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同じ空の下で  作者: 桜油
6章
78/140

72話

こんにちは。


黒守視点ですね。

前回の話で完全に主人公の心が折れたので、またしばらく他視点が続きます。


では、どうぞ。

怜の両親……前提督の2人には、返しきれないほどの大恩を懐いている。


城月夫妻はまるで晴れ晴れとした空のようにさっぱりと清々しく爽やかで、大海のように懐が深く、大地のように頼もしい、そんなリーダーの理想の姿そのものだった。部下と同じ目線で物事を考え、1つ1つの出来事に真剣に向き合い、一般人とふれあう。他の魔術組織にも慈悲深く、戦争ではなく会議で互いにとってメリットが大きい関係を結ぼうと東奔西走する。

城月夫妻に報いたら、国も、自分たちの生活もより良くなる。そんな部下の厚い信頼とそれに応える最善の努力を積み重ねた城月夫妻が築く『軍』は強大で、この国を護る組織として全員が同じ方向を向いて、より良い国際社会を目指していたように思う。


城月夫妻は、ポッと出の何の特徴もないただの少年兵だった俺に何を見出したか、それとも別の意思がそこにあったか、俺を頻繁に自身の現場に連れて行った。未だに真意は分からない。だが、そのおかげで、並の魔術師では到底経験できない貴重な体験を数多くすることができた。


城月夫妻が殉職……否、暗殺された際、次の提督には桜乃が相応しいとする声は多く、桜乃夫妻の推薦で俺が就任したことを機に『軍』を離れていった人は多かった。経験を元に努力をしても、離れていった魔術師が戻ってくることはなかった。


離れたことに不満はない。今の俺は彼らの年齢を追い越してしまって数年になるが、正直、あの2人には遠く及ばないと心底理解していた。

それでも、前提督の時から続けて支え続けてくれている桜乃夫妻には深く感謝しているほどだ。


そんなきらきらしい全権代行、強い人だった夫妻だが、俺は弱音を聞いたことがある。

すべての構成員が帰宅して閑散とする夜中、俺が『軍』本部に忘れ物をした為に廊下を歩いていれば、『軍』本部の執務室、誰にも涙を見せない2人が『教会』との交渉でひどく頭を悩ませていたのだ。

俺の視線にも気づかず、2人は嘆いていた。


『誰もが幸せになる方法が、手を取り合う道が、どうしても見つからない』

『奇跡などあっても、人は一人ですべてのことができるわけではない』

『だから、人は背中を預ける誰かが要るのに』


……当時の俺は知らなかったことだが、提督に就任した人間は、最初に『軍』創設者の記録に目を通すことが義務付けられている。『軍』本来の在り方を心に留め置く為だ。

俺も提督になってからその記録に目を通したが、そこにはこのようなことが書かれていた。


『世界は、この平和は、過去の人々が傷つけあって、認め合って、失敗を重ねて作った』

『それは今でも道半ばにある』

『これからさらに多くの人が傷つくだろう。失敗を重ねるだろう』

『それでも決して、我々は諦めない。我々がその光景を見られないとしても、我々が世界に及ぼせる影響が微小なものだったとしても、先人たち、隣人たち、友人たちの努力に必ず報いる』

『『軍』とは、そういう決意、容赦、呵責の組織であることを、努々忘れるな』


今思えば、城月夫妻は俺の知る限り、この言葉にもっとも忠実に寄り添った提督だっただろう。


どういった経緯で提督になったのか、そもそも魔術師を志したきっかけが何だったのか、彼らの口からはついぞ語られなかったが、その世界の実現にこそ強い執着があったように想う。子供に平和な世界で平穏に生きてほしかっただけかもしれないが。

そして、その言葉の通りに『教会』と和解を試みて、傷つけ合う未来しか描けなくて、巨大化した『教会』と争えば間違いなく被害は甚大なものになると予想されるから、彼らは苦悩し、その末に『教会』と争う覚悟を決め、そして家族もろとも狙われた。

俺は城月夫妻の遺志を尊重すべく動いてきたが、大切なものを多く取りこぼしてきた。


……だからだろう。6年前の真白のあの言葉に、俺は縋ってしまった。期待してしまった。


真白は、不思議な少女だった。慣れた様子で執務室に入ってきては親しげに挨拶をして、俺と対面して早々に言ってのけたのだ。


『皆が幸せになれる方法、私は知ってるよ。私のことを一旦信じてみない?』


そんな一言から始まった彼女の要求、交渉は、荒唐無稽だった。


世界は何度も繰り返している。何も変化しなければ、『軍』は『駒』を奪われたことで『教会』に主導権を奪われ、『教会』の最終兵器によって一般市民が惨殺され、終いには世界が崩壊する。その最悪な未来を回避するのに必要な知識、情報を全て提供するから、自分たちの後ろ盾になってほしい。


信じる気はなかった。


だが。


その後に聞かされた真白の、『自分が関わった人間全てが幸せであってほしい』という願いは、尊いものだったから。


期待したことに、その交渉を受けたことに、一片の悔いだってない。


恩師の忘れ形見の片割れを見つけ出せて、6年間成長を見守ることができた。

様々な相手と同盟契約を結ぶことができた。

目の届かないところで苦しんでいた市民を救けることができた。

『教会』の作戦の悉くを妨害できた。

桜乃夫妻を安心させることができた。

心が壊れていた弟が、大切なパートナー、相棒、仲間と巡り会えて、心から笑えるようになった。


真白は無力を嘆いていたが、とんでもない。俺は充分救けられたし、充分幸せだ。

だから、きっと、彼女の夢も実現すればいい。心からそう思う。


……だから、ここで、希望はまだあることを証明しないといけないな。


通信は送った。俺のバイタルが切れるまで、監視カメラを駆使して戦闘を観察していろ、と。


「あっさり逃がしてくれるんだな。助かる」

「まあ。皆弱すぎるからな。このまま世界を壊すなど消化不良ここに極まれりだろう」

「……」

「少し力を振るえば塵に還る雑魚ばかり。無抵抗な虫を殺す趣味はあまり持ち合わせていないのでね。数世紀前のほうがよほど、強者同士とひりつくような殺し合いに興じることができたものだが」


そう言って困ったとばかりに肩を竦める『実現の魔女』に、俺はため息をついた。


「先ほどと言っていたことが大分違うが」

「当然だろう。大切な人の為など反吐が出る。彼奴は所詮偽物、偽善者、エゴイスト。高式暁という男の人格をなぞって、自分の元々の目的や知識を語ってやれば、心を折るなど容易いことさ」

「心を折ることに異様にこだわっているようだな」

「……所詮貴様も有象無象。多少無謀に見を投げ出す蛮勇を持つだけの塵芥。ならば、タネを明かしてやらなくもない……か」


と『実現の魔女』は腕を組んだ後、余裕綽々、大胆不敵といった様子で「何、簡単なことさ」と口を開く。


「『決意』も『実現』も、使用者の意思の強さが影響力に比例する。あの凡夫、今頃は並大抵の魔術にすら押し負ける状態だろうさ。それならば、後は『容赦』のみ。その『容赦』も一般市民だというのなら、恐るるに足りない」

「……」

「まあもっとも、『決意』では『実現』の影響力など超えられないのだがな」


とケタケタ嗤う魔女に俺はため息をついた。


果たして本当にそうだろうか?


クリスや『実現の魔女』の言動で引っかかっていることがずっとあった。


万が一がある。クリスはたしかにそう言った。


『実現』を超える手段の存在を、怜の心を折ればその手段を封じることができることをクリス達は確信していた。即ち、怜の心さえ折れなければ、『実現』に抗う術があるのかもしれない。

それに、高式は『実現の魔女』を利用する気なのだろうが、『実現の魔女』の行動に彼の意思が介在する余地はあるのだろうか。いや、なかったら彼ももう少し異なる手段で『実現の魔女』の顕現を狙うはず。なら、彼はクリスの発言なども考慮すると、既に『実現』への抵抗手段を手にしている?


そして、『実現』とは現象だ、と『実現の魔女』はそう話していた。


ならば、その劣等版の『決意』だって、現象だとは言えないだろうか。


そして、意思の強さで影響力が変化するのが真実だったなら。


数世紀前、『決意』『容赦』の2人だけで『実現』を封印できた理由は。


「へえ。少しは楽しめそう、といったところか?」


高式の記憶から俺に関するものを参照したのか、魔女はそう呟く。俺は構わず話しかけた。


「……数世紀前は数億人を殺戮した。殺せば殺すほど、『経験値』を入手して『レベル』をあげられる体質に望んで成ったから、膨大な経験値を入手した」

「よく知っていたな。どこで仕入れた情報だ」

「『軍』の創始者や『容赦』の子孫の記録からだな。とんでもなく酷いことをする」

「そうする必要があったからね。ああ、退屈だったとも。昔も今も、弱すぎる。貴様なら、すぐには壊れなさそうだが」

「そして今度は見境なく全てを破壊しようとしている」

「ご明察。もうこの世界に用事はない……せめて破壊する価値があるものばかりならば良いのだが……貴様は、どうだ?」


瞬間、魔女の姿が消える。咄嗟に『魔装』で槍を生成して突き立てると、その柄に魔女の拳が突き刺さった。


「先ほどの話は全て法螺話。なれば、改めて聞こう。お前は何のために戦っているんだ?その拳に何を籠めるんだ?」

「意味?そんなものはない。ただ自分の心に従う、それだけ」

「ならば、」


もった槍に力が入る。徐々に魔女の身体を押し出していく。


「ならば、負けられない。俺たちの命を、偉人たちが積み重ねて歴史を築いたこの世界を、意味なく奪わせはしない」

「そうか。ならば、すべきことは1つだけだろう?」


魔女がもう片方の拳で槍の柄を殴り、俺はそれを後退して避け、着地した。


「話が早くて結構。高式暁……城月怜の肉体だろうと容赦はしない。本気を見せろ」


その言葉に魔女の口角が歪に上がっていた。

仕事前が一番憂鬱ですね。

でも、それで仕事さぼっても何もすっきりしないのは経験則でわかってるので出勤するんですけど。


有給は申請した分で使い切りの予定だから、休んだら給料が減るだけなのが嫌で渋々行く、ともいう。

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