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同じ空の下で  作者: 桜油
6章
75/140

69話

こんにちは。


今日は高式暁視点です。


では、どうぞ。

僕は跳び上がった瞬間、『魔装』で銃を生成した。


黒守刹那は、本来、自力で開発した『加速』の魔術が強みの魔術師だ。

『魔装』の銃をメインに、自身の魔術に関する豊富な知識をフル活用し、『加速』を使用して隙を作る。対人戦では不敗という伝説を築き上げただけあって『加速』なしでも素の実力が高いのが更に厄介。『加速』の対策をしようにも、唐突に展開された略式の『加速』に咄嗟に対応できる魔術師はそう多くなく、対応しても倍率が魔術式からでは解析不可能。

『加速』を使われたら、『決意』で追いつくか、『否定』『容赦』などの異常性や『停止』などでメタを張るか、『加速』をこちらも使用するしか対策はできない。その上で『放蕩の茶会』が黒守刹那に『魔術師特効』の銃弾を用意したらしい、と情報があった。近接戦を挑めば『加速』による反応できない速度でフルボッコにされ、遠距離に切り替えれば特殊な銃弾を警戒する羽目になる。鬼に金棒である。


僕の本来の戦闘スタイルはナイフと死に戻りなのだが、ナイフだと黒守刹那相手に近距離……体術などで挑むことになるから、勝ち筋は少ないだろう。死に戻りは……死に戻りの原理を考えると、特殊な銃弾を見に受けてしまえば発動すらできなくなるかもしれない。『否定』で致命傷は避けられるが、あまり連発できるものでもない。故に、本来のスタイルを崩して僕も銃で挑むしかない、と判断した。


『停止』も、僕が見たことのない術式で克服されているし……まあ、後で参考にさせてもらうけど。


なんて考えながら、只管、黒守の頭部目掛けて連射した。若干遅れて黒守が同じく連射し、『停止』を解除した瞬間に僕の撃った銃弾全てに命中して弾き飛ばした。


瓦礫に着地した後、瓦礫を転々として互いに銃弾の軌道を読んで避け、『浮遊』を同時に展開。更に弾き飛ばされた銃弾は跳弾し、ネジに当たって天井が崩れる。流れ弾、崩れて落下してきた瓦礫を避けてきた先で黒守との距離が近づく。黒守も考えていることは同じなのか、互いに銃口を向けた。

再度『停止』。黒守は『適応』の効果で平常通り動いているが、構わず連射しあう。

僕は連射しつつ軌道を見て後ろに跳び、別の『魔装』魔術で生成していたのかワイヤーを天井や瓦礫に引っ掛けたり『浮遊』『風来』を展開したりして軌道から逸れていく。


黒守刹那が口を開いた。


「動きの読み合いだな。だが、同じ条件で俺に勝てると思っているのか?」

「さてね。けど、根比べなら、絶対負けない」


なおも連射は続く。


互いに着地し、『身体強化』を再度展開、走りながら互いに発砲しあっていると、黒守はワイヤーを再度天井へ発射し、銃弾を避けながら、上から『魔装』の銃剣で斬りかかる。銃身でそれを防ぐ。そのまま同時に発砲し、体を横に反らして避ける。着地した黒守が左腕で僕が銃を持っていた手を振り払い、銃口を僕に向ける。咄嗟に屈んで躱し、銃口を手で押し退けて僕も銃を向ける。黒守は体を後ろに反らして回避し、そのままの勢いで足で銃を蹴飛ばし、再度構える。『魔装』を略式で展開、生成したナイフで銃を弾き飛ばし、ナイフを『魔装』の銃に変更して発砲したが外れた。銃剣で銃はまた弾かれ、発射されたのを僕は大きく体勢を崩しながら下に避け、回転蹴りで強く黒守の銃を蹴る。黒守も大きく体勢が崩れ後退する。その隙に無理やり体勢を変えて発砲を試み、目を瞠った。黒守は後転しながら二丁拳銃を生成、両手に装備してそのまま発射する。


間に合わない。『土遁』で床を大きく陥没させて落下する。


すかさず黒守も上から飛び降り、僕も銃口を上に向けて連射する。途中の柱に着地して跳躍し、僕と黒守が至近距離まで接近する。そのままゼロ距離にほぼ等しい間隔で連射する。黒守は壁を蹴り、僕は床を蹴る。黒守が『土遁』で今度は床を隆起させ、上昇しながらも銃声は鳴り止まない。

元の高さまで戻った頃、黒守が立ったまま、手をついて座った僕と銃口を向け合うような状態になって漸く銃声は止む。互いに息が荒れて、呼吸の音だけが辺りに木霊した。

『停止』解除。僕の全身に、黒守の首や顔にスレスレの位置を銃弾は通り過ぎていく。周囲の壁や床に当たり、『土遁』の影響で生じた土砂による土埃が舞って何も見えなくなる中、僕は微動だにせずにただじっと構えていた。


その土埃が治まった頃、僕と違って息がすでに整った黒守はふ、と笑って銃を下ろした。


「ほらな。埒が明かない。……さあ、いい加減諦めたらどうだ?」

「……」


たしかに埒が明かないのかもしれない。だが、この一連の銃撃戦でわかったこともある。


僕は銃を投げ捨て、再度『停止』した。

黒守が「まだやるのか?」と顔をしかめた。

互いに睨み合った後、僕ははあ、とため息をついて徐ろに一丁の拳銃を取り出した。更に眉を顰めた彼に構わず、僕は自分の頭部に突きつけた。


「……な、」


黒守が目を瞠った。

僕は、引き金にぐ、と力を入れていく。黒守は焦ったように血相を変え、「だめだ!」と叫ぶが、お構いなしに発砲した。

銃弾は問題なく(・・・・)僕の頭を貫通した。


「……っ、暁!」


黒守が手を伸ばす中、僕は死に戻り(・・・・)、『決意』を使って無理やり『適応』の魔術式を破壊した。

黒守はびたりと動かなくなり、僕は床に手をついて息を整え、血を拭った。思いつきの作戦だったが、なんとか上手くいったらしい。


黒守は、僕に対し敵意がない。その証拠に、『加速』を一度も使わなかった。僕の全身を狙うように銃を撃っていたし、特殊な銃弾は一度たりとも使用されていないことも確信できた。警戒して一応弾き飛ばさないようにしていたが……銃弾を変えている様子がなかったのだ。


どうして敵意がないのか、それは分からない。そもそも『城月怜』や真白に対して思い入れが強そうだったけれど、少なくとも『今回』の『僕』に対して殺意を持って相手をするはずなのだ。なのに繰り出される攻撃は間違いなく手加減されている。間違っても殺さないように、身動きを取れなくするためだけに攻撃されている印象だ。


だからこそ、この作戦は通る。僕が銃で自殺を試みれば、黒守は心中はどうあれ、僕を助けようとする。あの銃弾を使わないからこそ、死に戻り前提の作戦を組んだ。そして、その隙をついて『適応』の魔術式を無効化するしか、僕に勝ち筋はない。手加減されてようやく互角……いや、手応えから考えるとそれでも押されていた、というべきか。


ゆっくりと立ち上がり、銃を構えた。黒守の頭部へ狙いを定めたが、……育の言葉が脳裏によぎる。


『たとえ『今回』ですべて終わるとしても。それでも……自分の心に素直でいてあげても良いんじゃないかな』


……たしかに、僕はこいつが苦手だ。


人の荷物も自分の荷物も、なんでもないような顔で1人で背負い込んで、でも実は誰よりも後悔と苦悩に溺れるようで、執務室で独り黄昏れて、挙句の果てには死に際に(呪い)を囁いてくるんだ。『前』そうだった。……『城月怜』や真白がそれに気づいてるかは知らないけど……いや、さすがに真白は気づいてるか。気づいてて『城月怜』を『軍』に所属させたのかもしれない。


……きっと、予測だけれど。

『今回』、『城月怜』が近くにいた。だから、彼奴には『頑張ったな』なんて子の成長を喜ぶ親父みたいなことを言って、『へえ、凄いじゃないか』なんて子の努力の結果を称える母親みたいに見守ってきたんだろうな。

彼奴にとってそれがどう見えたかなんて関係ない。ただ、僕が彼奴の立場だったなら、「そっちは任せた」「手を貸せ」って、対等に見てほしいと願うだろう。


要するに、育も言っていた通り、僕は諦めきれていないのだ。育の夢を叶える為に全てを捧げる覚悟はしてきたけれど、『明白に嫌われた正義』だとしても、僕なりに『正義の味方』でありたかった。

そんな僕にとって、きらきらしい『正義』の象徴だった彼はとても眩しく、僕にとっての光だ。


「……」


手が震える。もう片手で無理やり、銃を下に向けた。太腿に照準を定め、発砲した。

震える体を無理やり抑え、ぎゅ、と目を瞑る。


『停止』が解除され、銃弾が太腿に命中しー強く発光した。


思わず、な、と小さく声が漏れた僕に構わず、その光は僕の全身を包もうとする。抵抗むなしく全身が光に囲まれ、その光は鎖へと変貌を遂げて僕をきつく縛った。

全く身動きが取れない僕の前に黒守が姿を現した。


「保険を用意して助かった。あとでこれを思いついた怜には礼を言わないと」

「……っ」

「さて。俺を殺そうとしなかった辺り、君にも良心があるのだろう。せめて事情くらいは理解してやりたかったが……」


と黒守は銃を構える。瞳を赤く光らせた僕に、「抵抗は無駄だ」ピシャリとそう言い放った。


「これを発砲すれば、君は魔力の捻出も、生命活動すらできなくなる。何をどうしても逃がす気はない」

「……な、」

「心底意外そうだな。もしや、俺が敵意がないと考えていたか?強ち間違ってはいない。少なくともつい先程までは生かそうと思っていたとも……だが、埒が明かないから、生死問わず止めることにした」


その言葉に僕は自身の失態を悟った。


……侮っていた。

僕は黒守刹那という魔術師を侮って、軽んじて、油断して、見くびって、舐め腐って、疎んじて、蔑んで、過小評価していた。


僕の正体(・・)を悟った?僕の境遇に同情した?だからって公私混同するような甘ったれた魔術師なら、『軍』のトップを十数年も続けられるわけがない。裏社会の金科玉条はいつだって『それはそれ、これはこれ』だった。結局、僕は僕の想像の足る範囲でしか考えをまとめられていなかったのだ。僕の観測し得ないことなんてどこにだってある、そうでなきゃこの世界はこんなに詰んでいない。

ああ、甚だ烏滸がましい。分際をわきまえろよ、僕。


激しい後悔に苛まれている間に、黒守は言葉を紡ぐ。


「ほら、二兎を追う者は一兎をも得ず、というだろう?俺は不平等に助け、君を殺したという後悔は一生背負っていくことにする。君を救えなくて、助けられなくて、本当にごめんな。ああ、安心するといい。妹は大切に保護しよう。君を助けようと必死なようだが……あの動き、君がとても親切に裏に巻き込まないようにしていたのだろうな、止めるのは容易いことだと感じる。さて、辞世の句でもどうだ」

「ちがう、」

「何も違わない。というか、最期に言い遺すことはそんなのでいいのか?」


僕が漏らした言葉に黒守が呆れたように肩をすくめ、銃口を突きつける。

僕のこの心境なんて、きっと彼にはわからないだろう。

違う、そうじゃない、謝らないといけないのは僕の方……だなんて。

何を謝るというのだろう?

黒守の目がいつもより細められている。悲痛とも受け取れる感情が見て取れた。ただそれだけのことが、どうしてだか罪のように感じた。


たとえば……そう、『親不孝』。


そして、黒守は、引き金をー。

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