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同じ空の下で  作者: 桜油
6章
82/140

76話

こんにちは。


真白唯笑視点です。


では、どうぞ。

私が怜を連れて、万が一の集合先として事前に決めていた『放蕩の茶会』拠点に足を踏み入れると、皆が沈んだ雰囲気だった。


虚ろな表情をした綴ちゃん、介抱しつつも綴ちゃんの代わりに通信をつなげたりモニターを監視し続けている白星、気が張り詰めた様子の千早ちゃんと綺人、必死に志瑞くんの応急処置をしている紗季ちゃんと彼女を手伝う有希、ずっと悔し涙を流し続けて私達へ謝り続ける宥ちゃん、不安そうに提督が『実現の魔女』と戦う映像を眺めている黒守采和と執行寿羽と、それとは対称的にどこか悟ったように見守り、ぎゅ、と大事そうに『駒』を握りしめる桜乃夫妻、なぜかどこにも姿の見えない拝郷本音と、先程からずっと通信が繋がらない燿心白。


「……」


もはや茫然自失といった様子の怜をソファにゆっくり休ませ、まだなんとか話せそうな様子の白星に声をかけようとして、でも何から話せばいいか全く分からなかった。

白星がこちらに気づいたように視線を向け、「お疲れ様。よく、無事に戻ってきてくれた」と私達を労う。私に労られる資格などないのに。


私は失敗した。失敗なんてもうできなかったのに、『実現の魔女』はその封印を解いて、顕現してしまった。

全力を尽くした筈だった。だけれど、結果はこうも悲惨だった。


原因なんて分かりきっている。私のリサーチ不足と慢心のせいだ。

怜と暁の関係に気づいていれば、もっと別の選択肢を考慮できたかもしれない。そもそも、ある程度力をつけた時点で、ある程度犠牲を払うとしても『教会』を徹底的に壊滅させるべきだったのでは?悔いても悔やみきれない。

だから、宥ちゃんは何も悪くないから謝らないで、寧ろ私を責めてほしい。

志瑞くんにはそんな瀕死の重傷を負わせてしまった罪悪感がある。その尻拭いをさせてしまっていることすら、自身が許せない。

黒守采和は大事なお兄さんを、桜乃さん達は慕う上司を死地へ送り出すようなことをしてしまったことを詫びなければならない。

綴ちゃんたちはここまで協力してくれたのにそれを全て棒に振ってしまった。

ここにいない2人は私に呆れたから姿を消したのかもしれない。

怜には無責任に世界の命運を託しておいてもっと話し合いや情報共有をしていなかったし、……刹那さんはー。


白星は俯く私に、「……真白、」と呼びかけた。


「……私のせい、だよね。ごめんなさい……私、責任を取るから」

「誰も悪くないよ。『今回』間が悪かった、それだけさ」


私の頭に、優しく手が置かれた。不器用に、どこか力加減を測りかねているような頼りなさで、やんわりと頭が撫でる。男性らしく大きな骨ばった手は、しかしどこか暖かくて、不意に涙がこぼれ落ちた。


「それに大丈夫。提督は、ただ負け戦をする為に、君達を逃がすためだけに挑んだんじゃないって僕は、桜乃さん達は信じてる。……しっかり、戦いを見ておいて。それが今、真白にできることだと僕は思うよ?」


本当は城月怜に見ておいてほしいけど、あんな状態だし。彼が落ち着いたら見せるね。


そう白星は話し、モニターへと視線を送る。私は刹那さんなりのメッセージを受け取ろうと真剣にその映像に見入った。


……その戦いは、刹那さんの立ち回り、魔術は、圧巻の一言だった。


『実現の魔女』の攻撃を何度も受け止め、何度だって立ち上がり、何度も『実現の魔女』に致命傷を与えてみせた。『実現』を併用した魔術ですら幾度か干渉してみせた。

彼の言わんとすること、伝えたかったこと。それは、『まだ勝ち筋がある』ということなのだろう。どういった原理かまでは分からなかったけれど……なんとかして原理を判明させないと。

『実現の魔女』の戦闘パターンなどを頭に叩き込んでいる内に戦いも佳境。原爆を想わせる大規模な爆発が数度起きて、そこで通信が一度途絶えてしまった。


一度目の大爆発以降のバイタルが不安定だったのもあり、白星が慌てて通信を復旧していると、数分後に彼から通信が入った。応答すると、刹那さんのかすれた声が拠点の中に響いた。


『……すまない。通信が途切れ、こちらからの映像を送ることも、そちらの音声を聞くことも叶わない状態だ。修理をしてなんとかこちらの音声は送れるようになった』

『なにはともあれ、あまり時間がない。状況の報告と要件を伝えよう』

『戦闘の結果だが、引き分け……いや、こちらの敗北だな。全てを賭して戦ったが、致命傷を与えることは叶わなかった』

『だが、それで構わない。彼奴はどこかに消えたし、暫く『容赦』を狙える状態でもないようには追い込んだ。戦った意味はあった。俺の目的は達成される。そう心から信じている』

『今、俺は燃え盛る『軍』本部の中にいる。……ああ、救助の必要はない。どうせ放射線のせいで俺の命は永くない。今日、俺は死ぬ。確定事項だ』

『そして、もう間もなくここは爆発して、木っ端微塵になる。そうなるよう仕組んだ。安心してくれ、『軍』本部が崩壊する以外は特に影響はない』

『『実現の魔女』に、俺を経験値とされるわけにはいかないからな。もしそうされてしまえば、ほぼ間違いなく、この戦いで見出した勝ち筋はなくなるだろう。だから、俺の遺体は細胞1つたりとも残さない為にも爆破する』

『それに、……自分の死に様くらい、自分で決めてやる』


その言葉に、桜乃夫妻と、黒守采和が、息を呑んだ。

なおも彼の最期の言葉は紡がれた。


『采和。すまなかった。お前だけでも幸せになってくれ。桜乃。今までありがとう。あとは任せた。真白。自分を責めなくていい。お前の知識のおかげで俺は充分に報われた。怜。きっと、今のお前にはこの言葉は届かないかもしれないが……お前はお前だ。お前の思うまま、お前らしく生きていい。なりたい自分になればいい。自分を閉じ込めるな』

『……他、『軍』の運営に、どんな些細なことでも、貢献した全ての構成員及び元構成員。こんな俺に従ってくれて、とても感謝している。とても元提督のようには上手くできなかった。『軍』本部も倒壊している。……だが、頼む。『軍』がこれから立て直せるかも分からない。ただ、栄えるも亡びるも、次の全権代行の自由だ。だから、この想いだけは引き継いでほしい』

『世界は、この平和は、過去の人々が傷つけあって、認め合って、失敗を重ねて作った』

『それは今でも道半ばにある』

『これからさらに多くの人が傷つくだろう。失敗を重ねるだろう』

『それでも決して、我々は諦めない。我々がその光景を見られないとしても、我々が世界に及ぼせる影響が微小なものだったとしても、先人たち、隣人たち、友人たちの努力に必ず報いる』

『『軍』とは、そういう決意、容赦、呵責の組織であることを、努々忘れるな』

『……以上の言葉を、必ず、次の全権代行に引き継いでくれ』


桜乃夫妻の夫が、「バカだなあ」とぼそり呟いた。


「この親不孝野郎が。いっちょ前に早死してんじゃねえよ……そんなとこまで彩さんに、お前さんの両親に、似なくていいだろうがよ……」

「……貴方、」

「分かってんだ、聞こえてねえってことぐれえ。でもなぁせっくん……あの世で再会したら絶対ぶん殴るからな……」

「そうね。……本当、馬鹿なんだから……」


桜乃夫妻がそう話す中、刹那さんの声は少し湿る。


『……時間か。さて。最期の命令を下そう。未来のためだ、必ず従ってもらう。……爆発後、鎮火したら早急に俺の遺体を回収し、一切合切、チリ1つ残さず処分しろ。『軍』の構成員の皆のことは深く信頼している。きっと成し遂げてくれるだろうな』

『では。いざ、……さらば』


瞬間、轟音が鳴り響き、通信は途絶えた。

それと同時に、アラームが鳴り響く。黒守刹那という1人の偉大な魔術師が、殉職したことを意味していた。

今回で『軍』本部襲撃編は終わりです。

明日からは後日談がメインになります。


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