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同じ空の下で  作者: 桜油
7章
88/140

82話

こんにちは。


昨日の続きです。

そして、これで他視点はほぼ終わりです。


では、どうぞ。

結局日陰で少し休もう、ということになって、私と怜は公園に立ち寄った。


志瑞神社近くにある公園で、遊具らしいものは何一つない代わりにサッカーや草野球などの遊びをやりやすい空間。普段は散歩をする人や幼稚園児、その保護者などで賑わっているが、社会情勢が不安定な現在、夏休みであっても子供を外で遊ばせたり独りで気軽に散歩できるものではないのだろう、ただ平日の真っ昼間ということも相俟って閑散としていた。先程見かけた兄妹は、外せない用事でもあったのかもしれないが、親の同伴もなしとは珍しい。

街全体が寂れたような雰囲気で……刹那さんが生きていた頃は、子供が1人で出かけても全く問題なかったのになあ、なんて少しセンチメンタルな気持ちにもなる。


「……俺、俺なんかが、本当に救えるのか……?」


なお、私と同じ思考に至ったのか、更に沈んだ様子の怜に、なんて言葉をかけようか少し迷った。

怜は公園に着いてからはため息ばかりで。

少し気まずく感じて、散々悩んだ挙げ句、なんとか誤魔化そうと口を開いた。


「ほ、ほら。元気出そ?私たち、頑張んなくっちゃ、刹那さんの想いを、死を、無駄にする訳にはいかないじゃん」


怜の顔は曇ったまま。というかどうしよう、何言ったらいいかわからなすぎて地雷踏んだかも。

あーやだやだ。こんなとこにいたら私もしんどくなって、言葉にそれが出ちゃう。

私は笑みを作り、怜の手を引いて「別のとこ行こ」なんて無理やり移動する。でもネタ切れの私はどこに行くかなんて考えてなくて、半ば無意識に怜と私が初めて出会った公園に辿り着いた頃には既に夕方だった。


「いやー、1日が経つのって早いね!もう夕方だよ……この後何しよっか。泣いても笑っても最後の夏だし、ここはやっぱ花火とか?近くに花火売ってる店あったかな?いや、魔術で花火再現するのも面白そうだよね」

「……」

「ねえ、怜はどっちがいい?自作花火か店で買ってきたの。それともなんかいい案ない?」

「……」

「……ねえ、聞いてる?」


返事がない怜に振り返ると、怜は声もなく、音すら漏らさず、涙を流していた。

私はそれにひどく動揺した。怜の顔が曇ることはあっても、彼が涙を流したことは、私にとっての『初回』以降、初めて見た光景だったから。

思わず黙り込んだ私に、彼はついに、心に根ざしていた膨大な不安を晒した。


「……俺は偽物で、この世界も偽物。じゃあ、俺は結局、何だったんだ?」

「……」

「最初から俺には無理だったんだ。決意も、覚悟も、何も懐くことがない。人間失格だ。立派な人間になって自分を救えるなんて夢だって無謀だった。俺が関わった人を全て幸せにするどころか、死なせている。ただの絵空事だった。そりゃそうだろ、俺は人間もどきでしかなかった……っ」


その瞬間、まだ効力を残していた『心象操作』の魔術式が輝く。『精神防護』を展開する余地すらなく呑まれる。怜の心情が痛いほど伝わってきた。


それは喩えるならば、ひどく冷たく、昏い深海に沈むよう。


その大半を占めるのは恐怖、そして自己嫌悪。

自身の正体、世界の真相について知り、自分の今までを否定されたこと、世界がどうしようもなく詰んでいて、『前回』語っていたが『今回』あまり口にしていなかった、しかし怜自身の根本に関わるような夢を果たせないこと、大切な仲間、相棒、友人、知人も喪ってしまうことに怯え、恐怖し厭う。

にも関わらず、世界を救う手立てが見つからず、世界を救う荊棘の道を見失っている。何も抵抗できずに自身の父親のような存在だった刹那さんを殉職させてしまい、親戚のような立ち位置だった桜乃さんを疲弊させ、私に気を遣われてばかりで、自分からは世界救済につながる行動なんて何もできていない、という自己評価。そんな自身に失望し、無力感に苛まれ、彼自身の正体、素性の話も相俟って、彼自身をそもそも信頼できなくなっていて。


要するに、怜は、世界を救うどころか、自分が世界を壊す戦犯にすらなるのでは、そうならずとも世界を、大切な人を守れないのでは、と自信がまるで失くなってしまっていたらしい。

彼の周囲を取り巻く環境はひどく小さいことを私は失念していた。


そして、今回、その世界が大きく牙を向いて、彼を俯かせたのだった。


「俺は、俺は……っ」


……きっと、もう、何の言葉も届かない。

というか、最初から無茶な相談だったのかな。

ここまで沈んでいるとは思っていなかった。彼は確かに人間味あふれる性格になったけれど、依然として希薄だと思っていた。真白なキャンパスのようだと思っていた彼の心は、こんなにも昏く染められてしまった。今からどんな色を上書きしたって、昏い色のせいで無意味なんだろう。


……でも。それでも。


『俺は、立派な人になりたい。そして、俺自身を救いたい』

『君は、立派な人になることができるよ』


救けたいんだよ。叶えてよ、ねえ。


必死に考える。誰も言葉を発しないまま、日が沈んでいく。


今日が終わってしまえば、もう駄目だ。彼の心は、彼の長い夜は永遠に明けない。ここが運命の分岐点だ。今日、この場で、彼が心から笑えるようになる言葉を……彼の中の軸を確立させないと。


彼を余計に苦しめる『心象魔術』を解除できるよう、『精神防護』を展開しながら必死に考えた。彼の言葉と、綴ちゃんたちの言葉と、『前回』までの経験、知識と、『今回』の襲撃で知った真相と、刹那さんが遺した映像、言葉。その全てを踏まえて必死に考え。


私は、私の原点を思い出した。


どうして、『自分の関わった人が全て幸せであってほしい』という夢、大志、絵空事を懐いたのか。

それさえ思い出してしまえば、答えは簡単だった。刹那さんが『実現の魔女』に抗えた、その原因。私はとっくの昔から、既に持っていた。


そして、きっと、それは今の怜も。

それを『精神防護』に込める。刹那さんも発していた青白い光が、既に暗くなっていた夜の公園を明るく照らす。まるで月光のように優しいそれは、怜を優しく包みこんだ。

涙が止まり、は、と私の顔を見上げた怜に、私はまっすぐ見据え、今度こそ手を取る。


「私は信じる。怜は怜だから」

「……え、」

「絶対、駄目なんかじゃない。怜は、立派な人になって、世界を、大切な人を、怜自身を、きっと救える。怜が望めば、それは叶えられるよ」

「……っ、」


曇りではなく、純粋に驚いたような表情の怜だけど、構わず本音をぶつけた。


「確かにこの世界は今は偽物だし、怜だって暁の偽物なんだろうね。けれど、もう、怜には怜の記憶が、想いが、夢が、大切なものがあるでしょ。それは怜にとって本物で、今ここにいる怜だけのものだよ」

「本物……?」

「そう。だって、怜のその心は、暁には絶対ないから」

「……」

「今まで時を、想いを重ね続けてきたから、今の怜は『前回』までとは全然異なっている。そして私は、今の怜の全てを知ってるわけじゃない。けれどね、今の怜の在り方は好ましいと思ってるんだ。そして、君の在り方を、夢を、私は終わらせたくない。だから私は、君が他の誰でもない『城月怜』であるが故に、君を信じる。怜が自分を信じられないなら、怜を信じてる私を信じて」


その言葉を最後に、私は口を閉じて、ただ只管に怜の答えを待つ。

待ってる一瞬が、ひどく永く感じられた。

目を丸くしたまま私を、青白い光を注視して、……やがて、怜は、初めて笑った。

その笑顔は、とても綺麗だ。


「……ありがとう」

「……」

「『前回』、唯笑があの言葉を贈ってくれた。その一言で、明日に希望を抱き続けることが出来た」

「……覚えてたの?」

「言葉はな。唯笑がくれた言葉だというのは、先程思い出したが」

「そ、……っか」

「俺は夢を見ていて、俺だけの夢だとずっと諦めていた。同じ夢を懐いていたいと願っていても、結局は別の空を見ていると感じていた。だが……、諦めなくていいんだな」


そして、彼は、私が怜の手を取っていたのをもう片手で包みこんで、優しく握り返す。


「大切なものが1つだけでも胸にあれば、永い夜も、嘆きだって超えられる。だから、ありがとう。俺はもう、大丈夫だ」


完全に日が沈み、真っ白な月が優しく私達を照らした。

なんかあっさり主人公元気になるじゃん

みたいな意見出そうですね……

一応補足をば。


①主人公はとても強力な『心象操作』の影響下にあった

②真白は、その影響力を上回るレベルの『なにか』を併用して『精神防護』を使用した

→黒守刹那が『実現の魔女』との戦闘で発現していたものと同じ

③主人公は『心象操作』の影響下を抜けたうえに、真白の言葉で心を動かされた為に『決意』が復活


というイメージです。

以上を踏まえたとてあっさりしすぎてない?

という異論は認めます()

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