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同じ空の下で  作者: 桜油
6章
86/140

80話

こんにちは。


城月育視点で6章は終わりです。

モノローグⅠの続きでもあります。


では、どうぞ。

彼との再会は、6年前。


兄だけは平穏に過ごせていると、そう信じていた私の希望は打ち砕かれ、底なしの絶望に襲われた。

そして気がつけば医務室のベッドで白い天井を見上げていて、衛生兵からは私の異常性『否定』が暴走して、高式暁がそれを『決意』の力で収めた、と説明された。

兄と別人なのか、と安堵したのもつかの間、クリスと本人から『コピーが生成されていて、コピーは『軍』に所属した』と言われた私は絶望に打ちひしがれるしかなかった。兄が私の直属の『上司』になると言われてもどうでもよかった。兄はそんな私を眺めていたと思えば、数日後に私が入っていた檻を訪れた。


「願い事、全て叶えよう」


そう話す彼は、どこか雰囲気が異なっていた。

まるで、自分のようでありながら自分ではない何者かの記憶を思い出したかのように。


「さあ、檻の向こうに唱えてごらん?僕が、育の願いをすべて叶えるから」


私は、少し迷った。

なぜだか、ここで頼ってしまえば、兄は兄ではなくなってしまうのではないか、という予感がしたから。


けれど、私が願ったことなんて沢山あった。

友達がほしい、いろんなことを試してみたい、学校に行きたい、授業を受けてみたい、お出かけしてみたい、自由になりたい、戦いたくない、『否定』なんていらない。

それが、全て、叶うかもしれない。

私はその誘惑に打ち勝てなかった。


「……いいの?」


あまり人と話さなかったから、か細い声になってしまった。

けれど、兄には私の言葉は聞こえていて。優しく、笑いかけた。


「そうさ。だって、僕は君だけの魔法使いだから」

「じゃあ、」


ずっと我慢してきた願い。全てを統括すれば、願いなんてたったの1つ。


「普通の女の子に、なりたい」


私の言葉に兄は目を瞠った。

無理な願いだったのか、と諦めそうになった。

だから、「ごめん、聞かなかったことにしていいよ」って謝って、言葉を撤回しようと思った。

けれど、彼は、前言撤回なんてさせてくれやしなかった。


「謝らないでよ……」

「……え?」


兄は泣きながら怒っていた。


「僕も、『幸せ』を諦めないから、だからっ、謝るな!」

「……」

「いいよ、やろう。世界を敵にして、悪になってでもやってやるよ。幸い伝手はあるんだ、君のその願い、必ず叶えてみせる。だから、これからもよろしくね」


兄は、そう言って檻ごしに手を差し伸べた。

私は恐る恐る手をとった。暖かくて、不意に涙が零れ落ちた。

クリスが視界の端で私へウインクして、静かに退室しているのが見えた。


私は戸惑った。


つまり、このまま握っていていいってこと?


ここに来て漸く、兄が私の直属の上司であるという事実、その事実が私へ及ぼす影響を理解した。


「ひとまず、檻から出ようか?」


兄は私へ優しく問いかけ、空いていたもう片手で檻の鍵を開けた。更に『回復』を展開して生傷の絶えなかった私の肉体を全て癒やした。


「おいで?」


そう言って優しく微笑む彼に、私は最初の我儘を言った。


「名前を呼んで?」

「勿論。……育、行こう。部屋に案内するよ」


その翌日から、魔法使いの兄は全て叶えてくれた。

『教会』では痛いこと、苦しいことをされなくなった。

戦闘目的ではなく、研究員か後方支援としての教育プログラムを組まれた。

兄ー暁の監視つきという条件はつくけれど、外を出歩けるようになった。

中学は無理だったけれど、戸籍を偽装して高校に通うこともできたし、そこで友達もできた。初めてちゃんと受けた授業は『教会』の教育プログラムとは異なっていて新鮮だった。

自由時間もそこそこ多くくれている。その自由時間に暁が私の部屋を訪ねてきては私の話を聞いてくれる。

私の周囲には笑いが増えた。


昔、夢に見たことがある。

実の両親こそ亡くなってしまったけれど、孤児院で施設のスタッフ達に大事にされ、優しい人達に里子として迎え入れられ、友達が沢山できて、夕暮れの中、友達とアイスを食べながら帰路を歩く、家に帰れば里親達と学校での出来事を語らい、テレビを一緒に見て、笑い合っている。そんな平穏な日常を繰り返す夢。懐かしいくらい鮮やかに覚えていて、檻の中で目覚める度に『こんな夢を見たって仕方ないのに』と諦め、自己嫌悪をしていた。

その夢さえも、暁が作戦にほぼ成功した今、現実に成ろうとしている。


……けれど、共に過ごす間に、何かが足りないという感覚が強くなっていった。


暁と、一緒にいたい。


暁は、自分のことが嫌いで、自信がないけれど、それを覚られないように振る舞っている。

だって、彼は、自分のことを語らない。

聞いてもぐしゃっと複雑そうな顔を浮かべては、「僕のことなんてどうでもいいよ」と返して、そのまま話を有耶無耶にしてしまう。終いには、誰との会議であっても一番手を避け、自分の意見を言っていると思っても、内容をよく聞けばその前に発表、発案した他人の意見を合成、まとめた意見をそれっぽく口にしている。


彼が自覚しているか無自覚かはわからないけれど、周囲では私とクリスしかおそらく気づいていない、彼の心の闇とも思えるナニカが強く出るのは、『コピー』……現在、暁の本名である『城月怜』として生活している人物が関わる案件の時だけだ。

事ある毎にその人を殺すと宣言している彼は、しかし、実際に『城月怜』を前にして、動けぬ人員を庇っているという間違いなく優勢な場面で何故か殺害しなかった。

計画に支障が出る、と嘯いていたけれど、そんな訳無い。寧ろいない方が邪魔者がいなくて都合がいいはず。

それに、『前回』は、とか、そういう言葉を度々彼の口から聞く。『城月怜』と同じく『JoHN』という組織に入っている魔術師についての寸評を述べる時にしかその言葉は出てこない。


断片的なエピソードを統合すると、彼は、『城月怜』に対して強い劣等感を抱いている。


更に、汐宮宥、一条有希、日向紗季という魔術師に対して、負い目を感じている。そう推測した。

それこそ例えば、暁は『お人好し』で、『世界中の人々が幸せであってほしい』と願い、行動したことがあり、何らかの理由で挫折した。当時の仲間が彼らだった。『城月怜』はそれを体現しようとしているから劣等感を抱いている……とか、なんて。当たらずとも遠からずな推測だと自負している。あの場面で汐宮宥を殺そうとしていたのを止めたのも、彼の心をこれ以上壊さないようにするためだった。


もういいんだよ、って、彼が自分を嫌いだとしても私は暁が大好きだって、普通じゃなくたっていいから彼と一緒にいたいって伝えたかったけれど、私はどうしても守られてしまう立場だ。隣に立ちたいのに、どうしてもそう在れない。


……暁が自分なりに『実現の魔女』と向き合っているであろう頃、私がその『城月怜』を訪ねようと思ったのは、そんな考えからだった。


暁は、私に『城月怜』と真白唯笑という魔術師がいかに悪辣で卑劣かを熱弁していた。

多分、心の底では別の感情が渦巻いていたとは思う。きっと本心ではなかった筈。……その度に2人に憧れているひろが反論して、暁とひろとで口喧嘩が始まって、私が仲裁に入っていたのも今ではいい思い出。


けれどね、暁。

私、それを本心から話していたとしても、ひろが2人に無関心だったとしても、私は2人がそう悪い魔術師だとは思えなかったよ。


だって、2人とも、作為的なものではないにしても、幼い私の独りよがりな夢を叶えてくれた。

せめて兄には平穏な暮らしをしていてほしい、と私はずっと願っていた。『城月怜』は特殊な事情を抱えてこそいるけれど、きっと、真白唯笑さんや彼女の仲間に囲まれて、充実した生活をしていた。真白唯笑さんを庇っている様子を見てたら誰でも分かる。

兄に再会したい、と思っていた。兄がいつか救けてくれたなら、と。真白唯笑さんが暁に提案した作戦のおかげで、暁……オリジナルの『城月怜』と再会を果たせたし、幸せでいられた。

だから、どちらの夢も叶えてくれた真白唯笑さんには頭があがらないし、暁の現状を『城月怜』も『前回』、何も知らない普通の人間として享受していたというのなら、『城月怜』も幸せであればいい、なんて思うのだ。


普通じゃなくても幸せになる方法はある。それを私自身がこの6年間で味わった。2人が証明している。……ひろが2人に憧れたのだって、理由はきっと似ている。だから、誰かを悲しませてまで普通の人生を手に入れなくたっていい。それより暁に報われてほしかった。私が彼を救いたかった。けれど、私は無力だ。


……だから、真白さんを訪ねた。暁の今までの努力を水泡に帰すような、とびっきりの我儘を、……『(軍幹部)』に対して『(依頼人)』としておねだり(依頼)をする為に。


真白さんは、私の来訪に随分戸惑っていた。

それもそうだよね、だって殺し合いしてたし。

真白唯笑さんもひきつった笑顔で、まるで『……暁もこの子も、どういう心境で仮想敵組織を頼ろうとしていたんだろう……?』なんて考えていそうな表情だった。よく見ると、最近ろくに寝ていないのか、隈が深い。デスク上には何も書類が積まれていない以上、良心的な魔術師の大人が真白さんたちに仕事を振っていない雰囲気なので、『城月怜』が心配なのかな?彼、『心象魔術』も相俟ってひどく落ち込んでいたし、……『否定』してあげられればよかったけど、私にはきっと彼は救えない。『心象魔術』の効果を消せたって、彼の本当の心の痛みを消すことはできない。傍でずっと寄り添ってきた真白さんにしかできないことだと思う。


真白さんは、『城月怜』の救い方を必死に考えているみたいだ。彼女は何も語っていないけど、この戦闘映像を遺した提督もきっと『城月怜』を、真白さんを大切に思っていたんだろう。『実現の魔女』に必死に抗っていた。


『決意』を持っていなくても、強い意志があれば、『実現』にすら抗える。そんな可能性を必死に示していた。


並大抵の覚悟じゃだめだ。

けれど、どうしてかな。真白さんと『城月怜』なら『覚悟』を超えるナニカを発揮できる気がする。

私もなんとなく答えを察しているけど、暁については、私のこの感情じゃどうしようもないと理解していた。


2人がその答えを見つけるためには、やっぱり正面から話さないとかな?


私はヒントだけ伝えてその場を後にした。私の予想が正しければ、2人は明日、自分なりに答えを見つける。『教会』ではきっとひろが色々準備してると思うし、早ければ明後日にでも皆と話せるかも。

辛く、苦しい魔術師界隈。でも、皆が集まれば、争わずに力を合わせれば、新時代だってきっと築ける日が近い。


私は半ばスキップ気味に次の目的地へと歩を進めた。

明日から7章入って、その7章公開中になんとか登場人物一覧を調整できたらいいなあ。

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