83話
こんにちは。
主人公が前話で元気になったので、主人公視点にやっと戻れます。
では、どうぞ。
決意を新たにした翌日。久々に俺が事務局に出勤すると、先に到着して端末の通知をさばいていた唯笑が俺の方を見て、口を開く。
「あ、おはよ。早速悪いんだけど、コレ見てくれる?」
そう言って俺をジェスチャーで呼び寄せるので、何事かと駆け寄れば、端末の画面を指差していた。
どうも俺宛に連絡が来ているらしい。差出人は、『教会』だ。
「って『教会』?なんでまた、」
「あー、ごめん。最近の近況話してなかったね。軽く説明しておくと、『教会』全権代行は有栖大登が就任したらしい。で、『御伽学院』とは既に同盟関係ね」
「お、おう。仕事が早いんだな……」
「あと、『軍』も『実現の魔女』の件が落ち着いたら、弟くんが『提督』就任することになってるよ」
「はあ?弟くん、ってあの黒守采和か?」
俺がうじうじしている間にも周りは色々動いていたらしい。俺も頑張らないとな、と『提督』を引き継ぐ覚悟まで決めていたのだが、その出鼻をくじくような事実が飛び出た。
いや、俺も『提督』に乗り気だったかと言われると違うし、別の人が引き継ぐなら、安心して任せられるような為人の実力者であれば何でもいいとすら思っていたが、よりによって黒守采和だとは正に晴天の霹靂だ。
しかし、確かに実力は申し分なく、魔術界隈の聖人と名高かった黒守刹那の弟というだけあって、人格破綻者ではない魔術師ではあるが、彼は戦いというか、血なまぐさいような仕事を心底厭っていた筈。PTSDすら発症していたレベルで、裏にはとことん向いていないとすら言える人格だったと思うのだが、大丈夫なんだろうか?
そう疑問符を浮かべている俺に、唯笑が追加で補足する。
「何度か話す機会はあったけれど、弟くんは弟くんなりに、『提督』をやる意義や目的はしっかりあるみたいだったよ。それに、あいつなら戦争が勃発するような事態には決してしないから、当分は平和になること間違いなしだね」
「そうか。自分なりに納得はできているのか……なら、確かに安泰だろうな」
「ちなみに『JoHN』は近衛部隊としつつ実態は刹那さんが面倒を見るための未成年部隊だからってことで解雇ね」
「ならば側近としてしっかり支え……解雇だって?」
またも出鼻をくじかれたような心持ちの俺に、唯笑が苦笑を浮かべた。
「彼なりに気を遣った結果なんじゃない?怜の進路って、別に『軍』絡まなくてもいいじゃん」
「それは……そうだが……」
1人で国の未来を担うなど、あまりに重荷じゃないだろうか。
そもそも、今回の決定……というか黒守の行動は、同じユニットの仲間は把握しているのか。
意義や目的はあるかもしれないが、それでもそれは黒守刹那の遺志に反しているし、意義や目的の為に自身の本当の願いを投げ捨てる必要はあるのか。何か、別の方法で目的を果たせるならそれが一番いいはずなのに、最初からそれを切り捨てなくとも良いような。
とどのつまり、黒守はどこか焦っているような気がする。唯笑から聞いただけではあっても、焦って周囲が見えていない、危うい印象を受けた。
唯笑も『実現の魔女』討伐という大きな目標を前にしているからか、何も思うところはなさそうだ。まあ俺も同じ立場ではあるのだが、思い入れはきっと唯笑のほうが大きい。俺はあくまで、『実現の魔女』を討伐した先の将来に関心があるから。
かといって、黒守本人にこの話をしても、梃子でも動かないつもりだろう。そも、いくら前任者の身内、数年前まで獅子奮迅の大活躍をしていたとはいえ、ここ数年実績を積んでいない魔術師が『提督』にあっさり就任できる訳が無い以上、ほぼ確実に拝郷が一枚噛んでいる。拝郷も独自に動いているだろうから、彼自身の企みに黒守が、利害の一致などを理由に協力している可能性まである。完全に外堀を埋められていると思ったほうがいいだろう。ああ、問題が山積みで頭が痛い。
閑話休題。
『教会』全権代行、有栖がメールで示している方針は、『終戦及び講和』『『軍』『陰成室』『放蕩の茶会』『教会』との同盟関係』の2つ。しかも『教会』を敗北として賠償金を支払う用意があるとのことで、『軍』にとっては破格の好条件。受けない手はないだろう。現に、そういう経緯で既に『駒』を管理し始めている黒守采和は乗り気らしい、と桜乃夫妻から確認もとれた。ついでに、彼自身の現在の立場の都合上、俺たちがその外交官のような役割を任ぜられていた。
有栖はどういう人なのか改めて確認しよう。そう思って有希や紗季に連絡を入れたが、なぜか不在。これはどうしようもない、とぶっつけ本番で交渉の場に臨むべく、指定の待ち合わせ場所に足を運んだのだが。
交渉の会談の場では、有栖らしき魔術師が城月育の胸倉を掴んでいて、なぜかそこにいる有希、紗季が必死に有栖を宥めている光景が真っ先に目に飛び込んできた。
「……えっと、これはどういう、」
なんとか状況を把握したい。そんな思考から口を開く俺だが、誰も気づいた様子はなく有栖が城月育を凄んでいる。
「そーちゃん。目が覚めるといつの間にか全権代行に就任させられてて、実績も君等のが全部おれのになってて勝手に崇められるし、『教会』がボロ雑巾みたいに組織体系が乱れてるし、君等はどっか消えてるんだけどどういうつもり?」
有栖の質問に、城月育はなんでもないように微笑みを浮かべて答えた。
「一つ一つ丁寧に答えるなら、君を全権代行にするのはクリス、暁、私の中では決定事項だった。目的を果たした後は『教会』とか用済みだし、寧ろこんな悪趣味な団体は自浄してくれたら、私達も面倒じゃなくていいし。実績は全部あげたよ、『国際魔術連合』の規定である程度実績ないとヤバいし……あ、自覚ないだけで『心象魔術』の影響下とは言え君自身が確実にやった業務もあるよ?で、組織体系はそりゃ、幹部2人とも消息不明、全権代行は殉職してるから大混乱してんじゃないかな。知らないけど。そして私も暁も自分の夢を叶える為に頑張ってるところだね」
「何が何でも自己中すぎるっていうか、自分の夢のために周りを振り回しすぎてるって話なんだわ」
「うーん否定できない。そも魔術師って君みたいな良心枠ほぼいないし、自分の目的を果たすために手段を問わない魔術師が圧倒的多数だし。寧ろ『教会』に十年所属してて何でそんな普通でいられるのか甚だ謎だね」
「そういうお前らは偽悪的がすぎる。おれに話してくれれば、全然協力できることあったかもしれないだろ?」
「私たちの因縁に他人は巻き込まない流儀なんだ」
「よくいうな、まったく」
はあ、とため息を付きながら城月育を離した有栖が、「で?どういった要件で来たわけ?」と尋ね、彼女は俺のほうへ視線を向けて答えた。
「私、今まで暁と同じ方向を向いてたんだけど」
「だろうな」
「個人的な願望が生えてきて、それが暁のやりたいこととは共存できない感じっぽいの」
「珍しいな。でも、なんだかんだ引き下がるんだろ?」
「普通ならね。けど、今回はどうしても譲れない」
「明日槍でも降るのか?驚天動地レベルのことが起きてるぞコレ」
「ははは、いい喩えだね。明日じゃなくても近々に世界の破片は降ってくるし、世界は終わるかもね?」
「はえ?」
「まあそれは置いといて。君なら『軍』と講和、同盟締結に動くと思ってたし、連絡に返事があってすぐに会談仕込むのも予想できたし、その時に『軍』からターゲットが来てくれたら良いなあ、ぐらいの気持ちでこっち来たんだけど、私の予想は完璧だったみたい。……待ち人、もう来てるよ?それも、君にとっての『光』がね」
「え、……」
そこでようやく城月育の視線を辿った有栖が、俺の姿を見つけて、目を瞠る。
城月育は、「再会おめでとさん、ひろくん」と微笑んだ後、俺のほうへ身体を向けてお辞儀した。
「さて。数日ぶりだね、『お兄さん』。ここにいる私の旧友共々、私の我儘に付き合って?」
大丈夫、悪い話じゃないよ。
そう彼女は笑みを深めた。
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