこそが俺にとっての識名宇海達なのだ。


ならば、俺から『赤の他人』になりたいと願うほどに嫌われてしまえばいい。


だから、執行が傷つくと理解していて、敢えて俺の目の前で執行と接触し、執行に対して無責任な言動をすることで俺を怒らせて、『前回』からの縁を終わらせる、と俺から明確な『決意』を込めた発言を引き出そうとした。

俺はその意図を掴んで、『決意』を込めて『椎名綴たち』と『志瑞司』たちは別人だと発言したうえで、『友人』ではない、とした。


でも、『親友』を止めたつもりはない。

それを椎名たちも汲み取ってくれたからこそ、最後に彼らは笑っていた。


『決意』は『実現』の劣等版。『実現』が願ったこと全てを叶えるのなら、『決意』も強い意思を込めて宣言したことくらいは現実にしてくれたっていいだろう。

成否を問わず、二度と会えないかもしれなくなったが……まあ、同じ空の下で生きていれば、それでいいと思う。


さて。そんなことより執行だ。

どうも、俺が合流する前に唯笑がフォローを試みたが、唯笑も似たような経歴だったからか全く聞く耳を持たないらしい。

それって俺がフォローしても同じような気がするのだが……俺が思ったように話すしか無いか。

大きく息をついて、俺はゆっくりと執行の隣に腰掛けた。


「なあ、執行」

「……」

「執行は、何を思って魔術師になったんだ?」

「……何ソレ。あたしへの当てつけ?」

「どう思われても良いけど。そんなことするより世界を救いたいかな、俺は」


執行寿羽という人間について、正直、そこまで思い入れがあるわけではない。


たしかに魔術には詳しいだろうけど、寿乃のほうが生きてきた年数の分、蓄えられた知識量が圧倒的に上で。

友人とするには、接触する機会が少なすぎて。寿乃とは別の人生を歩んでいる分、為人はまるで違うはずだがイマイチ掴みきれていなくて。

精々、黒守采和を大切に思っていること、戦いを厭うこと、好奇心が旺盛で魔術に関する知識の蒐集が趣味の少女、ということしか分からないでいた。だから、距離を図りかねて、心を開けず、他人以上知人以下のような、同盟相手という本当にビジネスだけの関係を構築してきた。彼女が俺を唯笑の金魚のフンのように認識していたのも大きいだろうが、その認識がなくなってからも、どこか近寄りがたいと感じていた。


そう、率直に言えば、苦手意識があったのだ。


あれだけ強気に執行を友人だと言ったのに、実際は友人らしい要素など1つもないのだからとんだお笑い草だろう。

執行にもその自覚はあったろうに、ぴくり、と執行が動いた。少し沈黙が流れた。


「……それもそっか。あんたにとったらどうでもいいか。はは、自意識過剰かよ、あたし」


軈て顔を上げた執行は、どこか虚ろな目で俺に語り始めた。


「正直、最初はただ食い扶持を稼ごうと思っただけなんだよ。親が事故で死んで、クソみたいな親戚が全員、あたしの親の遺産を盗るだけ盗って、あたしを置き去りにしたもんで」

「ありがちな不幸だな」

「でしょ。けど、めっちゃ運が良かったんだろうね。桜乃さんが親の仕事の上司だったとかなんとかで拾ってくれたんだわ」

「おお。それは本当にラッキーなこった」

「で、そこで采和とは面識が出来て、まるで兄妹のように育った。『軍』の活動にはあんまり興味無かったけど、采和が『ぼくの魔術でみんなが笑ったらいいな』ってきらきらした目で語るから、頑張りたくなっちゃった」

「そうだな。黒守の夢は、とても綺麗だよな」

「でも大変だったなあ。特に才能も無いから、何を掴み取ればいいか全く解んないし。どこまで突き進めばアイツの隣に立てるのか、それもよく見えなくて。鍛錬しても同じ失敗をしてるし、事務とか裏方でサポートをやってみても空回りして虚しくなるし」

「……」

「でも、やっと。研究の成果で、アイツを笑わせることができた」

「それは……」

「采和が演出で使ってる魔術。あれ、元々はあたしが開発したんだよ。それをアレンジした結果、ああなったの。これで、アイツが泣いたら全力で笑わせよう。そう、思ってたんだけど……その前に、アイツが壊れちゃった」


黒守采和は、一時期『史上最悪の殺人鬼』と呼ばれるほどの実力者だった。だが、当の本人は温かい心を持つ人間で、人を殺したこと、人を殺した自分自身が許せずに自分の顔を認識できないPTSDになった。きっと、そのことを言っていた。


「あたし、連れ出そうと思ったんだよ。けど、伝え方を間違っちゃって。だから、相応の実力を、権力を身に着けて、アイツを攫ってやろうなんて考えて。あたしの論文を売りつけて、なんとか紆余曲折を乗り越えて『陰成室』の全権代行の座を分捕ってやった。元々の全権代行には悪いことしたと思うけど……それで神に見捨てられたって、業火に灼かれたって、それでも、何度でもアイツを攫いに、迎えに行くんだって。その必要がなくなってからも、もっと体制を整えたら思いを告げようとか考えて」

「……」

「でも。もう、遅かったらしい」


きっと、志瑞たちのことだ。


「嫉妬したよ。馬鹿だよね、アイツが笑ってくれるなら何でも良かったはずなのに」

「……」

「……きっとね。あたし、誰よりも采和のことが好きだった。ただ成り行きで同じ組織に所属した同い年の同士ってだけなのに、甘えてた。けど、権力を、知識を持って、己で歩いていく自力も身につけて、どんなに甘ったれだったのか十分理解した。刹那さんも、桜乃さんも、采和も、どれだけあたしに心を砕いてくれていただろうね。椎名さんたちも、唯笑だってそう。確かにチャンスは与えてくれてた。あたしが間抜けにもそれを見逃しただけ」

「……」

「誓ったよ。今度は、あたしが守ってあげる。その権力と、得た知識の全てを総動員してでも、今まで支えてくれてた人を支えてみせる」


いつからか、執行の瞳には強い光が灯っていた。

驚いた。失望とか、落胆とか、そういったものが強いと思っていたから。

元から平気だったのか?否、そのようには全く見えなかった。

ならば立ち直ったのだろうか?それはどうしてだろうか。唯笑の言葉は響かなかったらしいし、俺自身も話を聞くしかできていないのに。その理由にこそ、椎名の語るヒントがあるのだろうか。

執行の言葉は、宣誓は続いた。


「けど、アイツはそれでも納得しないよね。どうせアイツのことだし、刹那さんの遺志を引き継ぐって言って、拝郷の力を借りてまで提督になったんでしょ?志瑞を守るため、も理由にあるかもしんないけど」

「さすが幼馴染。当たってる」

「ははは、そうでしょ。それで、アイツはあたしに守られてくれやしないの。……だからさ、せめて、あたしが守らなくても、胸を張って魔術師をやっていけるようになってほしいよね。だから、『私の初恋を終わらせに来た』って、『堕ちる地獄はもう決めた』って、今日はその宣言をしたかったのに、椎名さん達とかいう理想の未来を見せつけられたから、諦めきれなくなっちゃった」


……ひどく、胸が痛かった。

数年前に執行が失恋の話をした時だって、そこまで胸は傷まなかったのに。


「もどかしいな、この恋は。明らかに負け戦なの分かりきってても、燃え上がって、消えてくれる気配なんて微塵もなくて。 ……恋なんて所詮心のバグだと思ってた当時の私が羨ましい」

「……」

「あのさ、城月」


執行は、俺に顔を向けて、「今のあんたはそこまで鈍いわけでもなさそうだし、ちゃんと答えてほしいんだけど」と前置きをして尋ねた。


「人のことを勝手に好きでい続けて、いいかな?」


俺は、息を詰まらせた。


きっと、昔の俺なら綺麗事で返せただろう。

だが、今の俺はそんな上っ面だけの回答をできる気がしなかった。


毎日のように悶々とした時間を過ごして、何度も何度も頭の中でシミュレートして、それでもその思いを打ち明けることは出来なくて、いざ打ち明けようとしても、簡潔にそれを伝えられる言葉はなかなか口から出てこない。きっと、そこにたどり着くまでも相当な勇気を要するであろうことすら、ありありと思い浮かべられる。


だから、その言葉に重みを、何よりも想いを込めながら答えることができる。故に、本音で答えた。


「それでも、しっかり決着つけて、しっかり傷つくべきだと思うぞ」


執行は目を瞠ったが、やがてくつくつと笑った。


「はは。城月はそういう奴だよね」


すっくと執行が立ち上がり、俺を見下ろすと涙を袖で拭った。


「ありがと。あんたのこと、応援してる」


それだけ言って、執行はその場を去った。

表情は晴れ晴れとしていたので、特に後を追うことなく見送った。


「……もう、大丈夫なの?」

「ああ。大したことは言っていないが、自分なりにもう向き合えていたみたいだ。ほっとけば近い内に完全復活するだろ」


ずっと遠目で様子を観察していた唯笑からの質問にそう答えると、「そっか」と安堵していた。


……椎名、おかげで俺もなんとなく答えを見いだせた気がする。

だが、まだピンと来ないんだ。難しいな、こういう関連の感情って。もう少し色んな光景を見れば、分かるのかな。


そう心の中で尋ねても、先程の『決意』を込めた『言霊』の影響で『伝達』のつながりすら消えてしまった椎名には繋がらない。でも答えを教わるようなものでもなく、自分なりに結論を出すべきことなのかもしれないな。


何はともあれ、契約違反でのお咎めは全くないらしい、ということを唯笑に伝えて、2人で夕焼けに照らされながら帰投した。

もう少しで七章も終わりです。

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