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同じ空の下で  作者: 桜油
7章
95/140

89話

こんにちは。


明日から違う職場になるので、

今の職場の仕事を極力終わらせないといけないけど、

多分終わらないですね。

申し訳なさすぎてため息出そう。


では、どうぞ。

司たちに激励の言葉を贈ってから宥を舞月財閥に残して去り、有希たちとも『教会』の仕事の都合で解散して、唯笑と2人きりになった。


次の予定は『陰成室』との会談だ。

正直あまり議題はないのだが、黒守が次期提督で内定している件について執行から物申したいことがあるようだった。唯笑と執行が交わした約束でも『黒守は二度と裏に戻らない』という話だったし、たしかにこれはクレーム案件だろう。しっかり謝罪と説明をしておこう。


そういうわけで執行が指定した場所に赴いたのだが、なぜか先に椎名たち『放蕩の茶会』が待ち構えていた。


「綴ちゃん、こんなとこでどうしたの?」

「どうしたも何も、決まっているじゃない。『室長』に会いに来たわ」

「はあ?」


椎名の言葉に、俺と唯笑は口を揃えて、「いやいやいや、それはヤバい」と反論したが、「どうせ世界はバグっているのよ。今更でしょう」と聞く耳を持たない。

そもそも、椎名たちが提督、黒守、桜乃夫妻、執行、志瑞たちとの接触を控えたり、顔を隠していたりした理由。それは、『同じ存在が2人いる』と世界が認識した場合に何が起こるか全くわからないからだ。

世界がバグり散らかしているのは確かにそうかもしれないが、だからといって椎名たちが顔を隠しもせずに対面していいのか、と言われると微妙、というのが現段階での考察である。考察にもなっていないことだが、唯笑にとっても全く前例のない話だからそうなる。


しかし、俺たちのそういった疑問に、秩佐が答えた。


「多分、問題はないよ。提督は綴の正体は薄々勘づいていたし、それに怜も10年以上2人存在しているんだろう?」

「提督はともかく、『城月怜』が2人いる件については、原理が異なっていると思うが」

「それに、古白さんと話す機会もあって。少なくとも今対面する分には問題ない、と教えてくれた」

「絶対今後に響くやつだろソレ……」


頭を抱える俺に、秩佐は「世界を救ったらバグを修正することにもつながるから。どうせ僕たちは消える。なら、今の内にやれることはやろうってだけなんだけど」とまで付け足し、なおさら頭痛がした俺に、秩佐が耳打ちした。


「大丈夫、ただで消えてやるつもりはない。……要するに、僕は、僕達は、『志瑞司』たちとは違う存在なんだって世界に思い込ませたらいいんだろう?それなら宛がある」

「なら安心だな。心置きなく頑張れる」

「怜が取る手段によってはそのまま消えるけど」

「怖えよ。じゃあどうすれば良いんだよ」

「それも含めて古白さんに相談すればいいと思うよ」

「そうとは言われてもだな。燿とはあれ以降連絡がついていないんだが」

「そこは心配無用だよ。明日確実に古白さんから連絡が来るから」

「そうか。了解した」


そう話している内に執行が到着し、椎名たちの姿を凝視していた。


「え、采和が何でここに……ってか、志瑞に、識名?ってかあたしの偽物までいる!ちょっと唯笑、どういうことか説明してくれない!?」

「『放蕩の茶会』だよ」

「はあ?『放蕩の茶会』って、ネットで正体不明で音楽活動してる酔狂な、サークル型の魔術組織のあの?」

「その『放蕩の茶会』だけど」

「いやいや……んな訳無いじゃん。こんなそっくりさん達がそんな活動してたら、大騒ぎになってるでしょ。舞月財閥だって少しくらい介入してくると思うけど」

「そういった理由もあって正体を伏せてたね。そっくりさんなのも無理はないよ、だって別世界の君たちだし」

「そんなことありえなくない?」

「あり得るから別世界の君が今、目の前にいるんだよ」


唯笑の冷静な返答に執行は、ぐぬぬ、と黙り込んだ。

しばらくして、執行はキッと強く椎名を睨みつけて、凄んだ声で尋ねた。


「……アンタらさ。『放蕩の茶会』なんて名乗ってるけど、要するに別の世界のあたし達だって認識で本当にいいわけ?」

「ええ。その認識で結構よ。何も間違っていないわ」

「じゃあ、……あたしが、あいつが、どんな思いで裏の世界を生きてきたか。世界でどんなことが起こるのか。大体は理解していたってこと?」

「……そうよ」


椎名の返答に、あっそ、なんて返す執行は、顔を大きく歪ませた。


「永世中立だなんて宣って。最善を尽くせば避けられたかもしれない争いも、不幸も、全て干渉すらせず。自分たちのやりたいことだけやって、第二の人生を謳歌していた。言い訳は無用、そういうことだとあたしは自分勝手に解釈する。あんた達が何をどう説明しても、もう聞きたくない」

「……」

「だって、そんなの事なかれ主義、日和見主義なだけじゃん。自分勝手なだけじゃん。自分勝手に逃げたあたしが言うのも何だけど、あんた達がもっと頑張ってたら『教会』の動きなんか止めれたでしょ?刹那さんだって死ななかったでしょ?采和は心を壊さなかったかもだし、桜乃さんももう少しお子さんと家族らしいことできたかもね」

「……そうね」

「そうね、じゃないっしょ。人の人生ぶっ壊しておいて何すました顔してんの?納得するしないは置いといて、まずは謝れよ」

「ごめんなさい」

「あっそ。刹那さんも、桜乃さんも、采和だって、謝ったら赦すだろうね。だって、お人好しだもん。けど、あたし、そこまで優しくなんかなれないんだよね。一生許さないから」


執行は、怒っていた。ただ怒っているのではなく、もっと色々煮詰まってぐちゃぐちゃになったような、どこか湿ったような感情がそこには感じられた。本人は無自覚かもしれないが、たしかに涙を流していた。


椎名も、秩佐も、常葉も、寿乃も、黙って彼女のそれを聞き入れていた。


「別世界のあたし?知ったことかよ。むしろあたしだからこそ頑張れよ。あたしは、あの日、采和を置いてったことを死ぬほど後悔してたはずだろ」

「……たしかにそう聞いたわ。だから、私はそれも止めたかった」

「止めたかった……そう思ってるなら、」

「実際、止めることは出来たわ。色々未来を変えることはできた。……それでも、そこで終わりにはできなかったのよ」


ここに来て初めて椎名が返事した。執行は憤怒の目つきから、信じられないようなそれに変わった。


「……あんたは采和を置いていかなかった?」


それに黙って寿乃が頷いた。秩佐と常葉がそれぞれ、「『教会』だって止めたぞ」「ただ、それが別世界の話になってしまったんだがな」と続ける。執行は、はは、と乾いた笑い声をあげた。


「なんだ。あたしが不正解だっただけか」


そのまま、「そりゃそっか。別世界のあたしなんて本来存在するわけ無いんだから、そいつに縋るだけあたしが馬鹿だった」と話していた。自分を嘲るように歪んだ笑みを浮かべているが、どこか痛ましい。


「そもそも何で今会いに来たわけ?そこまできたらずっと正体隠しとけよ。あんたらの存在なんか認知したくもなかった。今日あんたらがやったのは、あたしにあたし自身を嫌わせただけ。あたしを自殺させて、『本物の執行寿羽』はあたしだー、とかなんとか言って成り変わろうって魂胆?なら相当策士だわ。現にあたし、自己嫌悪でダイナミック自殺できそうな気がしてる」

「……」

「いいよ。お望み通り消えてやる。あたしはさよならしよう」


そう言い残して執行はその場を走り去った。

「待って!」なんて叫びながら唯笑がその後を追った。


「おい、椎名。結局何がしたかったんだ?こうなることなんて分かっていたんじゃないのか?」


結局、執行の心を壊しただけだった。つい先日の俺自身が悩んでいたことに近い内容で執行は今苦しんでいる。あんまりにもあんまりな答えあわせに、憤りを隠せなかった俺が詰め寄れば、秩佐が庇うように前に出た。


「僕達が消えないためには、どうしてもこの世界の僕達に認知させる必要がある。だから、会いに来たんだよ」

「……」


それを言われてしまえば、何も言い返せなかった。

なんだかんだ、こいつらは『前回』からの友人なのだ。それも、初めて出来た友人、といっても過言ではない。

執行のために消えてくれ、なんて願える筈がなかった。

椎名が補足する。


「既に、志瑞司、黒守采和、識名宇海には顔を出してきたわ」

「はあ?いつの間に?」

「つい先日ね。古白さんに言われて、渋々正体を明かす為に足を運んだのだけれど。私から具体的なことを話す前に志瑞司と黒守采和が看破してきたし、舞月愛も、野生の勘、というのかしら。なかなかいいところを突いていたわね。その後に説明をしたけれど……そこまで精神衛生に影響が出ているようには思えなかったのよ。執行寿羽があんなに深刻に思い悩むとは、想定外だったわ」

「3人はそりゃ、今は今で充分幸せだからだろ。そうなんだー、で全然終われる。後悔だらけの執行とは訳が違う」

「そうかしら」

「そうだろ」


俺の言葉に椎名は少し考えた後、「ねえ」と呼びかけた。


「執行さんのフォロー、お願いできるかしら」

「はあ?言われなくても行くつもりだが、お前らはどうすんだよ」

「別にやるべきことがあるの」

「責任取る気はないのか」

「取れる責任が果たしてあるの?そうは思えないわ」

「無責任が過ぎないか?」

「私達は幽霊のようなもの。本来存在するはずのない者よ。この世界のことは貴方達が解決すべきだと思うの」

「……狡いんだな」


本当、狡い。椎名たちの行動の意図をようやく理解できたから、尚更そう思った。

軽蔑した。そう言いながら、友人を睨んだ。椎名たちは、「ええ、そうね」なんて微笑んでいた。


「どこまでも自分中心に生きるのが私達『放蕩の茶会』よ。私たちは私達しか救けない。……こんなに狡い友人、きっと絶交でしょうね」

「ああ、友人ではないな」


ある『決意』、『覚悟』、『感情』を強く込めて、言霊に乗るように、そう口にした。

椎名は、秩佐は、常葉は、寿乃は、今まで少し残念そうにしていたのに、俺の表情と言葉で目を瞠った。

椎名は感極まったように、秩佐は顔をくしゃくしゃにして、常葉は顔を伏せて、寿乃はどこか晴れたような笑顔で、異口同音に言葉を発した。


「……ありがとう」


椎名たちは背を向けた。次の目的地に向かうのだろう。この世界では修正されるべきバグでしかない自分たちを救ける為に。

だから、俺も執行が走り去った方向へと踵を返した。


「そうそう、最後に餞よ」

「……」

「執行と話せば、貴方の抱えている感情に名前をつけるヒントにはなるかもしれないわね」

「……そうか?」

「ええ。名前をつけられたその時には、きっと、その感情だって貴方の力の糧となってくれるわ」


世界だって本当に救えちゃうかもよ?なんて、その言葉に、俺も笑った。


バーカ。救えちゃうかも、じゃなくて救うんだよ。


そう返して、見てはいないかもしれないが、軽く手をひらひらと振った。

『放蕩の茶会』は、『自身が存在し続けられる』ように独自で動いています。

というのも。

古白から話を聞いたので、メタ的に、この状況を『トップ解決』できる『最善策』を知っています。

失敗すれば世界ごと消えるだけなので、『トップ解決』にすがるしかないですが、その『トップ解決』に至った場合でも、高確率で自分たちが消える、ということも古白から言われています。

それを避けるべく足掻きはしますが、それでもかなり低確率でしか成功しません。

だから、『絶交』して関係を絶ち、未練を無くす。あるいはその『トップ解決』ができる城月怜にあまり背負わせまいとしているのですが、彼はその意図を理解したうえで敢えて『友人ではない』と暈しました。

彼の本音は表情から十分読み取れました。

切り捨てないでくれる『親友』の存在が、椎名たちは嬉しかったのです。

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