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同じ空の下で  作者: 桜油
6章
77/140

71話

こんにちは。


伏線回収はまだまだ続きます。

では、どうぞ。

リンクが起動した後、力なく倒れていた高式の身体が、不自然に立ち上がった。


提督、唯笑が『魔力撃』をそれぞれ放つが、城月育の『否定』で全て無効化され、何事もなかったかのように高式の身体は佇んでいる。怜はただ呆然としていた。

ふと、高式らしき何者かはクリスの方を見て、クリスがそれに恍惚とした表情を浮かべなからも会釈をし、小さく頷く。高式のようなナニカはそれを見て歪に笑みを浮かべ、小声で呟いて、クリスの腹部を、高式が元々装備していたナイフで突き刺す。無抵抗に刺され、クリスは倒れる。『回復』すら試みないクリスは、恍惚とした表情をそのままにそれを見上げ、そのまま頭をぐしゃりと踏み潰された。

そして、指を鳴らし、城月育が貼っていた結界を無効化して、こちらの方へ歩み寄る。身構える怜たち3人に対し、笑みを浮かべては一言、「分を弁えろ、塵芥共」と発すると、身体が勝手に跪く体勢に変わろうとし、怜が慌てて『決意』も併用した『精神防護』魔術で抵抗した。


高式のような何者かは、それを見て、「へえ?」と首を傾げた後、徐ろに口を開いた。


「『決意』が2人もいるのか。もっとも、残ったほうは自我が薄く抵抗だけで精一杯のようだし、手折ることも容易いが。それに、世界もつくづく面白いことになっている」

「……『実現の魔女』」


唯笑がぽつりとそう漏らせば、また機嫌が良さそうに高式?は哂った。


「そう。自分は『実現の魔女』……そう呼ばれた者。数世紀前、君たちの祖先に封印されたが……ふふふ、一時的とはいえ、クリスとかいう奴も封印を弱めているようだな。この身体の元の所有者も自分の性格を理解している。しかと調べてきたらしいし、目的も自分とは気が合いそうだ。それに免じて、両者とも願いを叶えてやらなくもない」

「……」

「さて。まずは……そうだな。クリスが最期に話していた通り、語り部をしてみるのもまた一興か。ついでに『決意』を手折ろう」


『実現の魔女』は薄ら笑いを浮かべて、『心象操作』の魔術式を展開した。怜は再度『精神防護』の魔術式を展開して対抗を試みたが、起動された『心象操作』は『精神防護』を貫通した。

目を瞠った怜が『決意』で無効化を図るが、全く無効化される様子もない。


「無駄だ。『実現』の影響力を『決意』が上回ることなど決して無い」

「……どうするつもりだ」

「どうもしない。ただ、クリスの望んだ通り、自分が知っていることを語る。それを黙って聞いていればいい……それで何を思うかは、君次第だが」


といって、クリスと同様に『実現』は語る。


「ふむ、とは言ってもどこから話すべきか。……そうだな、そこの女……真白唯笑、といったか。君の夢が決して実現しないことからかな?」

「世界救済など決して不可能なのだよ。生まれながらにして世界はすでに詰んでいる」

「諸君。正史では世界はこのまま滅ぶということは、この場の全員が認知していることだろう。だが、どのように再生されているかはご存知かな?」

「……その通り。高式暁……否、『城月怜』が、記憶を代償に『決意』で再生している。そう、言わば君たちは、あくまで幻の存在ということだ」

「だが、考えてみてほしい。世界というのは広い。全人類に会ったことは?全人類の経歴、人格など把握できているのか?会ったこともない、密接な関わりのない赤の他人を厳密に再現できるものなのか?普通の人間どころか、自我も周りへの関心すらほぼない、失格人間が?」

「無理だろう。だからこそ、歪な……彼にとって馴染み深い桜坂市以外はぼやけたような再生しかされていない。そして次第に世界そのものの面積すら減っている。高式暁が認識していないもの、覚えていないものが消えていく」

「最初こそ、ほぼ忠実に再現されていたかもしれない。だが、ぼやけている箇所はどうしても増えていくものだ。それは即ち、世界の収縮を意味している」

「今やこの世界には、桜坂市の断片しか遺されていない。世界の再生を『城月怜』が望んでも、ほぼ確実にここしか遺されないだろう。『決意』とは所詮その程度の力だ。……そして、『決意』が世界を救えるほどの力を蓄える猶予もなく、世界は崩壊する。世界の収縮によって」

「自分は、クリスは、高式暁は、城月育は、それこそが目的だった。世界を壊し、自分の力で世界を再編成する。その世界で、各々が想う大切な誰かが平穏に笑っていれば、それで良かった」

「成し遂げたいものがあった。救いたいものがあった。明るい未来を、ただあの人には生きてほしいから」

「ーだから、その罪は、自分がやらねば」

「『|Justice of Hated Notably《明白に嫌われた正義》』とは、よく言ったものだな」


『実現の魔女』の独白を聞いている間、怜はなぜか、胸中の不安、失望、絶望のような負の感情が膨大、莫大なものに変化していき、冷や汗や過呼吸を抑えられなくなっていった。

『心象魔術』の影響下だということはわかっていたが、『決意』も効かない以上、抵抗する術もなかった。

それに、内容そのものも衝撃的だった。


偽物の世界で、自身も偽物。なら、一体、今まで過ごした時間のどこを自分本物だとすればいいのか。

自分が世界を滅ぼしてしまうのでは、という荒唐無稽な話まで脳裏によぎり、なぜかそれすら否定できなかった。


唯笑も提督も絶句していて、怜の様子の変化には気づかない。ただ『実現』が、語る内容にそぐわず笑みを深めて続けた。


「散々言っていたようだね。『正義の味方』『誰も傷つかない世界』『皆が幸せになる方法』。とんだお笑い草だ。人間とは、犠牲がなくては生を謳歌できない獣のことだ」


『実現の魔女』はそう言って強く怜を睨みつける。更に黒い感情が吹き出しそうになり、心を、脳をぐちゃぐちゃにかき乱されているような不快感が襲う。吐き気までこみあげ、目眩もあってまともに動けそうにない怜に、唯笑と提督がここで気づいた。


「『心象操作』……!」

「『実現』も併用しているから『決意』でも影響を受けるのか……なら、」


と提督が再度銃を発砲したが、『実現の魔女』はそのまま銃弾を受け、しかし何も起こらない。


「愚かだな。『実現』は魔力など要さない。言わば現象なのだから、その銃は効かない。ただの災害だと思って諦めるのが賢明だろう」


そう鼻で嗤う『実現の魔女』は、腕を広げた。


「さあ、世界を終わらせよう。……とは言っても、ただ壊すんじゃ詰まらないな。1週間猶予を与えてみよう」

「1週間?」

「そう……正直、自分がなにもせずとも世界は壊れる。だから自分の復活を阻止しようとか、自分の動きを封じようとか、そういうのは全て無駄だ」

「そんな根拠はどこにあるんだ」

「ふふふ、直にわかるとも。だから話を続けよう。……この1週間の間に、諸君らが何を想って死ぬのか。自分はそれが見たい。たったそれだけ」

「……」

「絶望、悲観、落胆、失意、幻滅、挫折。自分は全てを見てきた。そこの『城月怜』もどきには、そんな感情を抱くように操作をした。それをどう克服するか、克服できてもできなかったとしてもおそらく諸君は自分に無謀な戦を臨むのだろうが、どういった心持ちで自分に立ち向かい、死んでいくのか……ああ、面白そうだ」


そううっとりとした表情を浮かべた『実現の魔女』に、提督は最善策を考える。

そして、最適解にしては最悪すぎる選択肢を采った。


「……真白。怜を連れて、この場から離れろ」


唯笑はそれに、身体を震わせた。


「……刹那さんは?」


泣きそうな顔で尋ねた唯笑に、提督は静かに首を横へ振った。


「ここに残り、こいつと戦う」

「嫌」


唯笑はそう言って縋るように提督の両肩を掴むが、提督は優しく引き剥がす。


「私情なんて優先していられないだろう。怜は……まだ勝てるかもしれない。今戦えば間違いなく勝てないが、お前が上手くやれば、もしかしたら。……だから、俺が戦って、できる限りこいつについての情報を落とす」

「だったら、私が」

「お前は駄目だ。お前が死ねば、本当に世界は終わる。……頼む、お前は今まで散々遺されてきた立場だろうから心苦しいのは分かっている。だが、お前にしか怜は救えない。俺の言葉は決して届かない」


そう提督が返せば、唯笑は悔しそうに唇をきゅっと締めた。そして首を激しく横に振った。


「私は、刹那さんにも生きてほしい。生きるべき人だよ、刹那さんは。だから一緒に逃げて、それで、」

「……ありがとう。だが、それは無理だろう」

「無理じゃない。ほら、逃がしてくれる気はあるんでしょ?だから、」

「無理だ。こいつ、多分だが、このまま放っておけば逃げおおせている一般人すら巻き込むぞ。一般人も安全圏に逃がすよう対応しないとマズイ」

「でもっ」


なおも食い下がる真白に、提督は、昔に弟から贈られて以降ずっと着けていたロケットペンダントを押し付けた。


「これは俺の我儘だが、見守ることすら十全にできていなかった間抜けの想いも、どうか引き継いでくれ。弟を、怜を、『軍』を、世界を、頼んだ」


唯笑には、何もできることが浮かばなかった。

目の前の提督を助けたいのに、彼は自身を犠牲に最善策を打ち出そうとしているのに、それを超える良策が全く浮かんでくれない。


怜を逃がしてなんとか『実現』併用の『心象魔術』を解除すること、志瑞司を含む一般市民を守ること。それが今しなければならないことで、提督の生存はあくまで唯笑のエゴ、我儘でしかないことを、唯笑自身が何よりも理解している。


提督の懸念は正しい。この『実現の魔女』を捨て置けば、奴は真っ先に志瑞司に止めをさそうとするだろう。もし志瑞司が死亡すれば、もう誰も止められなくなってしまう。そうならないように何としてでも妨害をしなければならなかった。だから、正直、提督の提案は渡りに船なのである。


しかし、眼前で恐怖心などまるでないように微笑んでいる男には、今までとても助けられた。


だから彼には弟と共に笑いあってほしかった。弟が一方的に彼を避けるような関係だとしても、世界が平和になってから時間をかけて解決していこうと思っていた。


……もう、そんな未来は、訪れない。


唯笑は、涙を拭い、そのペンダントを受け取った。

幾千の願い。幾億の想い。幾度も繰り返す度に積み重ねた決意。それに今、彼の想いが加わった。

未練だらけだが、唯笑は膝から崩折れている怜に肩を貸して立ち上がる。そして、後ろ髪を引かれるようでありながら、それでも決して振り返らないように、その場を去った。

桜坂市から出る描写がほぼなかった理由も、桜坂市以外の地名が出てこない理由も、これで判明しました。


誰一人として、世界中の全ての人間、地理、生物の詳細を完全に把握している人はいないと思います。

『高式暁』が世界の再生をするのが通例ですが、

・クリスに情報を制限されている

・周囲への興味関心がとてつもなく薄い

といった理由から、13年間過ごしてきた桜坂市ですらぼやけてしまうのは必然でした。

『実現』を倒せたとしても、その『世界』を元通りにはできません。

『決意』を使いまくった結果、こうなっているので、今更『決意』で解決できるわけではないのです。


万が一方法があるとしたら、『決意』も、『実現』すら超えたナニカでしょう。

『決意』を使えること自体奇跡なレベルの今の主人公には難しそうですが。

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