81話
こんにちは。
今回は真白視点です。
7章は8章の前準備のような章になりますね。
4章と同様、日常回が多いです。
4章との違いは、伏線回収、ほぼ全ての情報が開示されるという点です。
なので、この章を公開している時に登場人物一覧を編集したいところさん。
では、どうぞ。
朝、私は怜を無理やり連れ出して商店街へと足を運んでいた。
怜の様子を数日見ていて、思ったことがある。
怜は確かに『心象操作』の影響を受けているのだろう。そして、『実現』が併用されているからか、後を引いてしまっていて。そんな状態では、自力で立ち直るには途方もない時間が必要というか……彼にしばらくついていたから自殺に及んでいないだけで、私が放置してしまっていたら今頃どうなっていたかなんて全くわからない。
でも、それを差し引いても、彼はひどく落胆していた。
まるで自分に失望しているかのような、そんな印象だった。
『実現』が併用された『心象操作』の解き方に目処が立っていない以上、なんとか自力で回復する必要がある。要はその失望を、絶望を拭いきれたら良いのだけど。
私がそう考える中、怜はぼそりと、「何やったって無駄だろ」と呟いていた。その顔はひどく泣きそうで、私は昔を思い出していた。
たしか、彼は似たような落ち込み方をしていたことがある。数年前、私が油断して『心象破壊』を受けてしまった時。あの時の彼は、『前回』私と話した時の彼と同じ顔をしていた。今も、悩んでいる本質は似ている気がする。
なら、「諦めないでよ」なんて言葉じゃきっと彼は救えない。
だから、私は彼の冷え切って震えている手を優しく取って笑いかける。
「もっと元気だそ?俯いてたら、折角晴れてるのに勿体ないじゃんね」
そう言ってまずはその辺にあったファミレスへ入店。席を適当に選び、無言で沈んだままの怜を尻目に私はあれもこれも、と次々注文する。空いているからか次々と運ばれてくる料理でテーブルは埋め尽くされる。当然私も食べ切れる量ではないけれど、ここ数日はまともな食事すら通らない様子で、嘸かしお腹が空いているはずの怜のためだった。正直、このまま脱水や飢餓で弱ったり死んじゃったりするんじゃないかって心配で。
「……どんだけ食べるんだよ?」
やっと彼からツッコミとは言えども発話してもらえたので、嬉しかった私は大はしゃぎした。
「腹が減っては戦ができぬ、って言うじゃん?『実現の魔女』をぶっ倒すためだよ、美味しいもの沢山食べよ?」
「そうか……」
彼は返事して、徐ろに並べられた料理たちに口をつけていく。黙々と食事をしているけれど、食べてくれたならそれで良いと思った。よほど空腹だったのか、1人で平らげる彼に私は満面の笑みを浮かべて会計を済ませ、ゲームセンターへと足を向けた。
「次は食後の運動だね。鬱憤を晴らす為にシューティングゲームとかでもしてみよっか!」
いつもなら怜が勝つジャンルのゲームだけれど、怜の精神衛生の問題か、接戦だったけれど私が勝利した。ピースサインで煽ると、怜はぐぬぬ、と悔しそうな表情を薄らと浮かべてレースゲームに私を引きずって行き、レースゲームでは怜が辛勝を収めた。
「ちょっと休憩!海の生き物見たくない?イルカショーでも観に水族館行こ!」
駅チカの水族館に突撃して、怜を振り回すように駆けずり回った。怜は『前回』も『今回』も水族館に行ったことがない。どこか浮かない表情なのは変わらないけれど、少し興味深そうに見つめていた。
「歌もいいよね。志瑞くんたちも綴ちゃんたちも、歌ってる時はとびっきり輝いて見えるし。綴ちゃんたち、そういや新曲が出てたよね。あれ一緒に歌いたいなー」
最初は眺めているだけだったけれど、私があまりに音痴なのを見かねてか途中からマイクを持って、私の声に被せるようにヤケクソで歌っていた。
「あ、あのぬいぐるみ可愛い!UFOキャッチャーであれゲットしようよ?」
「え、」
私が指した景品を見て怜が「あれが可愛いのか……女子の感性がいまいち分からない……」とこめかみを抑えながらため息をついている中、数万ほど飛んだけれど無事確保。金額を見て怜は更にドン引きしたけど、今はどんな反応だってほしいので笑っていた。可愛いしね。
「おお、記念写真にプリクラとかどう?撮ったことなくない?撮りたいなー」
私も初めての経験。いろんなポーズで撮影したかったから、怜に抱き着いたり、キス直前まで顔を近づけたりした。
怜もさすがにこれには動揺していたけれど、満更でもなさそうだったことに少し意外に思う私がいた。
「あーつかれた疲れた!カロリー補給にアイス食べよ」
一頻り怜を振り回して、休憩がてらにコンビニでアイスを奢って怜に雑に渡す。
怜は難なくキャッチして手元のアイスを眺めていた。「早く食べないと溶けるよー」なんていいながら、怜の一歩先を歩き、アイスを口に含む。真夏真っ盛りなこの時期に動き回って火照った身体がひんやりと冷まされる。
「……唯笑」
ふと、怜が私を呼ぶ。
「なぁに?」
そうゆっくり振り返ると、怜は少し困惑した様子だった。
「俺達、こんな呑気に遊んでいていいのか?俺が言うのも何だが、『軍』は今一番大変な時期だろう。提督を喪ったし、本部も倒壊している」
「私もそう思うんだけどねえ。桜乃さんたちが仕事させてくれないんだもん。大人の意地ってやつだろうけど」
「なら、せめて俺達、いや、俺は『実現の魔女』にどうやって勝利するか考えるべきじゃないのか?俺の『決意』は『実現』に遠く及ばないのが分かった今、『実現の魔女』に勝てるビジョンも、それどころか世界を救う為の道筋すら分からないままで……」
……多分、怜の悩んでいることはもっと根が深いところにありそうだけど、それでも不安を吐露してくれたから。
私は、本心を語った。
「そうだねえ。提督の戦闘映像からヒントが得られる筈だけど、何回見ても私も解んないや」
「なら」
「だけど、信じる。君だから。君は大丈夫。君が思ってるほど君はちっぽけじゃないよ」
「……っ」
私の言葉に目を瞠る怜。私は構わず続けた。
「それに、ほら。本当に駄目な時は支えてあげるから、だから、『無駄』なんて諦めないでほしいな。無理とか無茶はあっても無駄なことなんて絶対ないから」
「……」
「一緒に考えようよ。怜、君は決して独りじゃないから。私がいる」
ね?なんて首をかしげて、微笑みかける。手を差し伸べる。
怜は少し不安が解けたのか、ふ、と久々に笑みを微かに浮かべて手を伸ばした。
手と手が触れ合う。
その瞬間、背後で子供が通りがかった。
「ねーお兄ちゃん、暑いよー」
「夏だから仕方ないだろ。ほら、水筒は?お茶でも飲んだら?」
「持ってきてないよぉ」
「はあ?なんでさ。持っていけよって言ったじゃん」
「だってえ!重たいじゃん!」
「あーくそ……じゃあコンビニで……うわ、財布忘れたし……おい、もう少し歩けるか?」
「無理……」
「はあ……どうすんだよコレ」
私たちの近くでそうやり取りしては困ったようにがりがりと頭を掻く男児。さすがに見兼ねた怜が手元のアイスを譲ろうとして、溶けかけているからか逡巡していて。私は兄妹の方へ駆け寄り、財布を取り出した。
「ほら、お兄ちゃんの方。小遣いあげる。コンビニも近いし、アイスとかジュースをさっさと2人分買って兄妹仲良く食べなよ」
「え、でも……」
「大丈夫大丈夫。私、これでも魔術師だから結構稼げてるんだ。こんなの少しだけだし、遠慮せずに貰ってよ。それに、ここで妹ちゃんが体調崩して倒れたらそっちのほうが嫌じゃん?」
「あ、……ありがとうございます!ほら、今から買ってくるからここで待ってろよ。変な人についていくなよ!」
と走り去っていった男の子に軽く手をひらひらさせつつ、こんな危ないご時世なのでしっかり妹ちゃんの相手をしておく。本当にすぐに戻ってきたお兄ちゃんがアイスを買って妹ちゃんに渡せば、妹ちゃんはとてもうれしそうに、満面の笑みで私にお礼を言うから、私も「どういたしまして。美味しく召し上がれー」なんて返す。「本当に何から何まで、」とペコペコ頭を下げるお兄ちゃんを尻目に、いいことをしたなあ、なんて少しの自己肯定感に満たされながら怜に向き直ると、怜の顔は元の曇天に戻っていた。
Why???このわずかな間で怜の心境がどうして曇るというのか。私は頭を抱えそうになった。
文字数を1話あたり3000文字前後で統一するために中途半端なところで終わらせてます。
なので、明日はこれの後半部分になります。




